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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

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紫月花の日常――17


アパートの部屋に戻った俺たちは、

玄関の通気口や窓の隙間をくまなく探した。

「おっさんが言ってたとこだけど、やっぱ怪しいよなー」

 

円が窓の隙間を覗き込みながら言う。

「うん、でも何もない。まるで掃除してなかったみたいに埃が積もってるし、盗聴器なんて仕掛けられてないっぽいよ?」

 

集も通気口を覗き込み、ため息をついた。

「ぜんぜん怪しい形跡なしだな。おっさんの勘、外れたか?」

俺も壁や棚の裏を探ったが、怪しい物は何一つ見つからなかった。

 

円が肩をすくめて笑う。

「冗談だったしりて?」


「そうかもしれないけど、油断はできないよな」

集も軽く笑って言った。

 

「ま、まあ気をつけようぜ。いきなりスピーカーから声が流れても困るしな」


「そりゃ困るわ!」


みんなで軽く笑い合いながら、俺たちは少しずつ日常に戻っていった。

ふう……なんだかんだで、こういうのも悪くない。

たまには普通に帰れる日があってもいいんだよな。


「よし、また明日から頑張ろうぜ!」

俺は拳を軽く握り、二人と目を合わせて笑った。


「うん、そうだね」

円と集も頷いた。


今はとりあえず、ここが安全な場所であってほしいと思った。




 

「セーフセーフ、危なかった〜」


マンションに戻ってきたカイは、

ポケットから小さな機械を取り出してニヤリと笑った。

 

ソファでポテチをパリパリかじりながらリオは呆れ顔で言う。

「……まだ盗聴器回収してなかったの?」

 

「いや〜、忙しかったんだよ。お姫と王子のご機嫌伺いとかさ」

カイは軽口を叩きながら、袋に小さな盗聴器を放り込んだ。

 

「ま、見つからなくてよかったよね。気づいてなさそうだし?」

リオがクスクス笑いながら答える。

 

「そ!危機感とか無いのかもねー」 

カイは天井を見上げ、ゆっくりとつぶやいた。 


「ほんと、楽すぎてつまんないよ………」

 



深い夜の闇に包まれたアパートの一室。

俺は布団で目を閉じていたが、何か微かな物音が耳に届いた。


――カタッ。


硬い金属が擦れるような、微かな音。

一瞬、呼吸が止まる。


誰かが、俺たちの部屋の周りを動いている。

隣の円も気づいたのか、体を起こして目を見開いた。

集もすぐに起き上がる。

 

「やべぇ、来てるな……」

俺は静かに呟いた。


カーテンの隙間から外を見ると、

暗闇の中に何者かが影を潜めているのがわかった。


間違いない、霊対庁だ……


「動くな。気配を消せ」

集の声が緊迫して響く。


だが、時間は残されていなかった。

外で再び足音が響き、すぐに玄関の鍵がカチャリと回る音がした。


「逃げるしかねぇ!」

俺は全力で体を起こし、円と集に声をかけた。


「窓から行くしかないよっ」

円が即座に窓に向かって走り出す。

俺も集も続いた。

窓を開けて足を掛け、隣の家の塀の内側に俺たちは飛び込んだ。

夜風が頬を刺し、足音を殺しながら、俺たちは住宅街の影を縫うように走った。


「どこっ、行くんだ?」

息を切らせながら訊く集。

 

「とにかく、安全な場所まで」

俺は振り返らず答えた。


追手の気配が迫っている気がする。

見えない追跡者が背後から忍び寄ってくるのを感じながら、俺たちは夜の闇に溶けていった。


 


街中をできるだけ目立たずに逃げる俺たち。

俺は帽子のつばを深く下げ、 円は帽子とマスクで顔を隠し、集はいつものメガネにマスク。

 

ファミレスに滑り込み、席に着くと俺は外を警戒しながら言った。

「ここも油断できない。霊対庁がいつ来るかわかんない」

 

