④-1 バレンタイン前夜祭
気がつくと、もう暦は2月。
あっという間に1月が過ぎて、俺は後期試験の準備にとりかかっていた。
4月になれば、大学4年になる。
黒山大学では教育実習が6月にある。
そして、教員採用試験は、7~9月までの間にある。
なかなかハードな1年になりそうだ。
まあ…大学院にすすみたい気持ちはないとは言えないが、ずっと親父1人で頑張ってきてくれたから、少しでも早く社会人になって親孝行したい、と思っている。
思うことは立派。行動も……伴えばいいんだがな。
杏奈とは、顔を合わせる機会が、めっきり減ってしまった。
月水金は塾のバイト、土日は短期バイトでちょこちょこ働いている俺とは、生活のリズムが合わない。
杏奈は朝早くマネージャーの車で静蘭に行き、帰りは帰りで「マリアンナ」のレッスンがある。土日は、ネットTVにもときどき出演しているようだ。
〇ちゃんねるや、いわゆる〇〇速報あたりで、「アンナちゃん!めちゃ美少女!天使!」や「アンナちゃんの枕になりたい」だの「アンナは俺の嫁!」だの、
一部の熱狂的なファンによる記事も、ちらほら見るようになってきた。
やや知名度が上がってきたようだ。
それをチェックしてる俺も俺だが……。
いまのところ、ストーカーまがいのファンはいないような…気がするから安心といったところか。
大学では、後期試験が終わりをむかえてきた。
妙な解放感があたりを漂っている。
赤西太一が、「ゼミの皆で、今度パーティーやろうぜ!」とか、なんだか盛り上がっていたが、俺と智毅のぐりとぐらコンビは、片隅で冷ややかにその光景を見ていた。
そんな折、ゼミで委員長タイプの飯村李加子さんが、俺に話しかけてきた。
飯村李加子さんは、幼稚舎から静蘭で、ここ近辺の大地主のひとり娘だという。
とても真面目で、いわゆるガリ勉タイプ。あんまり笑わないし、友達も少ないみたいだ。けど、なんにでも一生懸命で、俺は嫌いじゃない。
「持田くんは、どこの学校に教育実習に行くか決まってるの?」
「ううん。まだ」
「決まったら教えてね。そろそろ予定表組まなきゃって教授にも言われてるし」
「うん…?」
予定表を組む?聞いたことがなかったが、とりあえず「わかった」と言っておく。
かたわらの智毅はこの頃、リリカさんにすっかり骨抜きにされてしまっており、最近、箱根旅行まで行ってきたということだ。
その様子をブログにあげたら、アクセス数が1000を超えたらしい。
智毅がリリカさんの話をすればするほど、
俺はますますリアルなリリカさん、である、ももてぃんのことが言い出しにくくなってくる。
親友と思っている智毅に隠しごとをするのは、少し胸が苦しい。
言えるときがきたら、必ずするから。
ごめん、智毅…。
ももてぃんと俺は、実はあれから1回、2人きりで会った。
映画を見て、お茶をする。智毅とやってることと変わりがないのだけれど、
ももてぃんとすると、それはたちまち「デート」になる。
デート!!
21年生きてきた俺の人生で、この言葉を使う日がくるなんて思いもよらなかった。
ももてぃんはデートと思ってくれているのか、甚だ不安だが、
良く笑ってくれるから、楽しいと思ってくれていることは確かなようだ。
…良かった。
今回変身してきてくれたももてぃんは、やっぱり可愛くて、優しくて、
胸も…あいかわらず、大きかった。
すれ違う男たちがももてぃんの胸を見ていくのに、少し優越感を抱く。
いつかは俺の…この手に!!むはあ…。いかんいかん。思考がダダ漏れてしまう。
そんなこんなで、冬期休暇に入ってすぐに、ももてぃんと2回目のデートをすることに相成った。
日にちは…なんと、2月14日の夜!
バレンタインだ!
クリスマスと同様、バレンタインなんて、滅んでしまえっ~~!!
と願い続けてきた頃もあった。
でもそれは昔の話…。今年は、期待しちゃっていいよな?!
それに……そのときに、告白…も考えている。
そしてOKが出た暁には、あのう…そのう…ホテルなんかに…も。
ホテル!!
俺の人生の中でこの言葉を使う日が来るとは!
ウッキウキで過ごす俺。
鼻歌を歌っている俺に、久しぶりに会った杏奈が「キモッ」と言ってくるが気にしない。
「そんなに浮かれてても、にいに、になんてチョコレート、誰もあげないんだから!」
杏奈がウキウキ気分に水を差す。
そんな言葉に、俺はにんまりと笑顔で返した。
「まさか…いるの?」
杏奈が驚いた顔で、俺を見た。
「ヒ・ミ・ツ!」
俺はワハハハハ~と声をあげてその場を立ち去る。
後ろで「キモッ! キモッ! キモッ!!!」
という声が追ってきた。
そして、ついに2月14日を迎える…!




