①-4
扉が開いて、目の前に立っていたのは40代くらいの女性だった。
俺は多少なりとも面食らう。女っ気なしの男2人暮らしに、まさか女性が出迎えてくれる日がくるなんて。
しかも、
「おかえりなさい」なんていう言葉が飛び出してくるなんて。
口からマイナスイオンが出てきそうな、おっとりした口調だった。
その女性はスタイルが良くて、エプロン姿がいかにも「すてきな奥さん」という風情だった。
それになにより俺がビックリしたのは、超美人だということ。
今でも十分美人だけど、それこそ若い頃はめちゃくちゃ綺麗だったに違いない。ミスコン荒らしだったりするんじゃないのかって思うくらいだ。
この人か…。
親父、この人と再婚するんだな。
そう思ったとたん、胸にこみあげてくるものがある。
よかったな。
奥の居間から、頭をかきかき照れくさそうに出てくる親父に、目で伝える。
少し天然が入った親父だけど、やるときはやる!非常に男気にあふれた男なのだ。
まあ……顔は、決してお世辞にもカッコいいとはいえない。
奥二重でいつも眠そうな…はっきりしない「もちゃ顔」。
笑うと表情がひょっとこに似て、より「もちゃもちゃ」となる。
そしてそうした特徴はすべて、もれなく1人息子の俺に遺伝しているんだけど。
でも、顔だけじゃない、俺の親父の良さがわかってくれたことに、俺はひそかに感動していた。こんな美人が。人生はわからないものだ。
美人さんは、俺の持っているビニール袋に目を向けた。
「ケーキ買ってきてくれたんですってね」
「は、はい」
「みんなで食べましょうね。な~んて、いきなり会ってこんなこと言うの、ずうずうしいかしら」
「い、いや! そんなことないです」
「ふふふ……ありがとう」
「みやこさん、紹介はあとでするから」
親父はみやこさんの肩を抱いて、居間へといざなう。
振り返って「瞬くんも早くおいで」と笑いかけられる。
「いま行く」
嬉しくて思わず鼻歌まじりで玄関の鍵を閉めた俺に、「キモッ」とどこかで聞き覚えのある声が頭から降ってきた。
俺の家は玄関入ってすぐ目の前に、2階に続く階段があるのだが、
その最上段に……何かいる!
そしてそれは、俺に向かって悪態をついている!
目をこらすが、階段の電気がついていないため、暗がりで見えない。
黒くまがまがしい気配だけが俺に伝わってきた。
「鼻の下のばしちゃって……キモッ!キモッ!キモッ!」
3回言われた。
普段温厚でブッダだのぐりだのぐらだの(どっちだ?)言われる俺でも、よく知らない相手にここまで言われたら腹が立ってくる。
「誰ですか?」
いらだった口調で問いかける。
「…………」
無視かよ。
このまま階段のぼっていって、ケンカの応戦してやろうかと思っていた気持ちがひゅうっとしぼむ。
きっと、みやこさんの連れ子なのだろう。声からすると女の子で、きっと俺より年下だろう。
だったら仲良くしなくちゃいけないよな。俺が大人になるしかない。
「ケーキあるんで、一緒に食べませんか?」
「……ケーキ?!」
ガタンと立ち上がる音がして、たんたんたんたんっと軽快なステップで降りてくる。
俺は言うのを忘れていた。
下から5段目の板は勢いをつけると外れるっていうことを。
なんせ、我が家は築50年だから、傷んでないところを探すのが難しいくらいなのだ。
って、案の定ガタガタガタっと踏み外す音がして、
見上げた俺に向かって、女の子が降ってきた!!!




