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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第二章 紫月花の非情

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紫月花の非情――52

紫月花の非情――52




その日、俺はレイと一緒に東北のとある村にやってきた。


8時前にマンションを出て、新幹線を降りたのは11時を過ぎた頃。

そこから、地元のローカル線を乗り継いで、14時前。


やっと村の麓にたどり着いた。


目の前に広がる田舎の町。

デカデカと聳えてる山の中に目的の村


――常祈戸村がある。


山道に入った途端、空気が変わった気がした。 

風はあるのに、音がしない。


村に近づくにつれ、どんどん空気が変わる。

 

軽い。

 

……いや、違う。

  

この空気。

 

霊の気配が薄いんじゃない。

核の気配はあるのに、匂いが無臭だ。

 

「どうした」

 

前を歩くレイが振り返る。

 

「いや……なんで、ここ霊災起きないわけ?」

 

レイはメガネを押し上げて、一つ息を吐いた。


「結界が張られてる。もう崩れるのも時間の問題だが、まだ機能はしてる」


「結界か……便利だな」


そう、呟いた、



その時だった――



レイの足が止まった。


「どうしたんだよ!」


「静かにしろ」


そう言ってレイは周囲を見渡す。


だが、暫くしてレイはまた歩き始める。



レイの後を追って、問い掛ける。


「何があったんだよ」


「俺達の侵入が知られた」


「は?」


レイは淡々と歩きながら答える。


「結界に入るということは、そう言うことだ」


「大丈夫なのか? それ」


レイはメガネを上げて、少し笑った。


「――問題無い」




****



15時。


たどり着いた常祈戸村は、マジでド田舎だった。


山奥で森に囲まれた村は、見渡す限り畑。

その奥に、三十数軒の民家があって、

後は寺と神社みたいな家が一つだけ。


両脇に畑が続く道を歩いて、民家が並ぶ所へ向かう俺達。


「とりあえず、ハレん家か?」


「あぁ」


俺が問い掛けると、レイは短く返して、メガネを外した。


「お前っ、メガネ外して見えんの?」


「問題無い。視力は悪くない」


「は? マジっ!? じゃ、なに? まさか能力解放的なっ!?」


「煩い。ただの伊達だ」


「――はぁぁぁあ!?」



その時だった――



誰かの視線を感じた。

顔を上げる。

 

 

――いた。

 

 

民家の影。

畑の奥からも。

何人もが、 

無言で、こっちを見ている。


レイは動じること無く足を進めた。

俺も黙って後ろをついていく。

 

分かってる。

 

こいつら――

 

俺達が何者か、理解してる


「……完全にバレてるな」

 

レイは何も言わない。


住居が並ぶ所に差し掛かると――

目の前に一人の男が現れた。


「君達は誰だい。何をしにここに来た。」


住職みたいな格好をしてるオッサン。

俺達を囲むように、男達が出てくる。

完全に部外者侵入のソレ。


恐怖は無い。

寧ろ、今どきこんなのあるのかよって、

笑っちゃうレベル。 

 

俺は笑って言った。 

 

「旅だよ、ただの男2人旅。ちょっとここの村で、休ませてくれない?」



その瞬間――

 

空気が変わった。

さっきまでの警戒が、嘘みたいに消える。

 

「そうかい。それなら、歓迎するよ」


は?

 

なんだよ、それ。

 

背中に、嫌な汗が流れた。


この村、普通じゃねぇ。



***



なぜか歓迎された俺とレイは、

住職に招かれて、寺の本堂にやってきた。


薄暗いそこは、畳一面の部屋の中に本尊が三体。

金色の飾りが並んでいた。

部屋の壁には、住人らしき人物の名前が書かれた半紙が張られてたり、

寺の前で撮られた住民の集合写真みたいなものが、掛けられている。


「こちらへ」


住職が座布団を引いて、俺達を促す。

レイに合わせて座布団に座ると、お茶と茶菓子が振る舞われた。


「ありがとうございます」


そう言って、レイは出されたものに手をつける。


その光景が信じられなかった。


ちゃんとした店の飯しか食わねぇのに。

ましてや、こんな敵見たいな奴に出されたものを口につけるなんて。


それほど、レイが本気だと言うなら――

俺は、茶に手を伸ばした。


透き通った、緑の緑茶。


一口、口に含んだ瞬間――


「うまっ………」


思わず、溢れた。


見た目はただの緑茶。

それなのに、普通の緑茶より香りが強くて、

渋みがほぼ無く、スッキリ飲める。


こんなに飲みやすい茶は始めてだった。


しかも、もう一口と口に運びたくなるような――

身体が軽くなって、思考が研ぎ澄まされるような、

不思議な感覚を覚えた。


「これは、霊力で淹れたものですか」


レイが茶碗を置いて尋ねると、住職は嬉しそうに答えた。


「分かるかい。君達はこっち側の人間だと思ってはいたが、かなり鋭いね」


住職は、穏やかに笑ったまま、茶を啜る。

 