円はコーヒーを一口飲み、少し落ち着いた様子で言った。

「こうして普通に座っていられる時間は貴重だよね」

 

集もスマホをいじりながらぼそりと、

「流石にずっとは居れないしネカフェ転々とするか?」


「そうだね」


「地味にやり過ごすしかないよな」

俺たちは互いに頷いた。

夜の静かな街で、俺たちの足音だけが響く。


背後に感じる気配に緊張しながらも、今は耐えて時間を稼ぐしかない。

俺は帽子のつばをぐっと下げ直した。



 

ネカフェのファミリールームのドアを閉めて、

俺たちはやっと少し安堵の息をついた。


円がソファに腰を下ろし、集は備え付けのパソコンの前に座る。

俺は壁に寄りかかりながら、少しだけ目を閉じた。

「ここなら少しは落ち着けそうだね」と円が呟く。


集はパソコンのキーボードを叩きながら言った。

「霊対庁のこと、もっと調べてみよう。やつらの力とか、背景とか、何か手がかりがあるかもしれない」


向こうに比べて、俺たちは何もかも足りない。

頭数も、力も、情報も、全部。

でも、今はそれを嘆いている暇なんてない。

今できることは、ただ一つ、情報を集めて、できる限り備えること。


俺も画面を覗き込みながら答えた。

「そうだな。今は情報を集めるしかない」


円もゆっくりと頷いた。

画面の中で、霊対庁にまつわるあれこれが文字となって浮かび上がる。


「こんなに謎が多い組織だとは思わなかったよ」

円が肩をすくめた。


「だけど、花のことも男の子のことも、ここに繋がってるんだろうな」


「俺たちには時間がない。行動する前にできることは、全てやろう」

そんな声を聞きながら、俺は心の中で思っていた。

静かなファミリールームの中、俺たちはpcの画面を睨み付けていた。


  

