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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

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紫月花の日常――18



俺たちは再び、あの廃墟となった研究所の重い鉄扉を押し開けた。

中に入ると、埃が薄く積もっているのは変わらず、壁や天井の黄ばみも前回と同じままだった。

受付や応接室に置かれた資料も、そのまま無造作に積まれている。

人の気配はなく、館内は静まり返っているが、以前訪れたときと変わらない緊張感が漂っている。

重苦しい空気は相変わらずで、変わった様子は何一つなかった。


「1階は前に来た時に回ったし、2階行ってみるか」

俺はゆっくりと階段を見上げた。


「そうだな」

集が小声で応え、俺たちは静かに階段を登った。


一歩一歩、沈黙の中で重みを増していく足音が、まるでこの研究所の秘密を呼び覚ますようだった。


2階は研究設備が整ったフロアだった。

薄暗い研究室を慎重に歩きながら、壁に掛かったホワイトボードの文字に目を留めた。


そこには『霊力発電システムの実証実験』と書かれ、

その隣には霊力を電力に変換する装置の図が描かれている。


棚にはいくつもの試験管や機械部品が整然と並べられていて、

その一つ一つが霊力を利用した新エネルギーの可能性を示していた。


さらに別の実験室には、霊力の作用で物質の形状を自在に変えられる合金のサンプルと書かれている棚。

恐る恐る扉を開け、手で触れると冷たく硬い金属だが、霊力を意識するとゆっくりと形を変え、まるで生きているかのようにうねり、俺は息を飲んだ。


「これがあれば、物理的な防護も革命的に変わるだろうな」

集が隣でメモを取りながらつぶやく。


さらに奥に進むと、霊災との因果関係を解析したデータがプリントアウトされた書類の束が積み上げられていた。

その奥の棚にはいくつものファイルが片付けられていた。


『霊魂の動きと自然災害の発生の因果関係』

『霊災前兆検知システムの改良案』

『霊魂吸収・格納装置の試作機』などの文言がラベリングされている。


集はその一つのファイルを取って開く。

「霊魂を安全に管理して、霊災の拡大を防ぐ技術か…合理的だけどな……」


俺たちはその研究の壮大さと同時に、その危険性も感じ取った。

ここで行われている研究は、人の想像を超える霊力活用の最前線だった。


俺たちはさらに上の3階と4階へ向かった。

そこはおそらく研究所で働く職員用の寮になっていた。

小さな個室が並び、どこも静まり返っている。

生活感はほとんどなく、すでに長いこと使われていないのが伝わってきた。


「……地下に行ってみよう」

俺たちは黙って頷き、重い鉄の扉が開く地下への階段を降りていった。

地下1階は沢山の机が並んでいた。

壊れたモニターが並んでいて、

ここで情報の管理や警備をしていたのは予想がつく。

だが、PC本体などは既に持ち運ばれたあとで、

情報が得られそうなものはなかった。


俺たちはそのまま先に進み、地下2階の重い扉を押し開けた瞬間、

冷たい空気が俺たちの肺を刺した。


視界に飛び込んできたのは、

薄暗い廊下の壁一面に掛けられた白い子供用の無数の服。

どれも小さく、無造作に掛けられ、色褪せてほころびだらけだった。


かすかな埃とカビの匂いが鼻をつき、まるで時間が止まってしまったかのような静寂が支配していた。

その横を通り過ぎ奥の重たい扉を開けると

薄暗い研究室の様な部屋だった。


「うそっ、だろっ……」


「最悪っ……」

 

