②-6 闇闇ガールズ
舞台に立つのは、5人のアイドルたち。
ゴスロリ風のミニスカートを履いて、それぞれポーズを決めている。
(あ、いたいた!)
例のミニスカサンタのお姉さんは、右端で「あちょー」みたいなポーズを決めていた。この間は気にならなかったけど、5人の中でも一番とびぬけるくらい背が高い。
そしてスタイルがむちゃくちゃ良い!!
おおきくはだけた襟元からのぞく……胸の谷間。
たぷんたぷんと揺れている。超…やわらかそう……。
ごくん。と唾をのみこむ。
って何見てんだよ!俺は!
そうは思っても、もう目を離すことはできない。
と、たちまちイントロが流れ出した。
真ん中のリーダー格と思われる女の子が、静かに歌い始める。
「♪~明け方帰ってきたあなたから、女の匂いがしました。
あなたのスマホをのぞきみた私…たまらず発狂します…。
まだ元カノとつきあってたんかぁぁ~~い!!」
その場でダンッと足を踏み鳴らす女の子。
俺はびくっとして肩を揺らした。前列でも驚いていた人が何人かいたようだ。
(ぜ、前奏だけで、いきなりディープだな……)
アイドルっつうと、杏奈みたいに「アイドル星から来た」だの「タイムマシンがどうたらこうたら」と歌って踊るイメージがあったから、いきなりこんな歌詞で始まって、あっけにとられていたのだ。
な、なんか、恨み節の演歌のような……。
すると、てぃろてぃろてぃろ~♪と軽快な曲調に変わった。
(そうそう!こんな感じだよ!アイドルっていうのはさ!)
杏奈はまさしく「THEアイドル」みたいな典型的なパターンだったから、それとどうしても比較してしまう。
右端のあの女の子も、やっとマイクを手にとった。
(歌うのか? 歌うんだな!)
俺はホクホクして、前に身をのりだした。
「「「「「もっちゃう!もっちゃう!もぉ!もっちゃうっ!!」」」」」
5人でジャンプをして、大絶叫を始めた。
「……っ!!」
俺はたまらず口を手にあてて、あたりを見渡した。
「「「「「あなたにポイズン、もぉ!もっちゃう!!!」」」」」
(あ~…もっちゃうってそういう意味ね……びっくりした)
そう思うやいなや、
今度はお腹に手を押し当てて、舞台を自由自在に走り回る女の子たち。
「「「「「もっちゃう~もっちゃう~」」」」」
「…………」
口を半開きにして、あまりにも間抜けな顔で見ていたからだろうか。
隣の老婦人が、横の俺を見て、「ふふ」と噴き出した。
「ごめんなさいね。あなたの顔面白くて……」
「あ、いえ……」
そうこうしてる間に、中央の女の子が「えーん…もっちゃった~」と泣きまねしながらパタンとお姉さん座りで座り込んだ。
すると、そこからじわじわと水がにじみだす演出までされたではないか!
「……!」
俺は驚きのあまり、口をとじることができない。
この演出は涙なのか…それとも、い、いわゆる尿…なのか……?
スポットライトが当たったのち、暗転。
客席から「トマトちゃ~ん!!」という野太い声。
(つ、ついていけね~)
トマトちゃんが「デビューシングルのポイズンでしたぁ~」とアニメ声で言うと、最前列のうちわを持った軍団がうおおおおおおお…と地の底を這いまわるようなうめき声を出した。
(……俺の想像をはるかに超えてました。すみません帰ります)
席を立ちかけた俺に、老婦人がささやく。
「見ないで帰ってしまうつもり? 彼女たちの真骨頂はこれからなのよ」
「……」
「遊びでやってるんじゃないの。アイドルはいつだって真剣なの。ときには命がけなの! 観客のあなただって、最後まで見届ける義務があるはずよ!」
老婦人の落ち着きつつも厳しい言葉が、俺の胸にひたひたと浸み込んでくる。
(杏奈だって……リビングのテーブルの上で、あんなに汗たらして踊ってたもんな…観客は俺しかいなかったのに…)
俺は思い直して、再び座りなおした。
隣の老婦人が何者なのかも、この際どうでもいい。
おれたちはいま、この劇場という箱のなか、一体となって
「闇闇ガールズ」を…見て、そして応援している!
見届けようじゃないか! 彼女らの真骨頂ってやつを!




