②-4
結局、俺たちはミックス亭の向かい側にある、蕎麦屋に入ることになった。
「あれ、瞬! おまえ腹は?」
「あー……さっきクソしたら直った」
「ふざけんなっ! てめえ!」
智毅が、俺が巻いているピンクのマフラーを使って、本気で締め上げる。
「まじ…ちょ……ぐえええ」
後は言葉にならなかった。血走った顔で締め上げる智毅を見て、嘘つくのは悪いと実感した。
よっぽど行きたかったんだなァ、悪かった。
向かい側で信号を渡ろうとしたときに、黒い車が静蘭の校門前で止まるのが見えた。
出てきたのはいかめしいハゲのおっさん2人だった。
「うっ」
それ以上見続けていられなかったのは、
おっさんたちが拳銃を俺たちに向けたから。
ではなく……。
つるつるっとした頭部に昼の燦々と照りつける太陽が、反射したからだった。
2人になると光量も2倍になり、まぶしくて、とてもとても見ていられなかった。
だから、学校から2人の女の子が走って出てきたのもよく見えなかったし、そのうちの1人がまさか杏奈なんて…俺は思ってもみなかった。
そんなこんなで熊谷教授に蕎麦をおごってもらい、帰路についた。
家に帰って「ただいま~」と言うが、なにも返答がない。
親父たちどこか出かけたのかな。
そう思い、リビングのドアを開けると、
「のわっ!」
杏奈が1人、ソファにもたれてテレビを見ていた。
冬だというのに、毛糸のハーフパンツを履いており、すらっとした素足がテーブルの上にどんっとのっている。
上はさすがに、セーターを着ていたがそれだって右肩に大きくずれている。
肩にかかるヒモはさすがに、ブラジャーではないようだが。
見てはいけないものを見たような気がして、俺は思わず目をそらした。
「にいに、今日横断歩道のところにいたでしょ」
「!」
杏奈は先ほどの俺たちを目撃していたらしく、俺に詰問してきた。
「…いたよ」
「いっつもあの男3人でつるんでるの~? キモッ」
杏奈はテレビから視線を外すことなく、無表情で口から発する。
約1週間も一緒に暮らしていると、「キモッ」がこいつの口癖であることはわかってくる。だから腹も立たなくなってきた。
相手にしないのが一番だと思い、階段の方に向かう。2階の俺の部屋に行って、ゲームでもしよう。
と背後で、杏奈がつぶやいた。
「明日って用事ある?」
俺は一瞬なにを言われたのか理解できなくて焦ったが、「うん」と短く返答した。
「…………」
機嫌を損ねたのか無言になった杏奈に、「なにかあるの?」と聞いてみた。
「別に……」
髪の毛の先をくるくると器用にいじりながら、そうつぶやく杏奈。
俺はリビングから出ていきかけて、そっと後ろを振り向いた。
ソファに座る杏奈の後ろ姿がやけにさびしそうに見える。
いや……別にたいした用事でもないのだろう。
そう思い直して、きびすを返して部屋に向かった。
俺はとにかく明日のライブのことだけを考えることにした。
あの……ミニスカサンタの女の子にまた会いたい。
「あなたもね!」という優しいあの口調で、再び声をかけてほしい。
日にちが経つとますます、昔の母さんのかすかな記憶が、女の子と結びついていく。母さんも若い頃、あんな感じだったのかな……。
俺はこの数日、毎日のようにパソコンで、チラシにのっているアイドルグループを検索していた。
ブックマークをするくらいに。
ちなみにyoutubeにはのっていなかった。まだそこまで有名なグループではないようだ。
……杏奈の「マリアンヌ」もだ。




