⑤-6
おそれていたとおり、智毅が翌日から大学に来なくなった……。
LINEしても既読スルー、電話してもブツ切り状態が続いている。
俺のことを(裏切り者ッ!)と思っているのかもしれない。
はあ…落ち込むな…。
その代わりと言ってはなんだが、赤西太一が俺にやたら絡んでくるようになった。
「もっちぃ~。一緒に、カリキュラムつくろーぜー。 英語っしょ? え、国語?
愛さない、愛してる、愛す、愛せ、愛そう♪
なんちゃって、五段活用やっちゃうわけ? やべー。もっち~…もしやモテ系教師になっちゃう?
俺のライバルじゃんっ。やべー超危機だわ……」
……言っておくが、モテ系教師になる気も、赤西太一のライバルになる気も、俺は一切ない…。
それに、そんな五段活用言う気もないし、むしろ五段活用ですらないし…。
赤西太一のペースにすっかり惑わされる、俺であった。
そんなこんなで、俺の方は、静蘭への教育実習に向けての準備を着々としている。
熊谷教授やみんなの目があり、静蘭を切ってあさひやまに行くことはどうしても…できなかった。
来週の月曜日に、学長との面談があって、その週の後半からさっそく実習にいくことになる。
もちろん、乗り気ではない。
そのため、いまのところ、杏奈にも…都さんにも、親父にも言っていない……。
ただ、杏奈には言わなくては……と思っている。
俺と杏奈が義理の兄妹ってことは絶対秘密だと、あの毒舌まりあちゃんに口止めしなくてはならないし…。
(どちらかというと、まりあの(キャラの)方が心配である)
悩みがつきない。
智毅だって、こんな俺のつらい胸のうちをわかってくれてるだろうに……。
それは俺のエゴだな。ちゃんと話合わなきゃいけない。
今日の帰り、智毅の家に行って、一緒にカリキュラム作るの手伝うついでに、話してみようか…。
そう思っていた矢先、智毅から電話がかかってきた。
智毅と表示されたスマホを見て、俺は柄にもなく泣きそうになってしまった。
もともと単純な奴だから、寝れば忘れちゃうだろう♪と軽く見ていただけに、
この沈黙の3日間は、俺にとって少なからずショックだったのだ。
もしかして、このまま絶交になってしまうのか?!…と。
「は、はい」
思わずどもりつつ、電話に出た。
「よぉ。瞬。これから、お前ん家いってもいいか?」
3日ぶりに聞く智毅の声。微妙にかすれていた。
「ど、どうした? 風邪でもひいたのか? 声がなんか…変だぞ」
「ああ……ちょっとな、寝込んでたし……それに………」
沈黙が続く。そんなに静蘭落選がショックだったのか……。
俺はなんといっていいかわからず「………」と息をのみながら、次の言葉を待った。
智毅がじゅるっと鼻水をすする様子が聞こえてくる。
気まずい…非常に気まずいぞ。
「俺、じつは……リ、リリカと別れたんだっ……!!」
電話の向こうで、智毅が吠えた。じゅるるるる……ち~ん(鼻をかむ音)
耳がキーンとなりつつも、それを聞いて俺は一瞬、頭の中が花畑になる。ほっとした。
な、なぁんだ~そんなことかぁ~!あははっ!
い、いやいや……そんなこと(死んでも)言えねえ~っ!! またまた瞬時に悟る。
「た、大変だったね……」
「そうなんだよ~。リリカの奴、数日会えないだけで、俺のことムシケラのように冷たい目で見てさ。
「あなた、誰ですか?」だって。ひどいと思わんか?」
「……」
「静蘭にも落ちるし、風邪もひくし、リリカとも別れるし、俺…最近ついてないよ。
こんな状態で、教育実習行けないよ…俺、教師にならない方がいいのかな……じゅるじゅる」
完全に負のループにはまっている。
俺が救い出してやらなければ!!!
「そんなことないから。まだ間に合うし、とりあえず、配布された書類全部持って、俺んち来い。
てか、俺が行ってもいいぞ」
「……いや、俺が行く。……瞬……無視してごめんな」
「いいから、そんなこと。とにかく17時に俺んちに来て、夕飯も食ってけよ」
「うん……」
電話を切って、どうやら仲直りできたようで、俺はほうっと胸をなでおろした。
リリカと別れたって……?!
まあ、これ以上はつっこまない。
早く目が覚めて良かったと思う俺は、冷たい人間なのだろうか。
とにかく、智毅を元気づけなければ!
俺は、大学から出て家に向かった。
智毅が来る前に、部屋のあれやこれやを片付けなければならぬ。
杏奈は……今日は仕事だっただろうか?
最近顔を合わせていないので、よくわからないが、いたらいたで紹介してやろう。
美少女すぎる杏奈を見て、智毅も息を吹き返すかもしれないし…。
まあ…都さんの方がタイプと言っていたけど、都さんならうまくかわしてくれるだろう。
とにかく、生身の女性に興味を持ってもらう方が健全だ。
このときの俺は、…そう、考えていた。




