表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/52

紫月花の日常――21



コンクリートが剥き出しになった都市の谷間。

目の前の柵には霊災害対策庁管理区域と書かれた看板が立てかけられている


処理済みの区域。

廃墟の街に、踏み込んだ俺たち。

春の朝が静かに差し込んでいる。


都会の中心、だがそこは何もない。

あるのは瓦礫と化した建物の数々。

 

圧倒的な力でねじ伏せられた魂たちがそこら中でしがみついてる。 

一刻も早く送ってやりたいでも、俺達は動けなかった。


先に倒さなければいけない敵。

目の前に長身で黒髪メガネの男、レイが居るからだ。


「………やっと来たか、待っていたよ」


言葉は短く、冷たく、まるで不快そうに吐き出した。

その目は光を失い、凍りついているようだった。


「ははっ……」

ポロリと零れた、あやうく自分の声とも区別がつかない笑い声。

その瞬間、俺はやっと理解した。

ここで、俺たちの決着がつくんだって。


「やっとだな……」

俺がそう呟いた途端、息を飲んだ。


甘くはない、決して。

目の前の男から発せられるものは、背後や横、頭上からも纏わりつくような、鋭利で冷徹な殺気だった。


その場にいる全員が、言葉を失い、空気は一瞬にして張り詰めた。

まるで世界そのものが息を飲み、動きを止めたかのような重苦しい沈黙。


しかし、意外にも恐怖はなかった。

俺たちがここまで積み上げてきたものがある。

そして確かに、俺たちは強くなった。

胸の奥に確かな自信が、静かに燃えていた。

  

円の耳元をそっと風が掠めた。

その微かな風の音に混じり、集のヒュッと息を吸う音が鋭く響いた。


「……お前、一人じゃないな」


俺の言葉が静かに空気を震わせたその瞬間、

突如としてどこからともなく強い風が巻き起こった。


廃れたビル風が勢いを増し、まるで春一番の嵐のように街角を吹き荒らす。

舞い上がった細かな瓦礫が空中を乱舞し、

桜の花びらのように風に乗ってゆらゆらと舞い踊った。


目の前の空間が一瞬で切り替わるかのように、

風が止み、静寂が辺りを包み込む。


そして――

そこに佇んでいたレイの隣には、カイと花の姿が並んでいた。


三人の存在は、春の穏やかさとは裏腹に、

張り詰めた緊張を空気に放ち、俺たちの心を一層重くした。



  

一方、廃ビルの屋上、リオは一人で足をぶらぶら揺らしていた。

ポテトチップスをパリパリと食べながら、下の様子をのんびり眺める。


「……来た来た、田舎組三名様ご来場〜!」


ニヤリと笑みを浮かべて軽く言った。

地上には、緊張で張り詰めた表情の祭たちと、

普段通りの仲間の姿が並んでいる。

リオはそんな彼らを見て、くすくすと笑った。

  

「おいおい、みんなピリピリしすぎだろ。

まるで初デートじゃんか。笑わせんなってー!」


言葉は軽いけど、リオの目は終始楽しそうだ。

下の殺気立った空気など、まるで別世界のことのように。

風に髪をなびかせ、リオは少し大げさにため息をついた。

 

「ま、せいぜい楽しませてよねー」


彼女の声はゆるく、緊張感とは無縁の空気を漂わせていた。

まるで遊びの始まりを待つ子供かのように。



***



俺たちの目の前にいる三人。

白いシャツをだらしなく羽織った、金髪で俺たちに「カイ」って名乗った奴。あの茶目っ気のあった表情は、今や冷たく笑ってる。


綺麗な長い髪、無表情の子。


やっぱり……


今日はフードをかぶっていない。


お前は……


胸元には、俺たちとの思い出が詰まったネックレスがちゃんと揺れていた。





「………花っ」


震える声で、縋るように呼びかけた。

だが返ってきたのは、あまりにも軽い声だった。


「またそれ〜?何回言えばわかるの?」


ひゅ、と風を裂く音。

花が動いたことに気づく間もなく、刃が振り下ろされていた。

シュッ、という乾いた鋭い金属音。

 

俺の前髪がふわりと宙を舞った。

ほんの数ミリ。

だが、そこに込められていたのは、紛れもなく殺意だった。


「へぇ〜、反応マシなんだぁ」

 

――ドガッ!!!

