③-8
俺の腕にすがりついた杏奈をそのままに、タクシーに乗り込む。
お金はかかるが仕方がない。自転車で来なくて良かった。
それに…俺自身も寝ていなくて良かった。
いわゆる、虫の知らせっていうやつだろう。
杏奈のことを考えるとソワソワとしてしまって、なぜか落ち着かなかったから…。
隣でじっと動かない杏奈を見ながら…
なんでSPの言うとおり、まりあの車で送ってもらわなかったのか、とか聞きたいことは山のように浮かんできたが、弱ってる杏奈にあれこれ問い詰めるようなことをするほど、俺はひどい男ではない。
とりあえず、ショックから抜け出すのが先だ。
黙って下を向いている杏奈を、上から見下ろす。
頭をポンポンとなぜたくなる衝動にかられるが……なぜかためらう。
兄貴なんだから、それくらいしてもいいとは思うのだが…。
家に着いてタクシーにお金を払い、家の鍵を開ける。
「杏奈、入れよ」
そう声をかけようと、後ろを向いた俺はぎょっとする。
杏奈が、玄関前の木に無言で蹴りを入れていた。
「杏奈! なにやってんだよ」
「あ~!! あいつらのチ○コ蹴ってやれば良かった!!」
…………。
……とりあえず、元気になったらしい。
近所の目もあるので、どうどうと落ち着かせて、玄関まで向かわせた。
「……よくあるのか? ああいうの」
杏奈は、ふぃ~っと大きなため息をひとつついて、「今日はあれが2回目」と小さな声でつぶやいた。
「ロケが終わったあと、まりあちゃんと一緒にいたら、変な大学生風の男につきまとわれた」
「……そうか」
都さんから聞いてはいたが、杏奈は本当に狙われやすいのだと実感した。
本当はアイドルなんか辞めた方がいいと思うのだが。
杏奈ほどの美少女が、一般社会で埋もれるのも宝の持ち腐れという気もする。
…難しいところだ。
でも今日みたいなことがあったとき、俺は杏奈を守ることができるのだろうか。
運よく警察がきたからよかったものの、
あの男たちは俺を見て、噴き出していた。もちゃ男なんて相手になんねーよ。と言わんばかりに。
強くならなければいけない!
決意に燃える俺に、杏奈が「ねえ、にいに?」と声をかける。
「なんだ?」
俺はこころもち、優しい口調で聞き返す。
「着物の脱がし方、知ってる?」
俺は動きを止めた。こいつ…わざと言ってるのか…それとも本気で……。
「脱がしてほしいんだけど……」
「……」
「帯をとって、あ~れ~お代官様~って杏奈もやってみたい!」
杏奈は俺の方を見て、キラキラした瞳で純粋に言ってくる。
俺は……どう反応していいのか……その場で固まった。




