③-7
智毅との初詣を終え、帰宅したのは夕方だった。
帰ってみると家には誰もいなかった。
親父と都さんは、出かけたようだ。
置手紙によると、都さん側の親戚に呼び出されたとのこと。
再婚の報告がてら、新年の挨拶まわりをしているのだろう。
きっと夜遅くなるだろう。
帰ってくるまで俺は寝ようかと思って、ソファに横たわったのだが、
なぜか眠れない。
テレビをつけるが、芸人たちが騒いでいるだけで面白くない。
スマホでゲームをしていても、気持ちが晴れない。
部屋にある「教育心理学」の教科書でも読んで勉強するか。
すると持っていたスマホに、見ず知らずの番号がかかってきた。
ももてぃん?!
いや違う。ももてぃんのは、もう登録してあるはずだから。
めったに迷惑電話なんていうのもないので、とりあえずドキドキしながらも通話ボタンを押した。
すると、耳に聞こえてきたのは
「にいに?」というかぼそい声……だった。
「杏奈?」
「迎えに来て……あんな…寒い」
迎えに来てって……あのSPみたいなイケメン男に送ってもらうって話じゃなかったのか??
この疑問を電話口でいうこともできたのだが、俺はそれよりも早く言っていた。
「わかった。今どこだ?」
床に投げ捨てていたコートを羽織ると、外へ飛び出す。
外はすっかり暗くなっており、街灯も煌々と灯っていた。
俺はしばらくしてから自転車で迎えに行けばよかったか、と今更気が付いたが、もう駅までもう少しというところまで来てしまったので、引き返せない。歩くスピードを速める。
駅前に着くと、クリスマス時期にもみの木代わりになっていた木が、今度は白と青の電光で染まっていた。その周辺には、カップルもいて、身近なデートスポットになりつつあるようだ。
俺はそんな様子をちらっと見ながら、杏奈を探す。
どこだ? どこだ?
振袖姿の女の子なんて、そうそういないはずだ。
ももてぃんと初めて会ったコンビニの前には、今度はおでんの屋台が出ている。
おでんなんて珍しいな……。
杏奈を探しつつ、近くまで寄ると女の子が店番をしていた。
誰もいないため、女の子は下を向いてずっとスマホをいじっている。
ん?
視線を感じたのか、女の子は顔を上げた。
俺はうすうす感づいていたから別に驚かなかったけれど、
その女の子は変身前の「よこはまジュリー」だった。
あたりまえだけど、のっぺらぼうではない。
どう表現していいのか迷うような、特に特徴もない顔で(とめどなく失礼だが)
ぼけっとスマホをいじっていた。
このコンビニ前に出る店と、例の「闇闇ガールズ」との関係は一体?
闇闇ガールズは、ここでアルバイトもしてるのか??
そんな謎にグルグルと、とらわれそうになりながらも、杏奈を探すのを再開する。
すると……
「嫌だっていったら、嫌なのっ!」
駅前のバス停のあたりで杏奈の声がした。
(杏奈?)
近くに行くまで杏奈だとわからなかったのは、男たちの陰になっていたからだ。
どうやら、ナンパされているらしい。
「歩きにくいっしょ。その格好。乗っていきなよ、家まで送るからさ」
「そうそう! 俺たちなんにもしないから」
2人組の男たちに、左右を固められて杏奈は困ったように立ちすくんでいた。
そのうちの1人が杏奈の手をとる。
「うっひゃ~、こんなに冷えちゃって。ほら、車で温まりなって」
無理やり杏奈を車にひきずりこもうとしたのを見て、
俺は「杏奈!」と叫んで、その場にとびこんだ。
「にいに!!」
杏奈の顔がぱあっと華やぐ。
「にいに?」
2人の男が俺を振り返ってみて、噴き出した。
「にいに…って。ぷっ! いいから乗りなよ。ほらにいにも~!」
俺までどつかれて、車へ向かわされそうになる。
こいつら!!!
暴力なんて好きじゃないだが、大学の体育で習っている柔道を使おうかと思っていた矢先に、
警察官がこちらにやってこようとするのが見えた。
「やばっ。警察だ」
男たちはあわてて車に乗り込むなり、即座に発車した。
「にいにぃ……」
杏奈が俺の左腕にすがりつくように、もたれかかる。
警察にあれやこれや聞かれるときも、杏奈は俺の腕から離れようとしなかった。




