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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

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紫月花の日常――23




 「あ、死んだ。」


廃ビルの屋上で、リオは淡々と、しかしどこか含み笑いを浮かべて呟いた。

 

目の前で繰り広げられる激しい戦闘、確かに一人が倒れた瞬間だった。

だが、リオの表情は全く変わらず、まるでゲームのワンシーンを眺めるかのように気楽なものだった。

 

「やっぱ、うちのハレの戦いは最高だよね〜。強いし、なんかこう、見てて飽きないんだよね〜後で見返す用に、ドローンでも何機か飛ばしておけばよかったかな〜?」

 

その瞳は冷たく、戦場を一段と異質な空間にしている。

あまりにも残念そうに溢すその言葉は冗談には聞こえない。 


レイやカイの動きを客観視しつつ、最初に戦いを終えたハレは、涼しい顔で屋上のリオに手を振っていた。

 

「今日のハレ、ほんと最高に可愛いわぁ〜」


リオは陽気で軽く、ハレに手を振りかえした。



***


 

「祭ぃーーーー!!」


私は叫んだ。


「ちょっとー?いきなり大声出さないでよー。びっくりするじゃん?」


目の前の男は攻撃をやめて、ニヤニヤと笑っている。


「祭は、……花のために……!ずっと……!」


「だからなに?」


「たくさん努力してっ……誰よりも花を想ってたのにっ!」


カイは至極面倒くさそうに頭を掻いた。


「それさぁ、俺等に何が関係あるの?」


「はぁ?」


「だってさー、君たちが探してる子は花って子で、うちのお姫はハレだよ?関係なくない?つーか、邪魔してくる君たちが悪いんでしょ?霊対庁に刃向かっちゃってる時点で、自業自得だよねー?」


男の軽すぎる言葉に、私の胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

 

ああ、こいつらはもう人間じゃない。

救いなんて望めない奴ら。

魂なんてなんとも思っていない。

 

——殺してやる


「全員っ、まとめて地獄に引きずり込んでやるっ!!」

 

「おーおー、やる気出しちゃって泣けるねぇー」


挑発されても負けない。

引きずり込めば、私の勝ちだ。

 

奥歯を噛み締め、両手を組み、

腹の底から唱える。

 

「——地獄門ッ!!」


背後に黒く冷たい鉄の門がゆっくりと現れ始めた。


もっと大きく。


全員を引きずり込むくらいに。


巨大な門が姿を現し、扉が開こうとしたその瞬間――

 


——パチンッ。


 

「え?」


カイの指が鳴り、その一瞬の気の緩みで門は崩れ落ちていく。


「あははー、駄目じゃん!指鳴らしたくらいで意識逸らしちゃさぁー」


男はゲラゲラ笑う。

私は顔を背け、奥歯を噛み締めて拳を強く握った。

 

「あーあ、ご愁傷様。あっけなかったねー」


勝ち誇ったような男の顔を見て、

私は決してこいつを許せないと強く思った。


こいつが死んで彷徨っても、私はこいつを送らない。


「は?何、もう勝った気でいるの?」


「え?君マジで言ってるの?知らないの?」


「え?」


「はははっ、マジで可哀想〜。だから田舎臭い奴らは駄目なんだよね、可哀想すぎて見てらんないわぁ〜」


「何言ってるの?」


「なに?自分で気づいてないの?君、もう死んでるよ?」


「え……」


男に言われて自分の身体に意識を向けると、私は地面に倒れていた。

起き上がろうとしても身体が動かない。


「なん、で……」


「祈扉の術、庁にも昔いたんだよね。その術を使える奴がさぁ〜、でもみんなすぐに死ぬんだよ!なんでかなぁって調べたら、代償だったんだ。天の扉、無の間は便利だし代償はないけど、地獄門だけは代償が必要なんだよね〜」

 

代償?

 

そんなの聞いてない……


「ふざけたことっ、言わないで!!」

 

「ふざけてないよ?君だって知ってるんじゃない?

