⑦-6
「な、なんのことだい?」
俺は思いっきり目が泳ぐ。
それをまぎらわすように口笛を吹く真似をした。
猫村タミーはそんな俺を見て、思いっきり鼻で笑う。
「…カァ…よくやるわい。人間は猫とは違って、1年中盛ってるんやなあ。
なあ…サンキチ、トンペイ」
首輪でつながれてる猫のうち2匹がミャーと同意するように鳴いた。
くっ。サンキチにトンペイまでも!
俺だって、このまま言われっぱなしではない、仮にも教師なのだ!
一時的ではあるが、猫村タミーの担任の先生でもあるのだ!
「人のことはいいから、今日学校来いよ! けっこう無断欠席多いんじゃないか? 良くないぞ」
よし!教師らしいことが言えた(ドヤッ!)
「集会があるんや~。そっちに比べたら、学校なんて…屁みたいなもんや〜」
いまなに? 屁? 屁って言いました、この子?
あの天下の有名お嬢様学校静蘭をですよ? 屁って…屁って…へえ…へ?
「はあ…一刻も早く借金地獄から抜け出して、ほんもんの猫になりたいわあ」
猫村タミーはハアアと重苦しいため息をついた。
異常事態と感じたのか下の猫たちが騒ぐ。
俺はたじろいだが、なんとか続けて言った。
「アイドル活動ももちろん重要だ!だけど君はまだ高校生なんだ。やるべきことをやりたまえよ」
「だったらあんさん、ワシのグッズ買うて、貢いでくれ」
「だからあ…そういうことじゃなくってぇ!」
猫村タミーは、目を光らせて
「ももてぃんの彼氏だってこと、みんなに言ってやろうかあ?」と脅しをかけてきた。
「だからあ…そういうことじゃなくってぇ!」
俺は困り果てた。
よりにもよって、こんなやっかいな奴に、俺の最大の秘密がバレてしまった!なんて。
そういう俺を見かねてか、
猫村タミーは「うそや」と即座に言った。
「学校にはしゃべる相手もおらん」
少しうつむき加減に自嘲する猫村タミー。
その姿に、俺は(普通の)16歳の女生徒の片りんが見えた気がした。
そういえば…猫村タミーは同じアイドル仲間の杏奈やまりあにも、「変わってる」と言われて距離を置かれていたな。
そういう子はどのクラスにもいる…。
きっと学校になじめないのだろう…人間の友達がいない。猫しかいないのか…。
「……実習で2週間しかいないけど、その間は俺のためにも来てほしいな」
「……気がむいたらな」
猫村タミーは、フッと寂しそうに笑うと猫を連れて帰っていく。
半纏の背中から哀愁が漂ってきて、俺は反射的に言っていた。
「あのさっ!」
猫と一緒に後ろを振り返って俺を見るタミー。
「買うよ! 闇闇ガールズの猫村グッズ。そんなたいした量じゃないけど!」
「ほんまに?」
猫村タミーが満面の笑みで俺に向かって笑いかける。
えくぼができて、ぱっ!と花が咲いたような…笑顔だった。
(うっ可愛い)
俺の胸がきゅん☆となる。え? なんだこれ?
俺いま、ときめいた系? あの猫村タミーにときめいちゃった系~?
胸を抑えて、冷静に深呼吸をする。
「あんがとな、あんさん。じゃああとでグッズカタログ持っていくから、よろしゅうなあ」
と、そのとき、トンペイが俺の方へ向かって突進してきた。
「きゃっ!」
持っていた首輪が引っ張られて、猫村タミーも俺の方へつんのめり…。
俺は思わず抱きとめた。
「あっぶな~」
俺の胸の位置にある、猫村タミーの頭。
(猫村タミーは案外と小柄なのだ)
ぐりぐりぐり……と俺の体にドリルのように旋回してくる。
「痛いぞっ! なにやって」
「見んな!」
猫村タミーは下を向いたまま、震える声で叫ぶ。
「あんさん、10秒間目つぶっとけやああああああ!!!」
え? 逆切れしてる……なんで?
俺は言われるまま目をつぶると、猫村タミーは俺の腕からするりと抜けて……。
10秒後にはその場にいなくなっていた。
相変わらず訳がわかんない猫娘だ……俺は小さくため息をついた。
教育実習が始まってから見計らったようにいろいろあるなあ…と頭をぽりぽりかいて、
俺は学校に向かう。
杏奈も…猫村タミー…も、今日学校に来てくれるのだろうか。
ロリコン赤西が好きな女の子とは…誰なのか、やっと今日決着がつくかもしれない。
杏奈じゃないといいな…とずっと思っている。
赤西だからそう思うのか……
だったら…あの写真の男が杏奈のことを好き…といったら、俺はどう思う?
写真を見てからというもの、ずっとモヤモヤしている俺。
知り合ってからたった半年の付き合い(家族)なのに、もう兄貴面してる…。
うっざい兄貴だよな。
と俺の心の声がささやいた。




