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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第二章 紫月花の非情

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紫月花の非情――43


今日、俺とリオはレイの仕事を押しつけられた。


7時半を少し回った頃。

まだコーヒーの一杯目すら飲んでいない時間帯に、

レイからメッセージが届いた。


表示された通知を見た瞬間、嫌な予感はした。

こういう時間に来る連絡は、大体ろくでもない。


開くとそこにあったのは、びっしりと詰め込まれた一日のスケジュールと、 最後に添えられた、たった一言。


『代わり頼む』


……それだけ。

理由も、説明も、謝罪も無し。

いつも通りといえば、いつも通りだ。


「……はぁ」


思わず、声が漏れる。

まぁ、昨日は遅かった。

夜中の3時に、胃が重くなるような話をして、

解散したのは、ほぼ朝方。


眠いのは分かる。 むしろ、倒れてないだけマシだ。


でもな。

俺もだからな?

そんな脳内ツッコミを入れつつ、スマホの画面に視線を戻す。

スクロールする指が、途中で止まった。


――――――――――――――――――――――――

午前・庁内勤務

午後・現場、第5エリア研究開発所B視察

8:20 庁内全体朝礼(本庁22階・部門合同会議室)

9:00 現場対策部門朝礼(特務対策タワー5階)

9:35 庁内幹部会議(本庁26階)

10:10 情報分析部門にて霊災発生予測の確認、非番隊員の状況整理

10:45 訓練生の訓練巡視、現場投入候補の選定

11:15 管理部門にて出動報告・機材・備品の見直し

11:40 小隊長面談(B級C〜G班)

