③-1
重たい気分で、新年を迎えた。
「瞬くん。朝だぞぉ。新年の挨拶するから起きなさい~」
そう言いながら、上機嫌な親父が俺の部屋に勝手に入ってきた。
カーテンをシャーっと開ける。
窓から差し込む朝日が、まぶしくってしょうがない。
毛布の中にもぐりこんだ。
半分目をつぶりながら、「ごめん。ちょっと寝不足気味だから…もう少し寝たい」とつぶやくと、
親父はいきなり俺の毛布を剥いだ。
「な、なに?」
「そんなわがままな瞬くん、ぼかぁ、嫌いだな! 新しくできたママと妹にちゃんと新年の挨拶をしなさい! みんな下で待ってるんだぞ」
「…………」
親父は昨日の夜(正確にいうと今朝だが)の顛末を知ってるのだろうか。
俺が杏奈と顔を合わせるのがとても気まずいことを……わかってるはずないよな……。
親父は、寝たら最後、なにが起きたって起きないし…。
「わかったよ」
俺はしぶしぶ起き上がると、寝間着から普段着に着替えた。
あーやだやだ……杏奈と顔合わせたくないぞ。
俺はずっと一人っ子できたので、兄弟ゲンカなんてしたことがなかった。
従弟とも仲がいいし、たとえケンカしても俺がすぐ謝ってことなきを得ていた。
だから昨日の杏奈みたいな理解不能な行動をされると、俺はもうお手上げだ。
……第一、彼女いたことないから、女心なんて知りようもない。
(悲しいことだが)
どうすれば許してくれるのだろうか。
ももてぃんなら、こういうときどうなのだろうか。
絶対に杏奈みたいに癇癪は起こしたりしないはずだ。
だって、ももてぃんは……。
そのとき、後ろから……
「にいに!」
と軽やかな声が聞こえた。
おそるおそる後ろを振り返ると、
振袖姿の杏奈がいた。
ピンクに薔薇の花の刺繍が施され、首には白いファーを巻いている。
化粧もうっすらしているようで、まるで……成人式みたいな……。
というか、本当に可愛い……。朝日がまるで杏奈に味方をするように、後ろから後光をさして、ますます神々しい美しさを感じた。
驚いて何も言えなくなっている俺に対して、
にこぉっと笑って、一回転してみせてくれる杏奈。
「……可愛い」
俺はつい、ぽろっと本音をもらした。
杏奈は「えへへ」と笑うと、春風のようにその場を去っていった。
ロマンチストでは決してないとは思うんだが…まるで、……春の妖精みたいだ。
カーッ// なにいっちゃってんだ、俺ってば。
杏奈のギャップにも正直戸惑っていた。
昨日の癇癪を起した幼さ全開の杏奈とは思えないほどの、落ち着いた御嬢さんぶりで、俺は少しぽぉっとなっていた。
あれから、杏奈は寝られたのだろうか……。
寝不足をおくびにも出さないで、振袖を着こなす杏奈に、俺はプロ意識を感じる。
案の定、杏奈はこれから撮影だそうだ。
すごいなあ。素直にそう思う。
ちなみに俺は、智毅と初詣に行く予定だが、智毅は昼過ぎまでは寝てると思う。
実質、活動するのは、午後からになるだろう。
皆で神棚に手を合わせ、新年の抱負を語りあいながら新年1発目の朝ごはんを食べた。
こうしてみると、仲がいい家族だよな。
杏奈も、昨日のことが嘘のように、笑みを浮かべているし。
なにはともあれ、俺は肩の荷が下りたような気がしていた。
まるでリセットできたような…すがすがしい朝!
ははは…おはよう!太陽さん!
そのとき…充電していた杏奈の携帯が鳴った。
「あらあ何かしら…」都さんが心配そうに首をかしげる。
杏奈が出ると「ハイ」と神妙そうな声を出した。その間、俺も親父も都さんも黙っていた。
会話を終えた杏奈は、こちらに困ったような顔を向けた。
「どうしよう……、増岡さんこれないんだって」