楽しげな声と同時に、腹に強烈な蹴りが飛んできた。


鈍い音が響き、身体が地面に叩きつけられる。


口の中に広がる鉄の味。

頬を伝う、熱くて重い液体の感触。


何とか顔を上げようとしたが、

全身が痛みに震え、思うように動けなかった。


アスファルトに叩きつけられた俺を、冷たい視線で見下ろす花。

その唇が、ふっと不気味に微笑んだ。



「レイ〜!私、コレにする!」



***


  

やばい、やばい……胸の奥がざわついて、魂が震えている。

呼吸が苦しくて、まともに吸えない。

目の前に立つあいつらは、私たちとは違う。

ただの人間じゃない 、化け物だ。


次の瞬間、冷たい風を切る鋭い音が鳴り響いた。


「は……?」


花が祭に刃を振り下ろす。


信じられない


嘘、だよね?


祭は間一髪でかわした。

けど、すぐに強烈な蹴りが腹に飛んできて、

祭は数メートルも吹っ飛び、硬い地面に叩きつけられた。

倒れた祭を見下ろして、花は薄く笑う。


「レイ〜!これにするー!」


楽しそうに言って、軽やかに足を踏み出す。


祭の方へ、真っすぐに――


「……祭がっ」


どうすればいいの、あんな花を……。


勝てるわけがない。

あんなに強いんだから、勝てるはずがないのに……。


ドンッ、ドガッ、バギィッ——


耳を塞ぎたくなるような派手な音、鈍い音。

祭の呻き声がはっきりと聞こえる。


「祭っ……!」


容赦なく攻撃を浴びせる花。

私たちの希望は崩れ落ちた。


もうあれは、花じゃない。

花の皮をかぶった悪霊……。 

そう思えばっ……。

 

もう、やるしかない!!


「——地獄門っ!!!!」


私は両手に力を込め、細部まで神経を研ぎ澄ませながら型を結んだ。

指の角度、手のひらの圧力、血流の微細な変化まで、全てが完璧に揃う。

視界の先に、まるで異世界の入り口のように、地獄の門がかすかに揺らめき始める――

 

その時だった。


——ドスッ!!


鈍い衝撃が腹部を襲い、息が詰まり身体が後方へ吹き飛ばされる。

コンクリートの地面を滑るように転がった。


「なーにやってんの?邪魔すんなよ~」


腰が砕けそうになるほど軽い声。

目を細め、ふざけたように笑う男の姿。


——カイ。


「うちのお姫、機嫌悪くなると色々面倒なんだよねぇ?」


口の中が切れて血がにじみ、プッと吐き出す。


「だからさ、ほら——俺とか、どう?」


満面の笑み。

楽しくて仕方ない、そんな笑顔の奥には凶暴な殺気が空気を切り裂いていた。


「ぐっ……!」


体に力を込めて、必死に起き上がる。

だが足は震え、まるで言うことを聞かない。

カイはゆっくりと、気味悪い笑みを浮かべながら私に近づいてくる。

その目は冷たく、私をもはや人間として認めていないかのようだった。


 


――



「あははっ、ハレ乗ってるなぁ~!今日やば、ハレー!」


リオは廃ビルの屋上、高台から楽しげにハレに手を振っていた。

まるでライブの観客のように、余裕たっぷりの立ち位置。


「てかハレ、祭って子、選んじゃったよ。当たり引いたね〜、流石うちのお姫!」


ゲラゲラと笑いながらリオはポテトチップスの袋に手を伸ばし、地上の戦いの様子に目を戻す。


「カイ、めっちゃテンション下がってる〜。

わかるよー、もう決着ついちゃったもんねー?」


一枚のスナックを取り出して口に運びながら、リオは軽く首をかしげた。


「円ちゃんだっけ?あれじゃあダメだよ〜。

今から扉開きますって、思いっきりアピールしてるじゃん。勿体無いね〜」


パリパリと音を立ててポテチを食べ進めるリオは、笑顔のまま呟いた。


「はぁ……でも壊れていくのって、なんか綺麗だよねぇ」


その言葉は、まるで狂気すら含んだような不思議な甘美さを漂わせていた。

    

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