表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第二章 紫月花の非情

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/51

紫月花の非情――40



私は最初から、前線の人間じゃなかった。


実家は貧乏なのに、大家族。

兄妹が8人も居て、家計は火の車だった。


たまたま、霊力を操る事が出来て、

たまたま、霊災って言う自然現象が起きてて、

ちょっと手が器用だった私は――

護身用のハンドメイドアクセサリーを売って、

お金稼ぎをしてた所を霊対庁に見つかってスカウトされた。


中学生を庁の職員になんて、馬鹿げてると思ったけど、

自室も無い田舎の家から出られて、衣食住も整ってて、

稼ぎが親より多いなんて言われれば、飛び付くしかなかった。


霊対庁研究開発部門の仕事は、まあまあ楽しかった。


霊核構造を調べて、理論でまとめて――

「それが使えるかどうか」を判断する仕事。


まぉ、正確に言えば――

使っていいかどうかを決める側。


だから、知ってる。


守るためのものが、どこで資源に変わるのか………。


それでも。

現場に出るつもりなんて、なかった私を

引っ張り出したのは、レイだった。


***


私はアクセサリー型の補助武器を作っていた。

実用性より、装着性と安定性重視。

……要するに、地味な仕事。

だけど、自分で考えて、

良いなと思ったものを形にするのが、楽しくて仕方なかった。


そして、そこによく来る子がいた。


研究開発室の棚を覗き込んで、

指輪やネックレスを手に取って笑う。


——ハレ。


第一印象は、可哀想な子だった。

特殊な体質のせいで、研究開発部門に良いように研究されて、

半月に1回は、力の安定を図る検査。


「これ、可愛いっ!!」


目的なんて、ない。

ただ、可愛いから。

その日も、そうだった。


「リオ、これ作ったの?」


そう聞かれて、私は少しだけ誇らしくなった。


その時だった。


「……ハレ」


廊下の向こうから、低い声。

ハレを探して歩いていたレイが、私を一瞬だけ見た。

武器でも、資料でもなく、私の作品を――

そして、短く言った。


「前線、興味あるか」


私は断らなかった。


それからは、現場対策部門に席を置いて、

たまに研究開発部門に顔出して新作を作る。


そんな日々をずっと過ごしてる。


強制もされてないのになんで断らなかったのか、

今でも良く考えるけど、良く分かんない。


きっとあの時、ハレを妹達に重ねたのかもしれない。

もしかしたら、2人の関係に家族の温かさを思い出したのかもしれない。


それでも、ここに来たことを後悔するなんて――

私は一度もなかった。



***



「あんた達がなにをしようとしてるか、武道祭達の事も――

ハレが、紫月花だってことも………」


沈黙が落ちたまま、誰も動かなかった。


……あ、これ。

今の一瞬で、全部つながった。


私は小さく息を吐いて、肩をすくめる。


「……あ、今の反応で分かった」


わざと軽く言ったのに、空気だけは一段、重くなる。


カイは一瞬、口を開きかけて——やめた。

レイは、相変わらず何も言わない。


でもね。


否定しない時点で、もう十分なんだよ。


「とにかく、私はもう知らない側には戻らないから!」 


ソファに座って宣言した。


カイが、観念したみたいに視線を逸らし、

レイは否定もせず、ただため息をつく。

それが彼等の肯定のサイン。


私は内心で小さくガッツポーズを決めつつ、表情は崩さない。


「で、確認させて?」


視線を、今度はレイに向ける。


「ハレが狙われてるんだよね?」


一拍。


「目的の為に必要とされてる。しかも、本人の意思とか関係なく――」


レイの眉が、ほんの僅かに動いた。


——ああ、やっぱり。


「つまりさ」


私は、言葉を選びながら続ける。


「誰かが奪いたいんじゃなくて、

使わなきゃいけない理由がある、だよね?」


部屋の空気が、静かに凍る。


「それが、常祈戸村?」


カイが、小さく舌打ちした。


「……ほんと、勘だけで突っ込んでくる女だな」


「褒め言葉として受け取っとく」


私は笑って、でも視線は逸らさない。


「ねぇ。祈扉術って知ってる?」


その言葉を出した瞬間――


レイの視線が、完全に私を捉えた。


——来た。


話は、ここからだ。



***



「私は立場上、祈扉術には結構詳しいよ」


「だろうな」