夜が明けて、俺たちは次々とネカフェを移動した。

街を逃げ回り、ファミレスからネットカフェへ、

そしてまた別のネカフェへと。


どこも同じように薄暗く、無機質な空間。

部屋の狭さと冷えた空気に体がこわばる。

俺は壁にもたれながら、何度もため息をついた。

集はパソコンのキーボードを叩き続けている。

画面に映るのは霊対庁の断片的な情報ばかり。

まともな手掛かりは一つもない。

どんどん焦りが募る。


「こんなに調べても、何もわからないなんてな……」

そんな弱音が漏れた。


「向こうの連中は、やっぱり一枚も二枚も上手なんだろうね」

隣で円がスマホを手にして、画面をスクロールしていた。


「SNSの書き込みも見てみたけど……変な悪口とか一つもないんだよね」

円が小さく呟く。


俺は振り返り、円を見る。

「それって……意外と好感度高いってことか?」


「そうかもしれない」


集も眉をひそめて言った。

「けど、そういうのほど怖いんだよな……裏がありそうで」


俺は拳を握り締めながら言った。

「俺たち、足りないものばっかりだよな……」


だけど諦めるわけにはいかない。


「情報は武器だ。知識を増やすしかないんだ」

俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

隣の部屋から聞こえてくる音が、妙に遠く感じた。


でも、ここでじっとしてる場合じゃない。

また次の場所を探して動くしかない。

目の前のパソコン画面が青白く光る。

そこにまだ、俺たちの状況を変えるヒントがあるはずだ。




逃げ始めてから約、2週間が経った。

俺たちは居場所を転々としながら、霊対庁の影を振り切ろうとしていた。

手掛かりはほとんど掴めず、気持ちも体も限界に近づいていた。


「そろそろ、依頼受けないとな……」

俺はスマホの充電を刺しながら小さく呟いた。

ファミレスもネカフェもずっと居られる訳じゃない。


追われてる身で同じ場所に留まり続ける訳にはいかないし、

そろそろ何か依頼を受けないと逃げ続けることすら難しい。


円がソファに座って、ぽつりと答えた。

「わかってるよ。逃げてばかりじゃ、体力も気力も持たない」


集もため息をつきながら、

「しかも、霊対庁のこと何も掴めてないしな。情報がないと先に進めない」


俺たちの目の前にある現実は、なかなか厳しかった。

でも、そんな暗さだけじゃなかった。


「でも、こうして一緒にいるだけで、まだマシだって思えるのが不思議だよね!」

円の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


集も笑いながら、

「俺たち、いいチームだよな!」

そう言って、ちょっとだけ緊張が和らいだ。


それでも心のどこかに、不安と焦りが消えない。

俺は硬く拳を握って覚悟を決める。


「あのさ、提案なんだけど・・・」



 


霊災害対策庁――本部


重厚な会議室に集まったA級隊員たちの顔には疲労と焦燥が滲んでいた。

並べられたテーブルに座り腕を組む幹部達。


彼らの間に、ひときわ若く、異質な雰囲気を放つ男が静かに腰掛けていた。

レイは、じっと会議のやりとりを聞き流すように、しかし鋭く周囲を見据えている。


幹部の一人が声を荒げた。

「まだ捕まらんのか? いったい何をしているんだ!」


若手隊員の一人が震える声で言い訳を始める。

「私たちは……調査と張り込みを続けていますが、対象者の居場所が全く掴めず、アパートも既に空だったんです!」


別の隊員が眉間にしわを寄せて抗弁する。

「都内の警戒網も強化しましたが、彼らは抜け目なく動いていて……」


他の幹部は顔をしかめ、言い放つ。

「怠慢や言い訳は不要だ。結果を出せ!」


部屋の空気が一気に重くなり、隊員たちは肩を落とす。

別の若手隊員が小声で呟いた。

「こんなに必死にやってるのに、どうして……」


「仕方ないじゃないか、あいつらは……普通じゃない。常人の想像を超えてるのに」


「現場を知らないから好き勝手言えるんだよ、ジジイどもは」


「なに?もう一回言ってみろ!!」

若手隊員の嘆きが耳に入り怒りを露わにする幹部陣。


重苦しい室内で大人達が罵り合いを始めようとする中、

ついにレイは口を開いた。


「くだらない、時間の無駄だ」

最年少のレイの言葉に室内は一瞬で静まり返る。


一瞬の静寂の後、レイは低く、しかし鋭く口を開いた。

「……俺が預かる」


周囲がざわついた。


「S級が出る幕ではない。俺たちが終わらせる」

誰かが言い返すが、

レイの視線が一瞬にして部屋の全員を鋭く射抜いた。


その鋭い眼光は、まるで獲物を狩るように、

室内の空気を凍らせ、その殺気に幹部たちは声を失い、黙り込んだ。


「嫌なら今日中に片付けろ。明日以降は俺が動く」

短い言葉に宿る圧倒的な強さ。

 

冷酷な宣言が、会議室に静かに、しかし深く響いた。 

上層部は表向きの権力者かもしれないが、この男こそが真の支配者。

組織の未来は、今この場で動き始めていた。




翌日、俺たちは再びあの廃墟の研究所へ向かった。

冷たい風が吹き抜け、枯れ葉を舞わせる。

どこか寂しげで、重苦しい空気が体を包む。

俺たちには、もう選択肢はなかった。


これ以上逃げ続けることはできない。

ここで何かを掴むしかない。

 

「これが……最後の手段だよね」

円の声は震えていたが、覚悟が滲んでいた。


集も無言でうなずき、俺も拳を握りしめる。

肌を刺す風が心臓の奥まで冷やす。

けれどそれが逆に、俺たちの決意を引き締めた。


何が待ち受けていようとも、

俺たちは立ち向かうしかない。


花も、おっさんが探していた凌雅も、ここに繋がっている。

 

あの日、失ったものを取り戻すために

全てを賭けて、俺たちは進むしかない。

 

 

 

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