地獄門開くと身体に影響が出るんでしょ?」


「なんでっ……」


「なんでって、地獄門は自身の魂を差し出して生成する。相手を引きずり込めば、引きずり込んだ相手が君の魂の代わりになる。でも、君は地獄門を作ったのに魂を引きずり込めなかった。つまり、君は最初に俺に邪魔された時点で死が確定していたってわけ!最初に生成した時から約6分37秒。約7分か。いい資料になったよー!ありがとねー!」


男は背を向け、ひらひらと手を振りながら歩いていった。

まぁ、ゆっくり彷徨ってなよーと吐きながら。

 


―― 


「あと1人かぁー」


リオは屋上の縁に腰掛け呟くと、背後からさっそうとハレが軽やかな足取りで近づいてくる。


「リオ〜!」


「おっ、ハレお疲れ〜!」


リオが笑顔で振り返ると、

ハレは楽しそうにくるりと一回転しながら答えた。


「どうだった?私の戦い?」


「マジかっこよかった!ハレ最高すぎ!」


リオの目が輝き、満面の笑みがこぼれる。

ハレは照れ隠しに口元を手で隠しながら、少しだけ笑った。


「ふふっ、なんか照れるー。あ、カイも終わったみたいだねー?」


「うん。マジ呆気なかったよー」


リオはぽんとハレの肩を軽く叩き、楽しそうに続ける。


「最初に引きずり込めなかった時点で死は確定したからねー」


「そうなの?」

ハレは首をかしげた。


「カイ、めちゃくちゃやる気なくしてたよ?」


「あー、確かに!怠いわ〜って言ってたかも!」


リオがにやりと笑いながら言うと、

ハレは少し不満げに問いかける。


「リオ、私のポテチは?」


「え?全部食べたよ?」


「えぇっ!!ちょっとくらい残しておいてよぉー!!」


「早く終わらせなかったハレが悪いんでしょー?」


「えー?頑張ったよー?1番だったし?」


「嘘つけ、余裕すぎて暇そうだったじゃん」


「………やっぱり、分かる?」


自身の指を絡めさせながら、リオを上目遣いで見上げるハレ。

 

「そりゃ分かるよ?ハレが本気出したら最初の一振りで3人纏めて死んでる。昨日夜更かしして何してたわけ〜?」


「えっ、ナイショ♡」


風に揺れるハレの髪が、陽に照らされてキラキラと輝いていた。 


リオはそんな彼女をじっと見つめ、軽口を叩きながらもどこか温かい視線を送っていた。



***


「円までっ………」

俺は肩を震わせながら呟いた。


「後はお前だけだな」


目の前の男、レイは髪をかき上げて冷たく言い放つ。

その余裕が、腹の底から煮えくり返らせた。


「……こんなの、許されてたまるかよ……っ!!」

震える手を必死に抑え込み、俺は木刀を振るった。


何度も。


何度も振って。


何度も交わされる。


クソッ……なんでこんなに俺は弱いんだよっ!!


「さっさと諦めろ。時間の無駄だ」


「はぁ?」


諦めろ?


時間の無駄だ?


言ったなっ……


視界の端に祭と円の倒れた姿が映る。

あいつらがどれだけ頑張ったか。

ここまで、やっと手が届くところまで来たのに。


俺が、俺がっ……


「——諦める訳にいかねえんだよォッ!!」


叫びながら振り下ろした木刀は、あっさりとレイの左手に止められた。



「つまらない」


「は?」


レイは退屈そうに言った。


「これ以上は、時間の無駄だ」


——グサッ


胸を突き刺された衝撃に声が漏れる。

レイはナイフを突き刺したまま、背を向けて歩き出した。


「待てっ、よ……!」


追おうとした脚が震え崩れ落ちる。


「お前、俺たちのこと、なんだと思ってんだよっ」


振り返ることも、答えることもなく、レイはただそのまま去っていった。



――


 

「レイ〜!お疲れ様〜!!」

ハレは自分の元へ歩いてくるレイに飛びついた。


「ハレもお疲れ」

レイはハレを抱き留め、頭を撫でる。


「……はい、任務完了っ!15分切ったね!」


リオがスマホの時計を見ながら所要時間を伝えた。


「なんか食べに行こーよ。俺、腹減ったー」

身体を伸ばしながら気だるげに言うカイ。


「あ、私、焼肉食べたい!」

 

「俺も食べたいわー」

 

