⑦-8
カワイコちゃんというフレーズからもわかるように、
室岡先生は明らかにヤバイ闇を持っている。
とはいっても…普段は温和で穏やかな先生であることには変わりないわけで。
おれは、教育係である室岡先生のいうことを、この2週間聞かなければならない…。
アカデミーコースの副担任という形で、おれは今日から授業をはじめることになった。
登校時間を迎え、生徒がぞくぞくとやってくるなか、職員室では朝礼が行われ、
おれたち教育実習生も、それぞれ各クラスに散っていく。
飯村さんはすっかり、彼氏(赤西のこと)のおかげで、
通常の冷静さを取り戻したらしく、
緊張とともに、穏やかな表情を浮かべていた。
ただ、おれと目が合いそうになると、下を向いてしまう。
泣いたから照れくさいのだと思う…が。
けどまあ女性の泣き顔なんて…ももてぃんで見なれてるけどな!!
飯村さんは巨乳巨乳と言ってたけど、おれが好きなのは「巨乳」のももてぃんだけではない。
性格も何もかもすべてが好きなんだ。
アイドルが好きっていうのもあながち嘘ではないけど、やっぱり…ももてぃんが一番好きなんだな。
フンワリしてておれの何もかもをすべて受け止めてくれるような…柔らかいおっぱ…いや!…柔らかい感じなんだ。
むふっ。
おっといけねえ。思わずヨダレが…。
袖口で口を拭き拭きやっていると突然、「もっち~」とおれの首に腕がからみついてきた。
その方向をにらみながら振り向くと、
目鼻立ちがくっきりした男前な顔が、一面アップに。
顔の距離が近いってばぁ…///
なんてドキッとしてしまったのは、気のせい気のせい…。
いい匂いもするナァ~なんて、気のせい気のせい…。
てか…ドキッとしたりなんかするわけないしっ!
赤西はおれの顔を見て、クスッと笑って「ほんとどこがいいんだか…」とつぶやく。
「は?」
「あ、いやいや…もっち~のことじゃないって。てか、もっち~さ。
リカを泣かせた罰として、俺とクラス替わってくれない?」
「は?」
何を言ってるんだコイツは。飯村さんを泣かせたからって、なんで赤西とクラス担任変わらなきゃなんねんだよっ。
それをそのまま言ってやれればいいのだが…。おれはにらみつけるので精いっぱいだった。
「いや~。もっち~ってば、怖ーい。冗談だよ、冗談。でもさ、協力はしてよ?」
「なにをだよっ!!」
おれは相手にしてらんねえと思い、そのまま歩きだした。
やっぱり赤西は…気にくわねえ。
こんなとき、隣に智毅がいたらもっと言ってやれるのに…!
「だからさ……俺、狙ってる子いるって言ってたじゃん。その子、アカデミーコースで、もっち~のクラスの子なんだよね」
おれは、歩みを止めた。
ずっと気になっていた…赤西の狙ってる子……?
まさか杏奈なのか?!
ガバッと後ろを振り向くと、赤西は余裕しゃくしゃくな顔で
「だから~その顔怖いって~」を笑っている。
「赤西せんせい~。おはようございまぁす~」
女の子たちが通りざまに挨拶をしていく。
赤西はそれこそとろけるような甘い笑みを浮かべて「おはよう、キティ(子猫)ちゃんたち…」と
言って、女の子たちはそれにキャーと黄色い声援をあげる。
そのまま女の子たちは、赤西の方を向いて立つ、おれの方へ向かってくるのだが…
お互いに顔を見合せたまま「…………」
無言で通りすぎていく……。
地味にショック!! いや、だいぶショック!!
いや…キモイのは自分でもわかるんだけど、無視とかしないで!
「こぉらっ!いたずらっ子のキティたちめ!! 持田先生にも挨拶しなくちゃダメだぞ」
赤西は、気をつかったつもりなのかわからないが変な同情をして、おれをますます落ち込ませる。
しかも、いたずらっ子のキティたちは、「はあい」と返事をしつつも結局俺には挨拶しないままだし。
赤西は、ふう~と大きくため息をつくと首を振り振り、両手のてのひらを広げたジェスチャーをする。
困ったね、と下がり眉で言ってるが、楽しんでいる様子がおれには伝わってくる。
おれはそういうのにけっこう敏感だからよくわかるのだ。
赤西はおれを下にみて、絶対笑っている。
「まあさ今みてもわかるように、もっち~はそんなにモテるタイプじゃないから安心はできるんだけど、
安心っていうのは…もっち~とその子がどうにかなるっていうことのね。そうはいってももっち~は一応オスな訳だから…狙わないでよ?」
「だからっっ誰だよ!!」
「まあまあ、そんなに熱くならないでよ。お昼食堂で食べるだろ? そんとき話すよ」
赤西はフフンと俺を見て笑うと「リカはしばらく他の女の子たちと食べるってさ~」と言って去っていく。
ということは、今日のランチは赤西と2人きりなのか…。
はあ…たまらなく気が重い…。
そうこうしてるうちに、アカデミーコースの教室に着き、
チャイムと同時にクラスに滑り込んだ。
えーっとキョロキョロ生徒たちを見まわして、…思わず探してしまう。
杏奈……いた!
俺から向かって右奥の…窓側のうしろの席。
掃除道具入れの前に、頬づえをついて座っていた。
杏奈の制服姿は新鮮というか……なんか嬉しいぞ。
なんだこれなんだこれ…。
見知った人がいるだけで、落ち着くこの安心感…。
しかも…家では兄と妹で…。背徳感もちょっぴり感じてドキドキしてしまう…。
ん?背徳感? なに言ってんだ、おれは。
首をふるふる…と振って、気を取り直す。
「持田先生、どうかしました?」
室岡先生が心配そうに俺の顔をのぞいた。




