⑥-5
教育実習の初日は、どんよりとした曇り空だった。
今日は初日ということもあり、1時間前には静蘭に着いておこうと思い、
特別に早起きして、家を出てきた。
現在朝の6時である。
しかし今の時間、学校が開いてるかどうかも定かではない。
どうにもこうにも、気持ちが落ち着かないのでついつい…出てきてしまったのだ。
開いてなかったら、近くの公園にいてもいいな。
心配のタネは、やはり…アレだ。
もちろん、はじめての教育実習に対するプレッシャーや、大石さんとの絡みの心配もあるが…。
…赤西のことだ。
杏奈とまりあは、翌日ロケ先から直接学校に向かうことになったという。
結局、杏奈とは連絡がとれず、赤西のことを話せずじまいになってしまった。
まあ……俺の考えすぎっていうのもあるかも。
赤西がまさか杏奈を好きに…なるなんてないよな。
あいつの今いる彼女たちは、いわゆる○ッチタイプだもんな。
杏奈はそういうタイプじゃないし。
どうみたって、あいつの趣味とはかけ離れてるよな。
頭をふるふる振りながら、スーツ姿でとぼとぼと静蘭に向かう。
しかし、心の底に沈殿してるモヤモヤは、消えそうもない。
智毅に相談したいところだが……「赤西と杏奈かw お似合いじゃね!」とか言いそうだ。
智毅は2人が苦手だから、俺の繊細で微妙な気持ちをわかってくれそうもない。
ももてぃんに……は、この手の相談は、ちょっとできそうもないな。
俺「義妹のことが好きな男が○ソ野郎…!かもしれない」
ももてぃん「へ、へえそうなんだ(え?瞬くんてばシスコンなの? キモーい)」
みたいな展開になったら、俺…泣いちゃうよ。
しばらく考え続け、
とにかく、この2週間はできるだけ赤西を見張ろう!
そう、結論をくだした。
うんうんそうしよう!と固くうなずく俺の足元に、とつぜん猫がにゃ~んと擦り寄ってきた。
見事なまでの黒猫である。まだ成猫ではなく、子猫サイズだった。
(おお! 猫だ!)
昔、犬のりんたろうを飼っていた俺。
動物はけっこう好きで、猫も例外じゃない。
しゃがんで思わず猫の喉に手をやった。ゴロゴロ鳴らす。
猫は…気まぐれでときどきかまってちゃんなのが、可愛いんだよな…。
思わずにんまりしてしまう俺。
ん? 気まぐれでときどきかまってちゃん?
頭に杏奈がよぎったが、「いやいや…あいつは可愛くないし。すぐ俺の手にかみつくだろうし」と思いなおす。
でもさびしがり屋ではあるんだよなあ…。
左手の腕時計を見て、そろそろ学校に行かなければと立ち上がった。
と、そのとき
「ジジィ~ ここにいたんだァ」
だみ声が俺に向かって降ってきた。
じじい??
振り向くと、ちゃんちゃんこを着たねこむらタミーが立っていた。
正月に見たときと同じように、首輪をつけた猫を5匹連れてボサっとつったっている。
今にも鼻をほじりそうな…雰囲気があった(すごく失礼だが)
髪は寝ぐせでボサボサ。これが「闇闇ガールズ」のねこむらタミーだとは!
普通から見ても、これないわ~と思うほどの、女を捨てたしなびた格好をしていた。
「ジジィ~。ほら、帰るよん」
その言葉で、ジジィが俺ではなくて、足元の黒猫のことをさしていたことに気づく。
(ちょっとホッ)
「おじさん、猫好きなんか~」
「……へ?」
「だから~。おじさん、猫好き?って聞いとるんだけど」
いやいや……おじさんって誰のことだい?
俺はあたりを見渡す。
「ぷーっ。おじさんって言われるのが嫌なんや~。にいさん、って呼ばなあかん?」
ねこむらタミーがへへへ…と笑う。
上の前歯が1本抜けて歯抜けになっていた。
コントに出てくる芸人のように、ちょっと間抜けだ。
とてもじゃないが、「アイドル」ではない……(泣)
「うちの猫は、気にいった人しか懐かないんよ。にいさん、気に入られたな。良かったなあ」
ねこむらタミーは、黒猫ジジィをつまみあげると、首輪をかちんとつけた。
「じゃあ、にいさん。ほなまた」
猫たちがちらちら俺を見ながら、連れられて行く。
いや……
ねこむらタミーは俺の彼女じゃないからね。
ねこむらタミーは俺の彼女じゃないからね。
大事なことなんで2回言いました。
ライブのときに、智毅の前でそう口走ったことを思い出して、頭のなかで必死に否定した。
あれを聞いてたのは、ももてぃんと智毅だけ。
それに、いまのがねこむらタミーだとはわからないだろう。
ねこむらタミーは、メタモルフォーゼをするんだから。
というか、ねこむらタミーも……静蘭生だったorz
これから、学校で会うんじゃん。
俺の心配のタネがまたひとつ、増えてしまった。
しかし、そんなことばかりを考えていられない。
俺の長年の夢である教師になるための、夢の第一歩ということを忘れてはいけない。
俺は気をとりなおして、学校に向かって力強く一歩踏み出した。
そして…生徒たちの前でする自己紹介を考え始める…。




