⑥-3
生唾をごくりと飲み込み、おそるおそる学園長室のドアをノックして開けた。
(ん?)
俺の第一印象は…こんな感じだった。
「失礼します」と言ってドアを閉めて、一礼する。
1席だけ用意された椅子の横に立つと「どうぞおかけなさって」という声がして、その通りにする。
ふうっと一息つくついでに、改めて真正面を見ると…。
マホガニー調のどでかい机に、両腕を下ろしてニコニコ笑うおばあさんがいた。
(ぜったい……どこかで見たことがある!)
俺は確信した。
品の良い紫スーツに、頭はおだんご。うっすら化粧をほどこして、目には黒ぶちの眼鏡をかけていた。
好奇心旺盛そうな瞳が、キラキラと俺を見つめてくる。
「お久しぶりね」
「っ!! へっ!」
不意打ちだった。やっぱり…会っているのか。
でもどうにもこうにも、俺は思いだせなかった。
「わからなくて当たり前よね~。だって、1回きりしか会ってないんだもの」
「……どこで?」
「ももてぃん」
「は?」
俺は顔面がひきつった。なんでこのばあさんが「ももてぃん」なんて。
きっと、言いまつがい…ははは! そうさ、きっと言いまつがいだ…!
「……の彼氏なんでしょ? アンタ」
そのババア(すでにババア呼ばわり)は、俺に向かって「アンタ」とのたまい、
ククク…と含み笑いをしてきた。
「隠れてコソコソやってたって、こっちは全部お見通しなんだよ!
借金返し終えるまで、アンタたち、S○Xなんてするんじゃないよ!」
頭がクラクラしてきた……。
あれ? 俺、今日は教育実習の……面接に来たはずだよな。なのに……なんで?
そのとき、ふっと俺の頭をよぎる光景があった。
去年の大みそかのライブで、隣に座った品の良いおばあさん……。
まさかまさか…?
目を細めてよおおく見ると、まぎれもなくあのときのおばあさんだった。
「思いだしたようだね。あっちもこっちもポンコツかい?」
でも…このババア……あのときは上品な言葉使いだったのに、なんでいま……。
猛烈に毒舌はいてるんだ? キャラ違くねえか? それに…俺はポンコツじゃないっ!
「なん……で、ココに?」
「私はここの理事長だからさ。表向きはね」
「…………」
「調べによると、マリアンヌ三上杏奈の義理の兄だって?」
「…………」
「桃子の彼氏でもあるしなあ。ここんとこ、私の周りをうろちょろと……。
あー面白い。何してくれるんだろうね?」
「何も……しませんよ」
頭の中では、完全にこのババアが誰だかわかっていた。
魔女の大石さんだ。ももてぃんはじめ、「闇闇ガールズ」に魔法、いや呪い(借金地獄)をかけた
超本人だった。
わかってたら俺…来なかったのに…(涙)
今さらながら、リストに俺の名前を書いた智毅をぶっとばしてきたくなってきた。
「闇闇ガールズに欠員が出てしまったのは……アンタもこのあいだのライブで知ってるだろう?」
「はい……」
そう、トマトちゃん…(泣)
魔法が解けてしまったと…涙ながらに語って、脱退をしたのだった。
原因は…彼氏とのS○X。ついに…ついに…彼氏も血を吸われるだけでは飽き足らなくなって、
トマトちゃんを押し倒してしまったのだろう…。
明日は我が身でぶるぶる…と震えてしまった俺だった。
ちなみに借金はまだ残ってるらしく、2人でこれからも地道に働いて返していくのだと、
ももてぃん経由で聞いていた。
「まあ…そんなわけで、この学園から1人選ぼうと思ってるわけ。
三上杏奈もその候補の1人なのよね」
「……っ!!!!」
「あの子も闇を抱えていそうだし、水木しげるが好きって公言してるくらいだし妖怪だって好きなはず。いい人選だと思わない?」
「絶対っ! 止めてくださいっ!」
俺は椅子から立ち上がり、大石さんにつめよった。
「あいつは、そんな……だって今、マリアンヌだってやってるわけだし。そんなことしたら…俺、絶対許さないっ!」
机にバーンと両腕を打ちつけた。
脳天までビリリときたが、そんなのは関係ない。
「暑苦しいわね~。あっちお行きなさい」
大石さんは俺の胸をトンと人差し指でつっついた。
すると……足がひとりでに椅子の方に向かっていく。
「!!!???」という間もなく、座っていた。
反対に立ち上がろうと思っても、立ち上がれない…!
「言ったでしょ。私は魔女だって。変なことしたら反対にアンタを魔法にかけてやることだってできるんだからね。ねずみ男まで、まっしぐらだよ!」
ねずみ男…。
「まあ…アンタが教育実習来なきゃ来ないで、杏奈は私の思うがままだし。桃子のことも…いくらだって、できるしね」
半分脅しじゃねえかっ!
怒りに震える……魔法にかかっていない上半身で握りこぶしをつくった。
「おれは…もちろん、行きますよ。ただ、なんで赤西も…メンバーに選んだのか」
「ああ…アイツね。ずばり、面白そうだから。アンタと同じ理由だよ」
吐き捨てるようにのたまう。
「アイツがこの学園をかき乱すのはもう目に見えてるわけ。
それを止められるのか…? 持田瞬? 私はそれが見たい。以上」
大石さんが右手をくるっとその場でひねると、
俺の足は再び、立ち上がりロボットのように操作されてドアまで動き始めた。
ドアを開けたとたん、魔法が解けてその場に崩れ落ちる俺……。
こ、こええええええ~~!!!!!!!!
絶叫するのを、どうにかこらえたのだった。




