③-2
その後の会話を聞いていると、
増岡さんっていうのは、「マリアンヌ」のマネージャーらしい。
あの…静蘭の前にいたスキンヘッドの人だろうか……。
(まあ、事務所から代わりの人が派遣されてくるんだろう)
俺はお茶をズズズ…と飲みながらそう考えていた。
リビングの時計の針はそろそろ8:30を指そうかという頃で。
満腹になった俺は、座りながら背筋を伸ばす。心地よくてふああ…とあくびが出た。
(さてっ!俺は、午後まで二度寝するか!)
と思い、腰をあげた瞬間。
親父が「えらい!」といきなり吠えた。
え? なんか…俺のこと見ながら言ってる?
「えらいぞ! 瞬くん! 杏奈ちゃんたちを車で送ってあげるつもりなんだろ」
親父が満面の笑みで、このぉこのぉとばかりに、肘鉄をくらわせる真似をする。
「本当? 瞬くん。お願いしていいのかしら。杏奈も今日、振袖姿だし」
都さんまですがるような目つきで俺に話してくる。
杏奈の方を見ると、いつものように髪の毛を触っていた。
え…これって…俺がもしかしてマネージャーになって送り迎えしてやれよって流れになってる?
立ち上がっただけ…なんだけど。
「うちの瞬くんは、親の僕がいうのもなんなんだけど、運転がうまくてねえ。せまーい道でも他の車とくいっくいっとすれ違うんですわ。僕が腰やられて動けないときなんかでも……」
都さんは親父と俺を交互に見ながら、うれしそうに聞いている。
やめろ!親父!
とどめを刺すな!
親に褒められて、いい年して顔が赤くなる俺も俺だが…。
杏奈がそんな俺を見て、ぷっと噴き出したような気がした。
すぐに杏奈を見ると、あさっての方を見てお茶を飲んでいる。
「というわけで、杏奈のことよろしくね。ほら、杏奈も瞬くんに言いなさい」
「おっねがいしまーす」
宙に浮いた、感情のこもってない声…。
アイドルの妹をもってしまった俺の宿命なのか…。
仕方がない。
諦めがいいところも、俺の長所ではある。
キーをもって、車に乗り込む。
冷凍庫のように、ひんやり冷え切っていた。
ぶるぶると足から頭まで震えがくる。
2年前に買った国産車。俺が免許とったばかりのときに買い替えたのだ。
とことん、俺に甘いよなあ親父って。
キーを差し込んでエンジンをかけた。
杏奈が入ってきても寒くないよう、暖房をかける。
ふうっと一息ついた俺は、ハンドルに顔をもたせかけて、昨夜に思いをはせた。
昨夜は…大みそか。
闇闇ガールズとかいう得体のしれない地下アイドルのライブで衝撃をうけた俺は、いろいろあって、ももてぃんとお茶をした。
…本当に癒された。ももてぃんは、今頃実家に着いたかな~。
そして、ヤケ酒を飲んで酔っ払って帰ってきたところを、杏奈に襲われる。
あいつ…本当になに考えてんだか……。
そういえば、玄関で一緒に倒れこんだとき。
杏奈は俺の耳元でハアハアと軽く息をしていた。
目の前が真っ暗でなにも見えない状況だったからこそ、
杏奈の息遣いも、敏感に耳に伝わってきたわけで…。
その息遣いをふいに思い出して、俺はカアっと体温があがった。
よく考えてみれば超密着してたんだよな、俺たち……。
見方によっちゃあ、抱き合ってるようにも見えるよな…。
あいつ、中学生だぜ。
ああ…俺、完全に淫行教師になっちゃうぞ。
両手で顔を押えて、ああああ…と激しい後悔に襲われている間、
「にいに! おまた!(←おまたせ)」
杏奈が助手席に乗ってきた。
俺はぎょっとして「え、助手席?」と聞いた。
「そうだよ。だって、まりあちゃんが乗ってくるんだもん」
「え?まりあちゃんも乗るの?って、まりあちゃんって誰?」
杏奈は呆れたように俺を見た。
「もうにいにってば、杏奈に関心なさすぎ。ムカツク! キモイ!」
だから、なんでそこでキモイがでてくるんだよ!(怒)
「杏奈の相方だよ! これからまりあちゃん家行くから、カーナビ設定するから教えて」
「……」
助手席の杏奈が俺の方に身をのりだして、カーナビを操作し始めた。
時折、口元に手を当てて、ハアハアと声を出す。
かじかむ手をあたためているのだろう。
それが昨夜の息遣いと重なって、俺はいろいろヤバかった……。
まあ、それはどうでもいいとして。
まりあちゃん家に出発だー!(ヤケ)




