第4話 奇跡、火星の塔へ
戦場では、兵士たちが剣を下ろした。
敵同士が互いを見つめる。
「……戦う理由が分からない。」
剣が地面へ落ちる。
盗賊は盗みをやめた。
殺人者は刃を捨てた。
長年争っていた部族は抱き合う。
母親は涙を流す。
「争わなくていい……。」
病院では医師たちが、
言葉の壁なく治療を始める。
商人は互いを騙さなくなる。
国境では兵士たちが握手を交わす。
アントニウスでさえ、
一瞬だけ思った。
「これでいいのではないか。」
戦争は止まった。
犯罪も止まった。
憎しみも消えた。
人類史上、
初めて完全な平和が訪れようとしていた。
しかし
ナターシャは広場の子供たちを見る。
全員が、
同じ笑顔だった。
同じ遊び。
同じ動き。
同じ歌。
一人の少女が絵を描いていた。
隣の子も、
まったく同じ絵を描く。
さらに隣も。
百人全員が、
同じ太陽を、
同じ色で、
同じ位置へ描いている。
老人は同じ昔話を語る。
詩人は同じ詩を書く。
職人は同じ器だけを作る。
音楽家は、
世界中で同じ旋律だけを演奏していた。
ナディアは涙を流す。
「夢が……。」
アントニウスが静かに呟く。
「誰も、自分だけの夢を見ていない。」
ベルシャザルの理想
天空神殿。
ベルシャザルは世界を見下ろいていた。
神官が感動して涙を流す。
「成功です!」
「戦争が消えました!」
ベルシャザルは静かに頷く。
「人は皆。」
「幸福になれる。」
彼の脳裏には、
焼け落ちた故郷が浮かぶ。
泣く妻。
倒れた息子。
幼い娘。
「もう。」
「誰も。」
「家族を失わなくて済む。」
彼は涙を拭った。
「これが。」
「私の答えだ。」
最後の違和感
アントニウスは広場を歩く。
一人の少年へ声をかけた。
「将来、何になりたい?」
少年は微笑む。
「皆と同じです。」
「皆と同じ?」
「はい。」
「皆が幸せなら、それで幸せです。」
「夢は?」
少年は首を傾げる。
「夢とは何ですか?」
アントニウスの背筋が凍った。
その問いは、
あまりにも自然だった。
夢という概念そのものが、
世界から消え始めていた。
巨神の鼓動
地下深く。
巨神バビロン。
胸部に三つの封印が輝く。
ドクン……
ドクン……
さらに四つの空洞が赤く光る。
ベルシャザルは静かに手を伸ばした。
「あと四つ。」
「火星。」
「木星。」
「土星。」
「そして最後の封印。」
「すべて揃った時。」
「世界は永遠の平和を手に入れる。」
その瞬間、
巨神バビロンの瞳がゆっくりと開いた。
青い光が世界を照らす。
アントニウスはその光を見上げ、剣を強く握りしめた。
「平和のために、人間であることを捨てるわけにはいかない。」
彼はナディア、ナターシャと視線を交わす。
三人は同じ決意を胸に、次なる塔、火星の塔へ向かって歩き出す。