――――――――――――――――――――――――


……無理だろ。


いや、正確に言えば―― 一人でやる量じゃない。

俺は、スマホを持ったままため息をついた。


「これ……絶対、時間内に終わんねぇじゃん………」


誰に言うでもなく、そう呟く。

それでも、頭の片隅では分かっていた。 これ、全部。

普段は、レイが一人で回してる。

誰かが倒れないように。 どこかが詰まらないように。

現場が回ることを最優先に。


……そりゃあ、たまには抜けたくもなるよな。

そう思いながらも、 画面に並ぶ予定を見て、もう一度だけ息を吐いた。


「……マジで、どんだけ仕事してんだよ、あいつ」




***



会議、会議、会議。


気づけば場所だけが変わって、

同じような顔ぶれが同じような言葉を並べている。


「はい、次」 「次、こっち」 「時間ない、まとめて」


俺とリオは、完全にレイの代役として動いていた。

というか、代役ってレベルじゃない。

レイが一人で回していた世界を、二人で必死に支えてる感じだ。


会議が終われば書類。 書類が終わればまた会議。

サイン。 ハンコ。 サイン、ハンコ。

データを開いては圧縮。

分析、演算、再計算。

弾き出した数字を、別のフォーマットに落とし込む。


「……っ、」


指先がじわじわ痺れてくる。

頭の中が、数字とフロア番号でいっぱいになる。

数式オタクの俺でもハードモードだ。


昼過ぎ。

ようやく、本庁のレストスペースに辿り着いた。


「……ランチ、って言っていいのかこれ」


トレーの上には、ほぼ味の記憶が無い定食。

俺とリオは向かい合って座り、

その間にも、書類とタブレットを挟んでいた。


「だぁぁっー!!!」


思わず、声が漏れる。


「終わんねぇ!!マジで終わんねぇ!!」


リオは眉一つ動かさず、資料から目を離さない。


「嘆くな。手を動かせ」


「冷てぇな!?」


「いつも、これを一人でやってた奴がいるでしょ」


……言い返せなくなる。 それもそうだ。


俺はフォークを置いて、ふと窓の外に目をやった。

ガラス越しに見えるのは、特務対策タワーの外。

行き交う人影の中に——


「あ」


思わず、声が落ちた。


私服。 肩の力を抜いた格好のレイと、 その隣を歩くハレ。

手を繋いでいる。 自然に。 当たり前みたいに。

遠目からでも分かる。 あれは仕事中の二人じゃない。 ただの——


「クッソ………あいつらデートしてる」


俺がそう呟くと、 リオも視線を動かし、同じ方向を見る。

一瞬だけ。 それから、静かに視線を戻した。


「……たまには、いいでしょ」


短く、それだけ。


レイは笑っていなかった。

でも、どこか柔らかい横顔だった。

ハレは、何か話しながら身振り手振りで歩いていて、

レイはそれを見下ろして、少しだけ歩調を合わせている。


——ああ。

俺は、もう一度だけ二人を見てから、 トレーの書類に視線を戻した。


「……今日は、仕事する日だな」


リオが頷く。


「そう!働け、仕事なんだから」


代わりに。 全部を背負うわけじゃない。

でも今日は、 “あいつが選んだ一日”を、俺たちが支える日だ。


そう思って、もう一度ペンを握った。


「でもさ、俺等、まだ高校生だよな? 通ってねぇけど」


「うるさい。さっさとやれ!」


「はい………」



***



夕方。

もう、ダメだ。 今日は完全に、限界を超えた。


エレベーターを降りて、共同リビングのドアを開けた瞬間、

俺は考えるより先に体が動いていた。


「つっかれたぁぁぁぁ……!!」


ソファにダイブ。 反動でクッションがずれる。

顔を埋めたまま、しばらく動けない。

背後で、リオが無言のまま冷蔵庫を開ける音。

次の瞬間、オレンジジュースを取り出して――


ごくっ

ごくっ

ごくっ

一気飲み。


「……生き返る」


「お前、今日それ三回目な」


「まだ足りない、あと2本は行く」


怖っわ。

俺は天井を仰いだまま、ぼやく。


「マジでさ……レイ、普段これ一人でやってたって正気か?」


「正気じゃないから出来るんでしょ」


即答。


「だろうな……」


その時だった。


——チン。

エレベーターの到着音。


「……?」


俺はソファに寝転がったまま、視線だけ入口に向ける。

自動ドアが開いて、 買い物袋を両手に下げた二人が入ってきた。

レイと、ハレ。


一瞬、ほっとした。 ちゃんと帰ってきた、それだけで。


……でも。


次の瞬間、その空気がおかしいことに気づく。

ハレが、レイを見上げている。

今にも泣き出しそうな顔で。 唇をきゅっと噛んで、必死に堪えてる。


「……ん?」


嫌な予感がした。

俺は体を起こす。

そして、レイの足元が視界に入った。


——左足。


包帯。 その上から、しっかり固定されたギプス。


「……は?」


一拍。


「はっ!?ちょっ、えっ!?何!?怪我!?!?」


一気に脳が覚醒する。

俺は慌ててソファから飛び起きた。


「なに!?殺されかけた!?霊災!?伏兵!?まさか常祈戸――」


「落ち着け」


リオが冷静に遮る。


「死んでないでしょ」


「そこ基準!?」


レイは、いつもの無表情で言った。


「何でもない」


信用ゼロ。

その横で、ハレがうるうるしながら、震える声で言う。


「レイが……スケートしてて……」


「スケートっ!?」


「転んじゃって………」


次の瞬間。


「っ——!」


レイが慌ててハレの口を手で塞ぐ。


「言わなくていい」


完全に遅い。

俺とリオは一瞬顔を見合わせて――


「……っ」


「……ふっ」


耐えきれなかった。


「ははははははははは!!!!!」


「スケート!?転倒!?お前、どんだけ平和な怪我だよ!!」


腹を抱えて笑う俺。


「しかもギプス!?全治何週間コース!? 

任務じゃなくてレジャーで!? ハレとデートしてて!?!?」


「うるさい」


レイの眉がぴくりと動く。 完全に不機嫌モード。

ハレはというと、涙目でオロオロしてる。


「ご、ごめんなさい……私が……」


「ハレは悪くない」


即座に言うレイ。

その温度差よ。

俺は笑いを拭きながら、リオを見る。


「なぁ、これどれくらい?」


「……見た感じ、骨折。軽くても三週間」


「三週間!?」


次の瞬間。

レイが、爆弾を落とした。


「当分、現場に出れない」


静寂。


「お前たちに、任せる」


一拍。


「「は?」」


俺とリオ、完全にユニゾン。


「はぁぁぁぁ!?」


「聞いてない!!それ今言う!?」


「地獄スケジュール、続行ってこと!?」


レイは淡々と続ける。


「書類と会議は問題ない、現場は無理だ」


「問題しかねぇよ!!!」


俺は頭を抱えた。


「俺たち今日一日で死にかけたんだけど!? それを三週間!?

高校生にやらせる仕事量じゃねぇ!!」


リオは、深くため息をつく。


「……覚悟、決めるしかないね」


「決めたくねぇよ!!!」


その横で、ハレが小さく言う。


「……ごめんね……」


一瞬で、場の空気が変わった。

レイが、すぐに言う。


「謝るな」


「でも……」


「俺が転んだ」


短く、それだけ。

俺は一度、天井を仰いでから、肩を落とす。


「……まぁ」


一拍。


「生きててよかったわ」


それだけは本音だった。

リオも、静かに頷く。


「本当、それ」


レイは何も言わなかった。

でも、ハレの頭にそっと手を置いている。


——ああ。

今日は、そういう日だったんだ。

レイが選んで、 ハレが選んで、 その代わりに、 俺たちが地獄を見る日。

俺はソファに再び倒れ込みながら、呟いた。


「……明日から、覚悟決めるか」


リオが即答する。


「当然」


ハレは、申し訳なさそうに、でも少しだけ笑った。

レイは、不機嫌そうに言った。


「……笑うな」


無理だろ。

俺は小さく笑った。


「あの、私も、仕事手伝うから………」


申し訳なさそうに、でも胸を張って言うハレ。


そんなハレに俺は即答した。


「いや、いい」


「え?」


ハレは、なんで?と言わんばかりの顔で俺を見上げる。


いや、お前、レイ居ないと機嫌悪いじゃん?

レイが通常通りに機能しない今――

ハレのお守りしながら仕事をこなすことは無理に等しい。


「ハレは、レイの介助して、移動だけでも大変だから」


すかさずリオがフォローを入れる。


「………うん!分かった!」


まぁ、任せるってのも――


認められたってことだよな?




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