⑤-9
なだれ落ちてきた本やらDVDやらが、俺たちの頭に降りそそぐ。
「いてててて…ん? なんだこれ……」
智毅が俺を壁ドンしてた右手を外して、落ちてきた本を拾った。
万事休すだ…!お、俺の(隠していた)性癖が……あうあう…。
目をつぶって、智毅の失笑に耐えようとした俺だったが……。
「おいっ、瞬! 誰だこれ? なんだよ!!これっ」
智毅があわてふためいた声を出して、瞑想?をしている俺をゆさぶる。
「リリカじゃないかっ! これっ!リリカじゃないのかっ!!」
目をうすく開くと、上気して真っ赤になった智毅の顔が見えた。
「へ?」
「リアルなリリカが俺の前にやっと……!俺の前に!……ぐすん」
智毅が右腕で目をこすっている。…泣いているのだ。
持っている本に目をやった。
…それは、ももてぃんが表紙になった「闇闇ガールズ」のファンクラブ会報誌だった。
「俺、夢見てるんじゃないよな……。リリカが、現実にいるなんて。俺のリリカが…」
変身した後のももてぃんを見たとき、確かに誰かに似ているような気がしたのだ…。
それは……「萌えっこキャンパスライフ」の小田島リリカだったんだ。
顔が…とかじゃない。雰囲気なのだ。
おっとりとした、ふわんとした包みこまれるようなオーラが、共通してるのだ。
言葉づかいだって、綺麗だし、なにより……2人は俺たちよりも年上の巨乳だった。
「うあああ…!!神様!ありがとおおっ!! 俺に!俺の前に、現実のリリカがっ!やってきましたよぅ!」
うああああ……と泣き叫び、窓にむかってお辞儀をしまくる智毅を、呆然と見ていた。
挙句の果てに、智毅は俺の胸のなかにもたれかかってくる。
やめろよ…。俺のシャツが濡れちゃうじゃないか…。
そう思うが、智毅をはねつけることがどうしてもできなかった。
よかったな…と声をかけるべきなのはわかってる。しかし、ももてぃんは俺の彼女なのだ。
その事実を知ったとき、智毅は…また絶望してしまうんじゃないだろうか…。
正直にいうべきなのか…。どうしよ、ももてぃん。
そのとき、「ちょっと、うるさいんですけど。なんかキモイ声が聞こえて、テレビの音が聞こえない~」
杏奈が俺の部屋に入ってきた。
そして俺の胸のなかでさめざめと泣いている智毅と、それに左手を軽くそえている俺を見て
「…………」
バタンッ。無言でドアを閉めた。
「ちゃう(違う)!誤解だ!!杏奈、誤解だからっ」
杏奈は再びドアを開けて「キモイぃ」と顔をゆがめながら入ってきた。
俺は、智毅の肩を両手で押しだす。智毅は、小指で目の端をぬぐっている。
そのしぐさが、なんともまあ…色気があるのなんのって。
まあ、それはどうでもいい。
「瞬。これ誰なんだ? 誰だよ、この子。俺も……このファンクラブに入るっ!」
杏奈がファンクラブという言葉にぴくっとなる。
そして、ずかずかと俺たちの方にやってくると、智毅から会報誌をひったくった。
「なにコレ? ……がーるずぅ??」
ああ…杏奈は、中学からアイドル活動をやってることもあって、普通の高校生よりも…
まあ、いくぶんかは……漢字が読めない…。
「やみ、だよ。英語でyummyってあるだろ。おいしいっていう意味なんだけど。そのヤミーとかけてるんだ」
杏奈は聞いてるのか聞いてないのか、険しい表情でページをめくっている。
「うっわ。なにこれ。趣味わるう。平成の変身少女軍団?私たちにみつぎなさい…?あなただけに天国見せちゃわよッ…ってなにこれ、なにこれ…だっさーい」
杏奈が情け容赦なく、ディスっている。ここらへんは毒舌まりあの影響もあるだろう。
あるページで手を止める。
「猫村タミー? ん? 猫村? タミー?」
タミーのインタビューをじいっと見ている杏奈。
そういえば、猫村タミーは杏奈とクラスメイトなんだったっ!!
変身後がのっているとはいえ、変身前とそう変わらないはずなのだ。
猫村タミーの正体がわかる前に、今度は俺が杏奈の手から本をひったくった。
ひらひらと、その間から挟まれていたチラシが舞い落ちる。
「闇闇ガールズ、七夕のおねがいごと。ご主人様~どうかわたしたちを恋する人間にしてくだちゃいっ~」
それを、蚊をとるように(さしずめ、まっ黒くろすけをとるメイちゃんのように)
ぱしんっと叩いてとったのは智毅であった。
智毅はそのチラシを顔の前にもってくると、まじまじと眺めた。
「……俺、行きたい。てか、俺もファンクラブ入会したいっ! 瞬、スマホ貸して…?」
魂が抜かれた虚脱状態でへへへ…と笑いながら、俺ににじりよってきた。
「ちょっと待て、ちょっと待てよ? 智毅。冷静になれ」
「えっ、にいに? まさかこのファンクラブ入ってるの? うそでしょ? なんで?」
それは……ももてぃんと早くヤリたいから…じゃなくてっ!(汗)
一刻も早くももてぃんの借金を減らすために…だから? ん、だから?
このとき、俺の胸のなかに一つの妙案が思い浮かんだ。
それは…悪魔のような……
いや、だめだ。そんなこと。俺はなにを考えてるんだ。そんな…。
「どうしちゃったの、にいに? なんで…こんな……落ちぶれアイドルなんかのファンクラブに…」
「落ちぶれじゃないっ!! 決めつけていうんじゃないっ」
怒鳴るつもりはなかったが、杏奈がびくっとたじろいだ。
「……杏奈が頑張ってるように、この子たちだって……。大事なものを捧げて、毎日努力して、ときにはバイトだってして、しゃっき、いや、お金を稼いでるんだっ。だから…そんなキモイとか落ちぶれとか、言うんじゃない」
「にいに……、なんでそんなムキになってんの?」
杏奈が傷ついたような顔で俺を見る。
「大事な人がいるんだ……だからバカにされたくない」
「……」
智毅は相変わらず、ふわふわとマイワールドにひたっている。
だから、俺たちの会話すら聞いていない状態だろう。
まさか、ももてぃんが俺の彼女だなんて……夢にも思っていないだろう…。
「にいにのバカ……。なんでこんな。……み~んな、だいっきらいだもんっ!」
杏奈はそう言って力任せに俺の部屋のドアを閉めた。
杏奈にはわかったはずだ。この闇闇ガールズの中に俺の……彼女がいるってことに。
杏奈のために買ってきたロールケーキが、ビニール袋からちらっと見えた。
あとで…親父から渡してもらおうか…。
俺は、大きくため息をついた。




