③-4
まりあが次に言ったのは……。
「へええ…超キモイ!」
……俺、泣いていいカナ?
なんで初心者の女の子にキモイキモイ言われ続けなきゃなんないのカナ?
(降りろよ!てめえら!)
と逆上したい気持ちもあるが、一生懸命押さえつける。
そんな様子に杏奈が気づいたのか、ねこなで声でこう言った。
「ねえ、にいにぃ? うちらの間ではキモイってカッコいいってことなんだよ」
「「ね~」」
2人して顔を合わせてうなずきあう。
そうなのか?それだったら、ポリポリ// 許してやってもいいが……。
「杏奈ってば、ホントに、にいにって呼んでんだ~。お子ちゃま~」
まりあが屈託なく杏奈にそう言う。
杏奈は傷ついた様子もなく「変?」と聞いた。
「変じゃあないけど、せめて「瞬にい」じゃね?」
「……瞬にい?」
後方がミラーで見えるのだが、そう言って首をかしげた杏奈は、ちょっと可愛かった。
そうだそうだ!瞬にいなら、俺も納得する!
よく言った! まりあちゃん!
「ねー瞬にい」
運転席に飛びついてくる杏奈。
「瞬にいぃ~~」
甘えた様子で、連呼してくる。どうやら杏奈も気にいったようだ。
てか、運転中だから……。本当、これ以上心拍数をあげないでくれ。
可愛すぎるんだろ…。
「まりあちゃんは、瞬にいって呼んじゃだめだよ。だって瞬にいは、杏奈のにいにだから」
よくわかんない理屈だけど、なんとなく嬉しい気分になるのはなぜだ?!
杏奈は独占したいのか? 俺を?
………コホン。思わず、にやけてしまう。
「あ~呼ばない呼ばない! もっさんって呼ぶつもりだから」
もっさん?!
「持田っていうんでしょ。このおっさん、いや、この兄さん。だから、もっさんにするわ。ドゥユーアンダスタンド??」
「イエス!!」
杏奈がうれしそうに答える。
まりあちゃん…君って奴は……俺の…胸にナイフを突き立ててるぞ。
おっさんって…。おっさんって…。
「まー良さそうなもっさんで良かったじゃん。杏奈、心配してたもんね」
「……」
再婚にあたって、杏奈はあれこれ気をもんでいたようだ。
俺なんて…知ったの当日だから。
親父も早く言ってくれれば、俺だって心の準備がいろいろとできたはずなのに。
杏奈と初めて会ったとき…あのときも「キモッ!」と連発されてたけど、あれの意味は……絶対「カッコいい」の意味じゃないのは確かだ。
本当にキモかったのだろう(涙)
なにはともあれ、杏奈の親友がわかって良かった。
この子も、とても良い子そうだ。多少、毒舌だけど。
「渋谷でいいんだよね? Aスタジオの方だっけ?」
「そう」
渋谷くらいならカーナビなしでも行けるかな…と思い、そのまま車を走らせていた。
ちょっと、大人ぶって会話もしてみようか。
気分をあげて、俺は後方の2人に問いかけた。
「マリアンヌは、結成してからどれくらいなの?」
「は? ねえ…ちょっと、もっさん!!今マリアンヌって言った??」
まりあが興奮して大爆笑を始めた。
「超ウケるんだけど~マリアンヌだって~ひぃぃぃ~お腹よじれる~」
「瞬にい…って天然なんだぁ…」
杏奈まで、呆れたような顔で俺を見てきた。
「私たちの名前、まりあにあんなでしょ! マリアンナに決まってるじゃん!!」
「っ!!!」
だからか……ネットで調べても出てこなかったのは…。
「マリアンヌって! ひぃ~」
なおも笑い続けるまりあ。
前言撤回。まりあは良い子じゃない。まりあは良い子じゃない。
と、赤信号で停車した前の横断歩道で、思いがけない人物を見かけた。
それは、2人も…同じだったようで。
3人で固まってしまったのだった。




