⑥-9
悲劇の自己紹介タイムが終わり、それぞれ教室に向かうことになった。
他大学の教育実習生(主に女子)の視線が痛い…。
まちがいなく、アブナイ男と思われてるのだろう。
だって半径1メートル以上、近づこうとしないんだもん!(涙)
いや、本当に危ない男はおれじゃないぞ! 赤西なんだー!
と声を大にしていっても、誰も聞く耳をもたないだろう。
虹色列車にのってハッピー駅がなんちゃらかんちゃらで、好感度をグイっとあげてしまった赤西。
マジでミ○キー様のご利益とかあるんじゃないかと思うほどの、人気レベルだ。
実はロリコンで、女遊びの派手なちょいゲ○男なのに…。みんな、だまされるなー!
それに比べ、このもちゃ顔男が
「魔法にかけられて、あんなこと言わされちゃっただけ!」と頭ポリポリしてみせたとする。
はい……間違いなく迷彩色列車でホスピタル行き…だね。
俺がモヤモヤウジウジしてるのに、赤西と飯村さんはいたって上機嫌だった。
飯村さんも、普段になく、喜怒哀楽をあらわにしている…。
「がんばろうね」とおれに微笑みかけてくれるし。
その横で「リカ、その調子だよ!」とコソコソと耳打ちする赤西。
な~にが、その調子だよ!
2人でいちゃこらしてんじゃねえ!
こんなとき、智毅が恋しくなる。
おれは常に智毅といたからな……。いい加減、智毅離れもしなくちゃいけない…とわかっているのだが。
赤西は2-A担当。飯村さんは2-C担当。
そしておれは国語の専任講師として、普通科2ーBを受け持つ予定になっていた…。
それぞれの教室で別れ、ふうっと一息ついて、2-Bのドアを開けようとしたところ…。
指導担当教諭の室岡先生から肩をたたかれた。
「ちょっと待って。持田くんは…変更になったんだ」と告げられる。
息が荒い。この緊急事態に走ってきたのだろう。手には一枚のプリントを持っている。
「え?」
おれはとまどってしまう。だって……事前打ち合わせでは2-Bだって……。
「ふむふむ……? アカデミーコース? あれ? 芸能科だよ!」
大石のババアの仕業だ…! 俺は直感した。
「こっちだ!」歩き出した室岡先生の後を追っていく。
「彼女がいるからなのかな? 良かったねえ。便宜をはかってもらえたんじゃない? あんなに自分の欲望あらわにした教育実習生って今までいなかったから」
天然パーマかかった髪をふわふわさせて、嫌味なく(たぶん)本音で言って下さる室岡先生。
すみません、そのフォローはおれにとって…は正直辛いっす。
彼女がいるから。とかじゃあ絶対ないです。
大石のババアが面白がって変更しただけっす。
第一、おれの彼女はももてぃん。今ごろ、会社で仕事してるはずですから!
って言えたら、どんなにスッキリすることか!!!
「けどなあ…ちょっと大変かもしれないね、このクラスの担任」
なんでもなさそうに言う室岡先生だったが、その表情は眉が下がった困り顔をしていた。
「え?」
「ちょっと個性強い子多いんだよね。まあ、アイドルやってるから自然とそうなっちゃうんだけどねー」
「たとえば誰ですか?」
「え……だって……彼女いるんでしょ?」
室岡先生が申し訳なさそうにおれを見る。
「それはいいから!!」
「えっと、やっぱり根本民江かな。猫好きなのはいいんだけど。自分が猫の生まれ変わりって信じてるから、ちょっとやりにくいよね」
まさしくねこむらタミーのことだろう。朝会ったときも猫の散歩してたし!
「まさか、教室にまで猫を連れてくる……とかですか?」
「それはさすがにないけど……くすっ。まあ、実際に見てみなよ」
その…くすっ。は、なんだ?? なんとなく不安が募る。
「あとはねえ……宮田まりあ、この子、三つ編みメガネしてるから一見地味に見えるけど。丸菱財閥のお嬢様でめっぽう気が強くてね~。教師もたじたじなんだよ」
…わかる気がする。おれもたじたじになったもんな、正月のとき……。
「あとは……その友達の三上杏奈かな……」
歩いていた俺の足が立ち止まる。
「え?」
「三上杏奈って……え! え! まさか~持田くんのかの」
「違います!」おれは即答した。
「違うよね~。あの子、男嫌いっぽいから」
「……男嫌いなんですか?」
「う~ん……まあ、僕みたいなオジサンには普通に接してくれるけどさあ、ちょっと若い男の先生だと口聞きたくないって感じだし……」
「……」
「すっごい美少女だからさ、その分嫌な思いもしてるのかもしれないね」
都さんが前そんなことを言っていたような気がする。杏奈は過去に何かあったのか…?
あの写真の男と?
今夜あたり都さんに聞いてみようか、と顎に指をのせながら、おれは考え込む。
「真島さんといい勝負だよね。真島ジュリエッタさんと」
「へ?」
「え、三上さんは真島さんといい勝負って言ったのさ」
「えっ!! マシマさん、いるんですか??」
心なしか声が弾んでしまう。
今まで誰にも言ってなかったが、おれはひそかに、マシマさんもファンだったりする。
あの金髪碧眼の美少女は……ろくろっくびという残念な変身をとげるが、
首を伸ばしたあとの、上気して目がらんらんとして輝かんばかりのあの笑顔に、ちょっぴり心惹かれもしちゃったのだ。
というか、もちろん一番はももてぃんだけどな!!
おれ的には、①ももてぃん ②マシマさん ③ねこむらタミー、よこはまジュリー かなって。
なに、ランクつけてんだよ! おれ!
頭をぷるぷる振っているおれに、室岡先生は「青年期は悩みがいっぱいだよね~」と髪をふわふわさせながら訳知り顔で言ってくる。
「とにかくさ、教師も人間、生徒も人間。人間同士なんだから、話せばたいていなんとかなるんだよ」
とありがたいお言葉までいただいた。
うん……。でもそのなかには化け猫やろくろっくびもいるけどね。
とおれは心のなかでつっこんだ。
「と、ここだ」
室岡先生が立ち止まる。
気が付くと、廊下の奥まで来ていた。しまった、この場所はどこだ??
中から「あああああ~♪」と発声練習らしき声が聞こえてくる。
「じゃあ、入ろうか?」
室岡先生は、天然パーマの髪をふわふわんとたなびかせ、いきなりドアを開けた。
「おらー!! 授業すっぞー!!」
ひえっ! 室岡先生! キャラが違うっ!




