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おれの彼女は、アイドルなのか?!  作者: とっぺん
②いざ、ライブへ!
20/80

②-10

玄関の中に飛び込んだとき、俺はなにかにつまづいて転んだ。


「うおっ!」


どうやら、倒れた杏奈を蹴飛ばしてしまったらしい。


だけど…? んん? 

倒れた場所は、固く冷たいいつもの玄関のタイルではなかった。

柔らかくって…ふわふわしてて……。


ま、まさか?! おおお……俺は杏奈の上にのってる…の……か?!

しかも耳を澄ますと、間近で息を吸う音まで聞こえてくるではないか。


「す、すまん!」


慌てて体勢を整えようと手を下に下ろすと、むにゅっと柔らかい何かをつかんだ。


こ、これは……?!


バシッ!!


目の前に火花がはじけ飛んだ。


「バカ!!スケベ!!ヘンタイ!!クソアニキィィィ!!」


罵倒を浴びせかけられ、頬がじんわりと熱くなってくる。

杏奈が俺の頬を叩いたのだとわかった。


俺もだんだんと酒の酔いが冷め、目も暗さになれて、涙目になった杏奈がそこにいるのが判別できるようになってきた。


「悪かった……ごめん」


わざとではないとはいえ、女の子の大事な場所に不用意に触ってしまったのは、

本当に痴漢以外の何物でもない。


「本当に悪かったよ」


暗い…明かりもない玄関で、俺は杏奈に謝罪を続けた。

すんすんっと涙をこらえるような声までするのには、本当に参った。

こんなんなら大泣きして騒いでくれる方がまだましだ。

いつも強気な杏奈らしくない…。


そもそも杏奈は、本当に気が強い子なのだろうか?


「ここじゃ冷えるから、リビングに行こう」


俺は立ち上がると、座り込んでいる杏奈に右手を差し出した。

バシっ!と、手を振り払われるかと思った予想に反して、

杏奈は、俺の中指と薬指あたりをぎゅうっと力強く握り返してきた。


そしてそのまま一緒に立ち上がると、リビングまで向かう。


正直いって、ドキドキなんかしなかった。

こいつは妹だし。

それに、ドキドキはももてぃんで十分、味わっていた。

そのとき明かりがついていて、杏奈の顔を見ていたら、ちょっとは違っていたかもしれないが。


リビングについて明かりをつける。ぱらぱらぱらと一斉につくと、さっきの暗さの残像が残った。

…って、ぼんやりしている場合ではない。

俺はなんとかして、杏奈の機嫌を直さなければいけないのだ。

と、ずっとつながれている右手を見た。

杏奈は下を向いたまま、俺の手を離そうとしない。


「あ、杏奈さん?えっと……」


手を離してくれませんか。なんて言えるはずもない。

とりあえずソファまで一緒に行って、一緒に並んで座り込んだ。


横をチラ見して杏奈の様子を見ると、どーんとした感じで負のオーラが漂っている。


「……本当に悪かったよ。ごめんな。それにこんなに遅くまで俺のこと待っててくれたんだろ。ありがとう」


「……」


そうなのだ。いろいろ意地悪されたとはいえ、俺の帰りを玄関先で待っていたのには違いないのだ。

冷えた…だろうな。しかも……玄関先で転んで汚れただろうし。


「風呂入ってきなよ」


「にいにも、一緒がいい……」


ハイ??


うるんだ瞳で俺を見上げる杏奈。


「にいにと一緒じゃなきゃ……やだ」


「ばっ! ばかいってんじゃないっ!」


俺は杏奈の手を慌てて、振りほどいた。


なんだこいつ? 本当に…さっき胸触られて頬を叩いた奴と同一人物なのか??


杏奈はソファの上で体育座りすると、くすんくすんと泣き始めた。


「今日は杏奈のライブだったんだよ……。ママとパパも来てくれたのに、どうしてにいには、来てくれなかったの?」


「!!」


「杏奈……家族の前で踊るの夢だったのに」


「おまえ! そんなこと、ひとことも言ってなかったじゃないか!」


「だって、予定あるっていうんだもん。しかも朝帰りだし。キモイッ! 不潔な人はそばに寄らないで」


「…………」


「ごめん……」


杏奈は顔を上げると、咎めるような顔を俺に向けて、そっぽを向いた。

そして、言い放つ。

「にいになんか、大っ嫌い」


大人げないとは思うが、俺も言い返したいと思った。


「そんなことくらいで大っ嫌いとか言うな! お前の思い通りになんか、みんなならないんだぞ!」


「お前って言うな!」

杏奈がキッと睨み返してくる。


「お、あ、杏奈こそ、にいにって言うのやめろ! 人前でやられたら恥ずかしくてしょうがない!」


「じゃあ! なんて呼べばいいの??」


「普通にお兄ちゃんって呼べよ!」


「絶対やだっ! 死んでもやだっ!!」

杏奈はそばにあったクッションを俺に投げつけて、走り去っていった。


「杏奈!」


俺はおいかけようと思っていたのだが……結局なにもできずその場に立ち尽くした。


闇闇ガールズは……ここにもいた。

闇のない女の子なんて、この世にはいないのかもしれない。

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