紫月花の非情――32
輸送機を降りた瞬間、街中は轟然としていた。
無線、サイレン、怒号——すべてが整理されないまま重なっている。
避難誘導が上手くいってなくて、逃げ惑う一般人がそこら中にいる。
シェルターに向かえば助かりますよって言ってるのに………
なんで言うこと聞かないのかな。
「リオっ、私あっちから行くね!」
「オッケー!片付けたら合流ね」
「うん!」
ハレと二手に別れ走り出すと、
上空から黒いドローンが降りて来るのが見えた。
霊対庁が保有してるドローンは、全部で3機種。
ひときわ目立つ丸くて白い機体が避難誘導や呼びかけをメインとした、
霊対庁のロゴ入りドローン。
小型のシルバーのドローンが情報偵察用。
そして今降りて来てる漆黒のドローンは――
核エネルギー輸送用のちょっとデカイやつ。通称C‐package。
つまり、Cーpackageが降りて来ると言うことは他の隊員が霊核回収を完了させたということになる。
「――第5エリア区画Cッ、回収不能!応援求むッ!」
無線から聞こえてくる応援要請。
ここから割と近い。
「了解、リオ向かいまーす」
私は短く応答して走り出した。
***
「霊核って、近くで見るほど綺麗なんだよね〜」
もちろん、一般人に言ったら怒られるけど。
霊核は人によって見え方、感じ方は様々だ。
私はキラキラと光る、宝石の様に見える。
だから私はこの仕事が結構気に入ってたりする。
ほら、女の子ってキラキラするもの好きじゃん?
レイは歪んで見えたりするけど、肌感で分かるって言ってたし、
カイはなんか良く分かんない数式に見えるらしい。
ハレにいたっては、おばけに見えるとか言ってたかな?
要請のあった場所に到着すると、
C級隊員がハチマルの設置に手こずっていた。
霊災害対策庁の主な霊災処理パターンは2つ。
1つは80(ハチマル)と呼ばれる回収装置で回収する方法。
八角形の箱型の装置を霊核に設置してボタンを押すだけで、
核エネルギーの回収を可能とした霊対庁の革命的発明品。
メリットは、霊核を可視出来ない一般隊員でも霊災の処理が可能になったことと、処理=資源確保のインフラが出来上がったことによって、
研究開発がより進む様になったこと。
デメリットといえば、少し重たいくらい。
あと、一番の課題点は………
「そこ、装置の位置ズレてるよ」
「は、はいッ!」
核を可視出来ない隊員には正確な設置が少し難しいこと。
C級隊員に設置箇所を指示して回収を見届ける。
ハチマルを霊核の正しい位置に設置し、
隊員がスイッチを押すと地面に八角形の枠が投射された。
淡く、しかしはっきりと可視出来る枠からは僅かにだが霊力が纏わった。
「――設置完了っ!回収開始ッ!」
「上手、上手。跨がない様に気をつけてね?」
「了解しましたッ!!」
ハチマルは条件を満たせば必ずエネルギーの回収に成功する。
その条件は、設置者が必ず枠の中で回収完了まで待機すること。
絶対に枠から出てはいけない。
装置が起動し、淡い光が揺らぎ始める。
エネルギーが吸い取られる様は、宝石が散らばる様に綺麗に見えるけど、
回収されたエネルギーは輝きを失った星みたいで見る価値は無い。
「――回収完了ッ!」
エネルギーの回収が完了すると、投射された枠が消える。
信号をキャッチしたC‐packageが上空から降りてきて、
ハチマルを回収させて、研究開発部門に輸送する。
これが一般的な霊災処理の手順。
ね?意外と簡単でしょ?
***
耳に届く無線は、もはや会話じゃなかった。
報告、要請、命令、警告音——
整理される前に、次々と声が割り込んでくる。
一つ拾えば、二つ落ちる。
聞き取れた頃には、もう遅いことも。
「第5エリア区画Aッ!赤反応アリッ!リオさん回れますかっ!!」
「了解、ちょっと距離あるから10分頂戴」
返事の途中で、別の無線が被さる。
「――区画Dにも赤反応ッ!」
判断は一瞬だった。
ハレからの無線が入る。
「リオー、私A行くからD行ける?」
「オッケー、ハレ頼むよー?」
相談じゃない。これは分担だ。
「はぁーい!」
無線の向こうで、誰かが怒鳴っている。
誰かが泣きそうな声で報告している。
誰かの声は、途中で途切れた。
——回線が切れたのか、
それとも……現場で考える時間はない。
次の核の位置に到着すると、下級隊員が地面に横たわっていた。
体温はまだある。だけどもう動かない。
「間に合わなかった……」
ふと視界をずらせばハチマルが転がってる。
エネルギーの回収を試みたんだろうけど、枠を超えたか、エネルギーの爆発に巻き込まれたのか……。
今となっては分からない。
私はネックレスを引きちぎって霊力を込めた。
細長いワイヤーはたちまち伸びていく。
私の武器はこのアクセサリー達。
一番のお気に入りはこのワイヤーネックレス。
2mぐらいまで伸ばして先端を、
こう、ちょっと尖らせる槍スタイルが私のマイブーム。
霊力の込め方次第で槍にも太刀にもなり得る優れモノを、
カイはギロチンネックレスって呼ぶ。
首につけるものをギロチンなんて名付けるのは悪趣味だけど、
まぁまぁ気に入ってる。面白いし?
――トスッ
私は引き伸ばして尖らせたネックレスを、核の中心に突き立てた。
突き立てられた核は一瞬だけ硬直する。
この瞬間のワクワクがたまらない。
その硬直に先端をゆっくり突き刺すと、
一瞬だけ収縮して、次の瞬間――
ぶわぁっと、キラキラが溢れ出す。
宝石がいっぱ詰められた風船を割るようで、
溢れ出した宝石は花火みたいに弾ける。
こんなキレイな光景を間近で見れて、世界が救えるんだから――
この仕事は私にとって天職に違いない。
これが、もう一つの霊災処理方法。
S級のやり方で、核エネルギーの破壊。
「あ〜、ほんと、壊れるってキレイだわ………」
***
核を破壊し終えた私はハレの方に急いで向かった。
着いた先にはハレが核を破壊してる最中で、私は息を呑む。
ハレの処理は本当に最高で、特に夜は鳥肌が立つレベル。
元々可愛いのは勿論だけど、鮮麗された身のこなし。
ためらいも狂いも無い太刀捌き。
そしてハレの核は温かい太陽みたいに灯ってて、
走り回って処理する姿は何かの踊りをみてるよう。
破壊された核から溢れるキラキラすらも、何かの演出のようで――
目が離せなくなる程に、
ちょっと泣けちゃうくらい――ただ、惹きつけられる。
「リオ〜!」
処理の終わったハレは私を見つけて走ってくる。
先程とは打って変わる愛らしい姿。
これもまた、可愛いくて。
レイが夢中になるのもよく分かる。
「ハレ〜お疲れっ!」
「うん!リオもお疲れさまっ!」
そう言ってくしゃっと笑うハレ。
本当にハレは、レイの………。
いや、私達のお姫だ。