カイがポツリと呟いて、

レイは無言のまま、見向きもしない。


「天の扉、無の間、地獄の門。3つの扉があって――」


敢えて句切る。 

2人は動きもしない。

つまり、ここまでは分かってるってこと。


なら――


「あと、もう一つ」


カイが顔を上げ、レイの手が僅かに動いた。


これは私にとって、賭けだ。


「全てに通じる――鍵がある」



その瞬間、


「説明しろ」


低い声が響いた。


4つ目の鍵。


これは研究開発部門の中でもかなり重要な機密。

もし何かあった時の為に、レイを止める最後の手段だった。


「条件次第では、教えてもいいよ」


途端に部屋の空気が凍る。


「無条件で言え」


「無理」


言い切るとカイが私の肩を揺する。


「お前っ、正気か?」


「勿論」


絶対に負けない。

簡単には教えないんだから。


「なら出ていけ、自分で調べる」


レイは私を追い出そうとする。ちっとも向きやしない。

 

でも大丈夫。


ここまでは予想通り。


「データも無い。人間の頭の中にしかない情報だよ?」


揺さぶりをかければ、レイは腕を組んで息を吐く。


「吐かせれば問題ない」


本当にレイは、人に頼る事が出来ない。

いや、選択肢すら無いんだ。


「総当たりするつもり?口を割るかどうかも分からないのに?

――時間、あるの?」


「やり方はいくらでもある」


ほんと、ブレない。

まあ、想定内だけど。


そろそろ、蹴りつけようか。


「ハレの検査の意味、わかってる?」


「俺が知らないわけないだろ」


「ただのスキャンで、研究者が――」


そこで、私は言葉を切った。

わざとだ。


「……月に二回も、同じ子を呼び出すと思う?」


空気が、ぴたりと止まる。

レイの視線が、ようやくこちらに向いた。


鋭い。

でも——遅い。


「安定性の確認、霊力の循環量、負荷耐性……名目はいくらでも作れる」


私は指を一本立てる。

「でもね。祈扉術の鍵を扱う場合、確認しなきゃいけないのは——」


少しだけ、声を落とす。


「壊れ方だよ」


カイが、はっきりと顔色を変えた。


「……おい」


「鍵はね――」


私は、研究者の顔で言った。


「使われる前提で、壊れる前提で、それでも開けられるかを測られる」


沈黙。


「祈扉術における鍵は、術式じゃない。道具でもない」


私は、ゆっくりと続ける。


「人間、ハレそのものだよ」


レイの指が、ぎゅっと組まれる。


淡々と、事実だけを並べる。 


「高い霊力容量。循環に耐えうる肉体。そして——」


一拍。


「自分が鍵だと自覚しないこと」


カイが、低く息を吐いた。 


「……最悪」


「でしょ?」


私は肩をすくめる。


「自覚した瞬間、鍵は鍵じゃなくなる。拒否が生まれるから――だから、検査は、検査の顔をしてる。だから、ハレには何も教えない」


言葉が、床に落ちる。


「今のレイのやり方は研究者の思うツボ」


私は、はっきり言った。


「使える状態のハレを勝手に保ってくれるから」


レイは、何も言わない。

否定もしない。

怒鳴りもしない。

それが、答えだった。


「……で?」


私は一歩、前に出る。


「ここまで聞いて、まだ私を追い出す?」


レイは、しばらく黙ってから言った。


「条件は」


「簡単」


私は即答した。


「ハレをここに入れる。ちゃんとハレに教えて選択させること」


カイが、思わず声を上げる。


「無茶言うな!」


「無茶じゃない」


私は、レイを見る。


「ねぇレイ、あんたが今やってることは、ハレを守ってない。ただ選択肢を奪って閉じ込めてるだけ」


言葉は選ばない。

慰めは使わない。

事実を突きつける。

——それだけ。


「ちゃんとハレにも選ばせてあげて」


長い沈黙。

レイは、目を伏せたまま言った。


「……それが出来るなら」


低く。


「俺は、最初からここに居ない」


ああ、そうだ。

この人はもう、戻れない側に立ってる。


私は、少しだけ息を吐いた。


「そっか」


一拍。


「選ばれる自信がないんだ。」


笑ったわけじゃない。

でも、優しくもなかった。


「……それってさ」


視線を逸らさずに言う。


「あんたが、人間だって証拠だと思うよ」


私は立ち上がった。

「じゃ、起こしてくる」


誰の許可も取らずに。

だってこれは、守るかどうかじゃなくて――

選ばせるかどうかの話だから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