集は歯を食いしばってて、円の目は涙を滲ませた。

部屋いっぱいに並べられた棚。


ガラスの扉がついた棚には、赤いバイオハザードのマークが記された箱がいくつも並んでいた。


番号が書かれた金属製のトレイが何重にも積み重ねられており、その表面は擦り切れ、何度も書き直された跡が鮮明に残っている。


一つには「20番」と記されているが、

その上から乱暴に「42番」と書き直されているのが見て取れた。

その横には場違いな複数の子供用食器。

奥の扉の前には、使い古された子供の靴がいくつもダンボールに詰められている。

扉を開ければ、壁の隅には壊れたおもちゃの車輪が転がり、破れた絵本のページが無造作に開いたまま落ちている。

その先の扉の取り払われた入り口に進めば、吊るされただけの蛍光灯の下に整然と並ぶ小さなベッドたちが視界いっぱいに広がった。


ベッドは30台ほど、まるで、子供たちが今にも戻ってくるのを待つかのように、冷たく硬い金属フレームに規則正しく並べられていて、

色あせたシーツは何年も替えられていないのか薄汚れていた。


集は歯を食いしばり、拳を握り締める。

円は声を殺して嗚咽を漏らした。


「こんなのっ……許されるわけない……」


俺たちの胸の奥を冷たい絶望が締め付け、

同時に激しい怒りが燃え上がった。


この場所で何が行われていたのか。

守られるべきものがどれだけ傷つき、踏みにじられてきたのか。

知らなければよかったのかもしれない。

でも、見てしまったからには、知らなければならない。


この真実を。

必ず暴かなければならない。



 

「個室もロッカーもないってことは、プライバシーなんて存在しなかったんだよな」


「服も全員同じ、番号だけが唯一の個体識別だったんだよ」

集は薬品トレイの番号を指でなぞりながら言った。


室内のあらゆる物、机や食器、ベットにまで番号が振ってあり、所どころ上書きされてる番号を見れば、残酷な事に命を落とした子が居て、新しい子が入れ替わりに補充されてるのは明らかだった。


「花っも、ここに、居たかもしれないん…だ、よね?」

円は嗚咽まじりに呟く。


花がこんな場所に居たかもしれないなんて、想像もしたくなかった。


俺は拳を握りしめ、声を震わせながら言った。

「こんな場所でっ…何をやってたんだよっ…霊対庁はっ!」


俺たちが、絶対ここで終わらせてやる。

怒りのが胸の中で燃え盛り、俺たちは地下3階へと足を進めた。

 

地下3階の重たい扉の前に立ち、俺たちはその堅牢さに言葉を失った。

その扉は、鉄板を何重にも重ねたような頑丈さで、

ただの力任せでは絶対に開かなかった。

何度も取っ手を回し、押したがびくともしない。


「これ、どうやって開けるんだ?」

集が困惑気味に呟く。

普通に力任せに開けようとしても困難だし、音も響く。


「物理でやるのは無理がある」

集の言葉に円も顔をしかめた。


そこで俺は思い出した。

「2階の合金、あれを使おう」


「確かに!霊力で形状が自在に変わるあの特殊な合金なら、

扉の隙間に入り込ませてロック機構を壊せるかもしれない!!」


階段を駆け上がり、あの研究室へ急いだ。

合金の一片を慎重に手に取り、手のひらで霊力を込める。

冷たく柔らかく、まるで生きているかのように形を変えていく物体。

再び地下3階へ戻り、扉の隙間に薄くさせた合金をねじ込む。


ギシッ…


ギギギッ…ギィィ…


合金が隙間で鍵の内部に絡みつき、ロック機構を静かに破壊した。

徐々に扉の閉まりが緩み、やがてゆっくりと開き始めた。


「よし、これで入れる」

緊張で震える心を押さえつけ、

俺たちは重い扉の向こうへと一歩を踏み入れた。

 

地下3階の扉を開けて足を踏み入れると、冷たい空気が肌を刺した。

白いタイル張りの床と壁は、年月で黄ばんでいるものの、

かつての清潔さがかろうじて残っていた。

ホラー映画で見る様な古びた手術台が一つ、埃をかぶって静かに佇み、

散乱した医療器具や使い古された包帯の切れ端が無造作に残されていた。

床には錆びた拘束具が転がっており、

鎖はところどころ切れているが、長い年月の間に硬く固まったままだ。

壁際のモニターは割れ、操作パネルは錆びつき、動く気配は無い。


部屋の奥に並ぶ二つの小さなベッド。

シーツは薄汚れていて、床には擦り切れた小さなゴム性のスリッパが二足、ぽつんと置かれている。

一つにははっきりと「0番」もう一つには「80番」と書かれていた。


壁には、かすかに子供が描いたと思われる花の絵が残っていて、

薄れたクレヨンの色が、かすかな温もりを感じさせる。

机の上には、折り紙の小さな鶴が一羽。

それはどこか、祈りのようにも見えた。

俺たちはその静寂に胸を締め付けられながらも、

確かにここに、子供達が居たのを感じ取った。


ここで何が起きていたのか、俺たちは調べ始めた。

 

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