紫月花の非情――33
カチカチと響くのはいつもと同じ、俺のキューブの音だった。
でも、今日は違った。
「おかしい……」
第2エリアの核を順番に破壊してた俺は、
4つ目の核の破壊に取り掛かった所で、ようやく違和感に気づいた。
いつもなら、キューブの回転と共に頭を回して核を解く。
それが俺のやり方。
核独自の複雑な構造体から法則性を探って、理論立て、演算――
そして、核の構造自体をショートさせる。
処理する度に色んな方程式の発見があって、未知の構造体に出会えるのが楽しくて仕方ないんだけど………
今日は最悪――
たったさっきまで処理した核が全部同じ構造をしている。
しかも前に解いたやつ。
理論はもう立ててあるし、答えが完全に同じ演算をずっと繰り返すのは、
方程式オタクの俺も全然楽しくなくて、ただの作業と同じだった。
まぁ、仕事なんだから仕方ないんだけどさ、
ここまで同じってことは、確実に裏がある。
「なーんか、嫌な感じするなぁ〜」
***
「よしっ、ベストタイム更新〜!」
結局、その後も処理した核の構造は全部同じで、
つまんなくなった俺はタイムアタックゲームをしながら処理して回った。
あらかた片付け終えた所で、俺はレイに電話を掛けた。
『なんだ』
電話の向こうから聞こえてくるのはいつもと変わらない声。
「ちょっと、気になる事があってさぁ、今どこ?」
『本庁だ』
「へぇ〜?もう終わった感じ?」
『当たり前だ。手が空いてるなら第3に回れ』
第2エリアを1人で片付けた俺に他のエリアに行けとか言うの!?
今日のMVP俺だよね!?
人使い荒くない!?
まぁ、いつものことだけどね?
「いや、それは良いんだけどね?この霊災おかしくない?なんか仕組まれてるっていうかさぁー」
『分かってる。もう犯人も特定して、今身柄の移送中だ』
「………。オーケー。じゃぁ、後は片付けだけってことね」
『ああ、早く終わらせてこい』
「了解」
電話を切って俺は走り出した。
本当にレイは全く読めない。
俺が第2の処理をしてる間に、あいつは第1を1人で片付けて、
犯人見つけて、現場に指示出しながら、
関係各所と連絡取り合って、報道規制掛けて――
ほんと、頭の中、高性能CPUでも突っ込んでんのか?
いや、外付けしないと収まり切らないレベルだ……。
なんにせよ、レイの頭の中はおかしい。
超怖いし、人使い荒いし、ハレに溺愛してて、色々とぶっ飛んでる。
でも、強くて、ちょっと容赦無いけど、結構誠実な奴。
真面目に働いて、ハレに手を出さなければ基本は無害。
それがうちの激重王子、現場対策部門総監のレイ。
***
第3エリアに入ると、状況はまぁまぁ最悪だった。
核の回収はいいとこ終わってはいたものの、代償はデカかった。
街中のそこら中に遺体が転がってる。
一般人も、うちの隊員達も。
核エネルギーそのものに当てられたり、核の爆発の衝撃だったり、
最悪なのは、避難中に人の波に押しつぶされる圧迫死パターンだ。
「お兄ちゃんっ、ママがっ、助けてっ………」
庁の制服を着ている俺に助けを求める子供。
隣には、母親であろう人物が息絶えてる。
こういうデカイ霊災の時は大抵、こういう場面に出くわす。
ちゃんと指示通りに逃げてればこうにはならないんだけど、
そう上手くはいかない。
どんなに訓練を積んで強くなっても、
研究開発が進んで安全が保たれたとしても、
人の恐怖心をコントロールするのは本当に難しい。
俺は無線を飛ばした。
「第3エリア区画A、要救助の子供が1名――C級以下、対応頼む。」
「了解ッ!すぐ向かいます!」
応答はすぐに返ってくる。
俺はしゃがみ込んで、子供の頭を撫でた。
「もうすぐ別の隊員が来るから、ちょっと待てるか?」
「………ママっ、は?」
「…………っ」
言葉が詰まる。
もう死んでる。
だからこそ、大丈夫なんて簡単には言えない。
けど、事実を落ち着いて伝える程、俺も暇じゃない。
だから、あえて、ずらす――
「もし、君が一人になったとしても、霊対庁はずっと君の味方だよ」
守るとは言えない。
大丈夫だとも言えない。
それでも見捨てはしないと言い切る。
「じゃぁ、俺行くわ。すぐに別の隊員が来て助けてくれるから」
子供はぽかんとして、黙り込んだ。
俺はそのまま背を向けて歩き出した。
あ、勘違いすんなよ?
俺は別に子供に優しいわけじゃない。
好きか嫌いかと聞かれれば、間違いなく嫌いだ。
でも、霊対庁の規則で決まってるわけ。
『子供には優しく、誠実に。』
これからの未来。
人口を保っていかなきゃいけないこの国にとって、
彼等は――
「財産なんだってさ………」
***
「カイさんッ!!こちらですッ!!」
それは第3エリア区画Dに入った時だった。
B級の隊員が俺を見るなり走って来て、なにかと思えば、
C級の小隊一つが、Aランクの霊災処理の際に人間と戦ったらしい。
しかもその人間は、霊災を止める隊員の妨害――
隊員数名が負傷したとのことだった。
現場に到着すると、そこには何もなかった。
霊災は勿論。
その人物達も、
処理後特有の残り香もない。
「間違いないな………」
霊災を神の怒りだとか言って、信仰する人間は一定数存在する。
特務中の霊対庁への妨害は立派な公務執行妨害になる。
こういう場合、大体は警察に回して取り締まるのが一般的だが、
今回は違った。
負傷した隊員達は揃って、
俺等、S級と同じタイプだったと主張している。
つまり、霊力を操れる存在。
民間の協力者にも俺達と同じ毛並みの奴はいる。
でも、そいつらは霊対庁の妨害=反逆だってことは十分に理解してる。
つまり、未登録の処理者。
しかも、霊災を信仰するタイプ………。
頭に浮かんだのは、少し前に会った――
未登録の処理者3人組。
俺等と同年代で、もしかしたらって思ってはいたけどさ………。
俺は僅かに空を睨んだ。
「残念だな」




