②-7
トマトちゃんが、元気よく叫んだ。
「それでは~私たち闇闇ガールズの、メンバー紹介をしまっす!」
うおおおおお…という歓声が響く。俺の座るコンクリートの椅子まで振動がするような熱のこもった雄叫びだった。
「と、その前にぃ……これから私たちは魔法を使って、メタモルフォーゼをするんですが。
ここの劇場に、心臓弱い方とか、いらっしゃいますか??」
隣のサラリーマンが思わず噴き出した。
「ちょっと…笑いごとじゃないんだって、そこのおにいさん! 失神するレベルなんだからねッ!」
トマトちゃんが腰に手をあてて、むくれてみせた。
なおも肩を震わせて静かに笑い続ける、サラリーマン。
「バカ言うなよ…なにがメタモルフォーゼだよ」
ククク…と笑い続けている。
俺も隣のサラリーマンと「なーに言ってんですかねえ」と同調してクククと笑いたい気分になった。
「メタモルフォーゼ」の意味はたしか「変身」。
この平成の時代、魔法を使って変身なんつうものは、ありえない。
アニメの世界ならあるけれど、それだって……今の時代じゃ流行っていないジャンルだ。
変身っていったって、結局、衣装の早替えみたいなもんだろう?
いやまてよ、紅白の(かつての)小林○子みたいな大がかりな演出があるのだろうか?
トマトちゃんは、「もう知らないからね~プンスカプンプン」と言いながら、
後ろを向く。
ライトも少し落とされて、静寂の間が広がった。
トマトちゃんの息を吸う音が聞こえて……そして叫んだ。
「まずは、会員番号1番。あかしろトマトでっす!
メタメタメタモルフォーゼェェ~!!!」
トマトちゃんのまわりに金色の光が飛び散った。
一瞬のことだった。
俺はまぶしくて、思わず目をつぶる。
ちゃり~んと鈴の音が鳴って、舞台を見ると、トマトちゃんがこちらを向いて笑っていた。
口には八重歯……いや牙みたいなものがついていた。
フラッシュがたかれた直後に、目が明るさに慣れずにチカチカする状態だった俺。
最初は見間違えたのかと思っていた。
しかし、トマトちゃんはそれが本物かを証明するように、牙をひっぱってみせたり、木の板にがぶりと噛みついてみせた(…ひとかみで、2つの穴をあけた!)
そして「早く血が吸いたいぞ~!!」と素早くマントをつけて、吸血鬼になってみせる。
ふと舞台左を見ると、青白い男性が舞台のそでに立っているのが見えた。
「いけにえじゃー!」
トマトちゃんはそう叫ぶなり、男性にとびついて襲った。
首筋に牙を当てて、ストローでチュウチュウ吸った。
本当に飲んでいるわけではなさそうだが、男性は至高の表情を浮かべている。
「ああ……いい」
そんな声まで聞こえもれてきた。
1分もたたなかったと思う。トマトちゃんはストローを男性からちゅぽんっと外すと、「おいしかったぁ~やっぱり最高だね!O型の血!」と口のまわりを赤くして笑った。
男性はトマトちゃんを見て、微笑んでいた。ふらふらと起き上がると、そのまま舞台袖へと歩いて行った。
ずっと首筋を押えていた。そこからは一筋の血がつーと流れていたように思ったが…?
(ずいぶん手が込んでるな…)
俺は別の意味で感心してしまった。
「いずれはあなたのエキスを吸いにいきます!ってことで、吸血鬼トマトでした~」
トマトちゃんから、いつのまにか牙が消えていた。手を振って歓声にこたえている。その姿は、普通の可愛い女の子といった感じだ。
次は2番手の少し小柄な女の子がやってきた。
トマトちゃんとハイタッチして、そのまま後ろを向く。トマトちゃんはそのまま退場。
「会員番号2番。ねこむらタミーだにゃーん!
メタメタメタモルフォーゼェェ~!!!」
またしてもまばゆい金色の光が劇場を包んだ。