「えー?私、しょっぱいのもう良いんだけど」

 

「リオはポテチ全部食べたから文句は受け付けませーん!レイもお肉食べたいよね?」

レイはスマホを操作しながら頷いた。

 

四人は、倒れた遺体に一切目もくれず、

まるで何事もなかったかのように、軽やかに歩き出した。


つい先程の殺気や絶望はまるで別世界の出来事のようで、

彼らの異常な平常心は、この世界の常識を根底から覆していた。


それは、破壊と狂気の中心に立つ者だけが持ち得る、

異質な強さの証明だった。


「ハレ、そのネックレス血ついてんじゃん!早く拭いたほういいんじゃね?錆びるかもよ?」

カイがハレにハンカチを差し出がハレは受け取らなかった。


「んー、もういいやっ!よく見ると可愛くないし?」

そう言ってハレはネックレスを引きちぎる。


——カランッ


「俺が新しいものを用意するよ」


「えっ!?ほんと!?レイありがとー」



***


 

——ジュウウゥゥッ


網の上で肉が音を立て、脂が弾ける。


焼ける香りが店内に広がる中、窓際のテーブル席で、

4人はいつも通り、いや、この夜だけは格別に上機嫌だった。


「いや〜勝った勝った!レイ、完全勝利だな!」

カイがカルビを裏返しながら笑う。

その笑顔に悪意はなく、ただ戦いを制した者の余裕が漂っていた。


「めちゃくちゃ吠えてたくせに、あっけなかったねー」

リオはタンを小皿に取り、オレンジジュースを軽く煽る。

 

「努力だの想いだの叫んでたけど、勝てなきゃ意味ないのになぁー」

 

「お肉おいし〜♪」

ハレは淡々と口に肉を運んでいた。

 

レイは無言で肉をハレに取り分け、自分も食べている。

しかしその横顔には、静かな達成感と圧倒的な満足感が滲んでいた。


焼ける肉の煙と共に漂うのは、もう二度と戻らぬ敗北者たちの影。


「ハレの捨て台詞は最高だったよなー」

 

「え?私?なんか言った?」

 

「忘れたのっ!?さよならしたいの?ふふ、そんなの要らないよ?ゴミを捨てるのにさよならなんて言わないよね?って言ったんよ!」

 

「マジで?本当に言ったの?」

 

「言ったよ!あの時の顔、傑作だった!」

カイが肉を咀嚼しながら思い出して吹き出す。

 

「ちょっとカイ!汚いよ?」


リオが慌てておしぼりを差し出し、ハレは首をかしげる。 


「私、そんなこと言ったかなー?」 


「レイも見てただろ?お前、ハレしか見てなかったし」


「ああ、ハレは最高に可愛かったよ」


「そう?ならいっかー」

 

「今日一番面白かったわー、代わりに俺が追悼してやるよ!」 


カイが笑いながら肉を編みに落とし、叫ぶ。


「さよなら〜〜〜〜〜〜!!!あ、ハラミ焼けたぞぉ〜!」


レイはその声にふっと笑い、

焼けた肉をハレの皿にそっと置きながら呟いた。

 

「……俺の邪魔をした者に、未来はない」

 

ハレは無邪気にそれを口に運び、微笑む。 


「うん、レイは一番かっこよかったよ!」


窓の外では、夜風が静かに吹き抜け、街の明かりが遠く瞬いている。

彼らにとって、この惨劇はもはや特別な出来事ではない。


「カイ、ハラミにさよなら言うなら、ロースにもお別れ言っとけよ?」

 

「了解っす、リオ先生ッ!さよなら〜〜〜ロース、いっきまーす!」

 

「クッパ……さよなら……」

 

「ハレ、次はどの肉を片付ける?」

 

「全部食べる!!」

 

日常の一部として繰り返される残酷な現実。

勝利の笑みと敗北の影が交錯するこの世界で、

彼らはただ、それぞれの役割を淡々とこなしていくだけ。


「あー、今日も楽しかった♪」


笑い声に紛れて、ハレの幸せそうな声が、

窓の外の夜風に乗って静かに響いていた。




hana,s_ 第一章 紫月花の日常 終


第二章に続く。

 

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