④-4
大石荘は、コンクリートに何本ものひびが入り、古びた昭和初期の建物という感じだった。(もしかしたら俺の家より古いかも)
だが、ひびを隠すようにツタも這っており、どこかレトロな趣があるおしゃれな館でもあった。
ステンドグラスの玄関ドアを開けて、館に入った瞬間に、甘酸っぱい女の子たちの香りを嗅いだような気がした。
男の……ギラギラとした雄々しい匂いはここには…ない!
俺が身にまとっているだけだ!(まあ…わざわざ言うことでもないが)
ここで、ももてぃん…および闇闇ガールズたちが暮らしている…の…だな……。
※どうしても、こころの中では桃子ではなく、ももてぃんと呼んでしまう俺なのであった。
再びゴクリと喉を鳴らす。
(おじゃまします…)とこっそり胸の中でつぶやいた。
玄関を入ってすぐに下駄箱があり、右の部屋には管理人室がある。
俺が靴を脱いでいるときに、閉まっているはずの管理人室の窓口のカーテンがさっと揺れた…気がした。
風? 風なのか?!
うむ! きっと……風だろう!!
だって、今日は誰もいないと言っていたし!……だよな?
ももてぃんの顔を見て、無言で確認する。
ももてぃんが(そうよ)という感じでにっこりと俺に微笑みかけたような気がした。
超かわええ~~~!!
そのままに壁に押し付けて……といきたいところだったが、ももてぃ…いや桃子の部屋まで我慢我慢…。
あれ? 俺もしかしていま、桃子とか言っちゃった?!
うおおお~~さっそく彼氏気どりしちゃってるぅ~~~!!!
あくまでもこれは俺の脳内会話再生の一部だ。
ももてぃんの前では絶対に出せないであろう、俺の…欲望に満ちた裏のつぶやきだ!(見苦しいことこの上ないだろうが…)
こんな俺でも表面上は、浮ついた態度をおくびにも出さずに、だまってももてぃんの後をついていってるのだ。修行僧のように…。
「ここが談話室です……みんなで、よくコンサートの話とか…いろいろしてるの」
ギシギシいう廊下を通って最初に見かけた部屋だった。談話室は、テレビや暖炉がある大きなリビングだ。部屋の奥にいくと、キッチンもあるらしい。
「とりあえず、私の部屋に来て……」
そう言うとももてぃんは、談話室からひきかえして、廊下の途中にある階段をゆっくりとあがっていった。
2階は電気がついていなくてまっくらだった。人のいる気配がまったくない。
しかし、どこかから、ミャーとかぼそい猫の声が聞こえてきた。
左のドアの前に猫のマークのプレートがついている。
どうやら、この中に猫がいるみたいだ。カリカリっと何かをひっかく音もする。
「いま持田くんのいるところが、……タミエちゃんの部屋の前ね。タミエちゃんって、ねこむらタミーのことなんだけど、覚えてる?」
「猫に変身してた子だよね」
「そう……彼女の場合は…猫になりたかったのよね。本気で…」
ももてぃんが誰に言い聞かせるともなく、ぼそっとつぶやいた。
……変身か。
他の闇闇ガールズのメンバーの変身後は、わかりやすい。
あかしろトマトちゃんは、吸血鬼。
ねこむらタミーは、猫(化け猫)。
よこはまジュリーは、のっぺらぼう。
マシマさんは、ろくろっくび。
みんな、怪物(妖怪)になっている。
だけど、ももてぃんだけが変身らしい変身をしていない。
ただ…若返っただけだ。
これは、どういうことなんだろう。
6つくらいある部屋の前を通って、一番突き当たりの左側の前で立ち止まる。
「ちょっと待っててね…一応、部屋にも鍵がついてるの」
バッグから鍵を出そうとするももてぃん。
待っている間、俺はあたりをきょろきょろする。ドアのプレートには「ももこ」という綺麗な字と、桃のイラストが、書いてあった。
こういうところも、なんかかわいらしくって…好きだなあ。
「お待たせ、中に入ってて。ちなみに…トイレとお風呂は1階にあるから…」
え?
衝撃が走る。
1階にあるって……そんな…。
なんでもないことのように…。
「あとね……女子トイレしかないから注意してね…。そもそもこの寮は男子禁制なんだ♪」
ももてぃんは、舌を出して微笑んだ。いわゆるてへぺろ!
「男子禁制なんだ♪」って……ももてぃん……
俺、ばっちしきっかし、男子なんだけどっ!!
(どことは言わんが)ばっちしきっかし、ついてるんだけどっ!!
ももてぃんは、そんな俺にせず話し続ける。
「でも…けっこうみんなやりたい放題だし。トマトちゃんなんか…彼氏連れ込んでるしね」
「…………」
トマトちゃんは、俺は別に好きでもなかったけど、彼氏いるんだ…と思うと複雑な気持ちになる。
そもそもアイドルっていうのは、特定の彼氏つくらないって約束なんじゃないか?少しモヤモヤする俺は…心が狭いのだろうか。
「それで、私は…今から初彼氏……連れ込んじゃいます…」
ももてぃんは、俺の手をそっと取って、真っ赤な顔で俺を部屋にいざなう。
はい…。
連れ込まれちゃいます…。




