②-3
「俺、ちょっと腹いたいから、2人で行ってきてください……」
消え入りそうな声で言って、俺はお腹をおさえるパフォーマンスをした。「うっ」と声まで出したのはやりすぎか?
でもここまでするのには訳がある。
杏奈が静蘭に通ってるのは、皆さんもご存じの通り。
静蘭女子学園中等部から受験入学をして、アカデミーコースとかいう芸能科に通っている。現在中学3年で、来年から高等部にそのまま上がるそうだ(都さん談)
その科には、今テレビに出ているタレントやモデルが多く在籍しており、普段撮影とかで出られない日数を間に合わせるために、現在!絶賛!冬季授業中らしい。
大事なことだからもう一回言う。
現在!絶賛!冬季授業中らしい。
杏奈も朝早くに学校に行ったようだ。
絶対はちあわせするだろ!!
この状況で会わない方がおかしい!!
思い悩む俺をよそに、智毅がカカカっとはじけるように笑う。
「おいおい! 瞬よ~おまえ、緊張してんのか~。だからぁ『萌えキャン』して免疫つけとけって言ってただろ。いきなり生身の女子なんて、刺激強すぎだもんな」
それはおまえだろ、智毅!
あともう少しで、口から出そうになった。
イライラして、実は先ほどから手がプルプル震えている。
まあ……その通りかもしれないが(?)
俺は、ただ杏奈に会いたくないだけだ!!
というか、智毅にはまだ……杏奈に会わせたくないだけだ!!
震える手でお腹を押さえたままの俺を見て、智毅が言う。
「え~まじかよ~。……そしたら俺もいいや」
「!」
俺は驚いて、反射的に顔を上げた。
コートを着始めていた熊谷先生が「井坂、静蘭行かないの?」と聞く。
「う……ん。だって瞬も体調悪いみたいだし。俺も…ちょっと緊張してるんすよね。実は」
「君たちは本当にウブだなあ。来年の教育実習が静蘭になったらどうするんだよ」
「「えっ! なる可能性あるんすか?」」
思わず智毅と声がハモってしまった。
「うん。うちの学校からも何人か、行くことになってるよ。うちからも人選するし、あちらの選考も…なかなか厳しいから、希望者全員が行けるわけではないけれどね」
「めっちゃ行きてえええ!!!」
智毅が腹の底から声を出して、興奮をあらわにする。
「はは……赤西もそう言ってたな」
「はあ? あいつが? どこまで女好きなんだよ! あ、そうだ。ちょっと先生聞いてよ! 俺らあいつに騙されて……」
この間の合コンの話を、身振りをまじえて熊谷先生に話す智毅を見ながら、
俺は考えていた。
俺はぜったい静蘭なんかに教育実習には行かない。
地元の母校、県立あさひやま高校に実習に行く!!ことはもう決めている。
元担任にも話してあるくらいだから。
ただ……赤西が静蘭希望なのは、少し…胸にひっかかる。
杏奈を見て、赤西はどうするだろう・・・
「やあぼく……ピー(事情により音声は入りません)だよ! 一緒に遊ぼうよ!」
例の夢の国のあのお方の声が、俺の頭に響いてきた。
それを聞いて杏奈が微笑む顔が一瞬頭をよぎった。
俺は、そんなことない!とばかりに
「グアガッガッグアゴグア!!!」
あのお友達のあひるのように、ぶるぶるぶるっと頭を振っている…。