「ここではな、霊力は、使うものでは無いんだ」

 

一拍。

 

「巡るものなんだ」

 

俺は、無言で茶碗を見下ろした。

 

「……巡る?」

 

「そうだ。奪うでも、抑えるでもない。ただ、流れを整える」

 

これが、この村の思想か。

 

「だから、外のように溜まることも無い。霊災が起きないのも、その為だ」

 

住職が、ふと視線を上げた。

 

「だが――」

 

一瞬だけ、間が空く。

 

「巡りが、乱れる時もある」

  

静かに、茶碗を置く音が響く。

  

「そういう時は……祈りを捧げる。捧げ無ければならんのだ。」



「その祈りとは、祈扉術と関係が?」


レイが尋ねると、住職は驚いた様に目を見開く。


「祈扉の事を知っているのかい?」


「少しですが、三種の扉と、あと一つ、鍵がある事は」


――ガタンッ。


「なぜ、それをっ!!」


住職が、身を乗り出し、

ひっくり返った茶碗を気にもせず、レイに食いつく。


「詳しい友人が居まして」


「もしかしてっ、花ちゃんかいっ!?」


さっきまでの落ち着きが消えて、


ハレの名前を出す住職。


レイは、少し間を空けて、口を開く。


「………はい」


「花ちゃんは、今どこに居る!どこに居るんだ!!」


さっきまでの村の住職の顔は、もう無い。

 

目の前にいるのは、ただの一人の人間だ。


「彼女は今、ある組織にとらわれています。簡単には抜け出せません」


「どこだっ!!家の息子達も彼女を探しに行ってて………分かるならっ」


「…………霊災害対策庁、です。」


「――っ。」

 

空気が、凍り付いた。

 

……やっぱり、わざとだ。

 

祈扉の話を出して、

鍵まで踏み込んで、

住職の反応を引き出した。


そして、最後に庁の名前を出した。

完全に、誘導してる。

 

俺は、茶碗を持つ手を止めたまま、レイの横顔を見る。

いつも通りの顔。

こいつ、最初からここまで引き出すつもりで来てる。

 

住職の呼吸が、乱れている。

 

「……あの連中か」

 

絞り出すような声。

確実に何かを、知ってる反応。

レイは何も言わない。

ただ、静かに次の言葉を待っている。

 

――喋らせるための間

 

ほんと、えげつねぇな。


住職の視線が、ゆっくりと落ちた。


何かを決めた顔だった。



***



住職は、しばらく何も言わなかった。

倒れた茶碗を起こし、

ゆっくりと元の位置に戻す。

その動作だけが、やけに丁寧だった。

 

「……この村にはな、昔から四種の扉がある」

 

ぽつりと、落とすように言う。

 

「天、無、地。この三つは修行すれば、大抵の人間は開ける」

 


一拍。

 

 

「……だが。四つめの、仏の扉は違う」

 

レイは、何も言わない。

 

「彼女にしか、開けない」

 

ほんの僅かに、間を空ける。

 

「決して、開いてはならない扉だ」

 

住職の視線が、わずかに揺れる。

 

「……本来なら、外に出ることは無い。

だが、霊対庁が管理しているというなら――」

 

 

そこで、言葉が途切れた。

 

 

――ここから先は、簡単には話さない。

 

条件を出す気だ。

 

だが。

 

それを許すほど、レイは甘くない。

 

 

「……安心しているようですが」

 

 

住職の眉が、僅かに動く。

 

 

「その前提は、少し楽観的すぎる」

 

 

レイは、わずかに視線を落とした。

 

 

「管理されている、ということは――

いつでも触れられる位置にあるということ。」

 

 

住職の表情が、わずかに強張る。

 

 

「人は、条件が揃えば変わる。それが、どれほど慎重に扱われていようと」

 

 

レイは、そこで言葉を切った。

 

 

「……ご存知でしょう」

 

 

沈黙。

 

 

住職の声が、低く落ちる。

 

 

「……君たち、何者だ」

 

 

レイは、表情を変えない。

 

 

「ただの旅人です」

 

 

一拍。

 

 

「――ですが」

 

 

空気が、張り詰める。

 

 

「条件次第では――貴方達の望みを、叶えることもできる」

 

 

住職は、何も言わなかった。

 

 

ただ、静かに――

 

 

こちらを見ている。

 

 

その目は、

 

 

値踏みする者の目だった。

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