⑥-7
にらみつけている俺の視線を誤解したのか、
赤西は「これ? このスーツ、超カッコいいだろ?」とその場でくるりんと回転してみせてくれる。
(ちげーよ! お前の鈍感さにあきれてんだよ!!
なんだよ、そのジャ○ーズみたいなターンは! カッコ…よくなんか、全然ないもん!……ムッキー!)
俺のイライラがピークに達したとき、職員室のドアが再びガラリと開いた。
…飯村さんだった。
飯村さんは白のフェミニンなブラウスに、黒いシックなスーツを着ている。
髪はうしろでおだんごにまとめて、黒ぶち眼鏡をくいっと上げて、俺たち2人を見つめた。
いかにも「センセイ」という感じだ。
「わお! リカ! 似合ってるじゃ~ん!」
きゃいきゃいと騒ぎだす赤西。
「おはよーございますぅ」
次から次にやってくる他大学からの教育実習生たち。
男も女も黒スーツをきているが、自分の個性で着こなしているので、
まったく「着られてる感」がなかった。
雑誌から抜け出してきたような、今風の大学生のおにいさんおねえさんだった。
俺は愕然とした。なんだ…このくたびれたおっさんみたいな俺っちはあああ!
だぼだぼっとしたスーツがいかにも…な、それこそくたびれたリーマン風だ。
ノリのいい赤西はさっそく、他の女どもに群がられているし、
飯村さんはそのなかで、同じ静蘭出身の元クラスメイトを見つけたのか、いつにもなく明るい表情で語りあっている。
俺だけぼっち。
教室の片隅でぽつんとたたずんで、無理矢理口角を上げるので精いっぱいだった。
普段は智毅と一緒で…なにをするにも智毅と一緒で…。
人の輪に入れるような積極性もなく…人見知りで…目が泳いじゃって…
こんなウジウジしてて…俺って俺って……。
そのとき、スマホが震えた。
手に持って画面をひらくと、ももてぃんからLINEがきていた。
「瞬くん! 今日いよいよ初登校だね! ファイトだよ!
最初は不安なのは、みんな一緒。笑顔を忘れずにネ(^^)/ 桃子」
ああぅ…ももてぃん…超好き。大好き。めっちゃ好き~~♪
俺の心もきゅんきゅんきゅん♪弾けちゃいそうだyo~~♪
「誰から?」
顔はムフムフで心はモフモフとゆるみきった俺のそばに、いつのまにか飯村さんがきていた。
「おわっ」驚いてうしろにさがってしまう。
飯村さんは、そんな俺にかまわず、画面をのぞきこもうとしていた。
「あ、いや……えっと……」
言いよどむ俺と、俺の答えをじっと待っている飯村さん。
アンテナを察知したのか、赤西までやってきた。
大事そうにスマホを抱える俺に、ふむふむと感心するような顔をする赤西。
「リカ~。長期戦でいけって話したろ」
「……」顔が真っ赤になる飯村さん。
「草食動物は、じょじょに進化していくものなのっ! キリン思い出せよ! キリンを!」
「……わかってるっ!」
ぷいっと顔をそむけて、教室から出ていってしまう飯村さん。
(???????)
俺の脳内メーカーが「?」でいっぱいになる。
草食動物、キリン???
赤西は俺の肩に手をぽんっと置くと「もっちーってば、けっこう罪なオトコ」と言うと、
フンッと鼻で笑った。
「はあ?」いらだったような声が出てしまう。
「もっちーほど鈍感な男ってなかなかいないよね~」
赤西はちっと舌打ちめいたものをすると、きびすを返して飯村さんの後を追うような形で、教室を出ていった。
はああ???それはお前だろ!!さっき邪魔したのは誰だよ!!
飯村さんに問い詰められそうになるわ、赤西にはなんか嫌味を言われるわ……。
前から2人でなにかコソコソ話合ってるのは知ってたけど、俺の前でやらなくていいぢゃん…。
といじけてしまう俺だった。
あ、そうだ。ももてぃんに返信しようと思い、ありがとうのスタンプを押す。
そして…ここ数日ももてぃんからもちかけられていた相談を思い出す。
「トマトちゃんが抜けてから、闇闇ガールズも4人組になって……人気が落ちてきた気がするの。
大石さんはなにか策があるようなんだけど……。
闇闇ガールズ、もっと続けていたいなぁ」
トマトちゃんが彼氏とS○Xして魔法が解けて、そして闇闇ガールズからも脱退するかたちとなった。
あかしろトマト……彼女はおきゃんで、はつらつとした印象が良くて、
闇闇ガールズを表だってけん引する立場だった。
まさか、彼氏がいたなんて。そして借金もあるのにまさか…S○Xしてしまうなんて。
だれも思ってなかっただろう。
裏事情を知らない、闇闇ガールズファンは、
「地元の愛媛にかえって、ミカン農家の手伝いをする普通の女の子になりたい」という、
大石さんの大嘘情報を信じていることだろう。
ミカンはミカンでも、いま屋台でミカンクレープやミカンヨーグルトジュース(タピオカ入り)を、
彼氏と一緒に作ってるなんて、夢にも思わないだろう。
そんなわけだから、ももてぃんも不安を抱えていた。
せっかく闇闇ガールズが軌道にのってきたところなのに、さっそく試練がおそいかかってきたのだ。
そんな辛い状況のなか、俺に「ファイト!」ってLINEをくれるとは!
ももてぃん…はなんて優しいお姉さん…いや、彼女なんだろう……。
だから俺も「ありがとう。ももてぃんも大丈夫! トップアイドルに絶対なれるから!」と入れた。
そして調子にのって「大好きだよ」とかハートマークを入れようとしたけれど(照)
「全校生徒および教育実習生は体育館に集まってください」という校内放送が流れて、
仕方なくスマホの電源を落とした。
全校生徒の前での挨拶。杏奈とまりあはいないけれど…緊張する!!
俺は顔をぱんぱんったたいて、頭の中を切り替えたっ!!




