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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

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紫月花の日常――16



「――祭っ!集っ!」


円が叫んだ。

こんなつもりじゃなかった。


たまたま立ち寄った閉められた寺。

霊魂の残りがいくつもこべりついてて、

こんなに……霊の数が多いなんて。  


放っておけば大きな霊災になるのは分かってた。

けど――まさかここまでとは思っていなかった。


薄暗い祠堂の中。

血を流し、倒れ伏すのは俺と集。


息遣いさえも重たく

もはや動ける者は――円、ただ一人だった。

数が多すぎる。

俺たちのキャパをはるかに超えている。


「もうっ、これしかないっ!」


そう言って円は、震える手を静かに前に差し出した。

だがその震えは、恐怖ではない。


決意の証だ。


「――地獄門っ!!」



小柄な身体からは想像もつかないほどの声が、室内全体に響き渡る。


その瞬間、円の手がしなやかに動く。

 

まるで舞の型のように――


説法印のように左右の親指と人差し指で輪を作り、

他の指は角度すら逸れぬよう、型通りに正しく並べられた。


円の足元から黒鉄のような巨大な門が、

地の底から這い上がるようにして現れる。


門の隙間から漏れ出すのは、呻きと悲鳴――

そして灼けるような瘴気だった。  


――ギィィと苦しげな音を立てて門が開いた。


「……ごめん、ね」


静かに言った円の目には、涙が滲んでいた。

だがその瞳は、まっすぐ前を見据えていた。


門の奥から伸びる黒い無数の手が、

祠堂に留まり続けていた霊魂達を絡め取り、

強引に引きずり込んでゆく。


抵抗しながらも引きずられていく者、

苦しげな表情のまま静かに消えていく者も。


「祭……集……今だけは、許してっ」


霊が門に吸い込まれていくたび、祠の空気がわずかに澄んでいった。

静けさが戻る。けれどその静けさの中、円の呼吸は乱れ、肩を震わせていた。


祈扉術の奥義――地獄門。  


開けば魂を強制的に地獄に引き摺り込む術。


でも、その代償は……使った者自身に跳ね返ってくる。

身体にも、心にも、大きな傷を残す——

 



 

円が地獄門を閉じた瞬間、俺の目の前で崩れ落ちた。

膝をつき、必死に耐えているその姿に、胸が締めつけられる。


「円、大丈夫か!?」


俺はすぐに駆け寄り、円の肩を支えた。

集も反対側から同じように支える。

円の顔は青ざめ、冷や汗が滲んでいた。息が荒く、痛みに震えているのが手に取るようにわかった。


「ごめんっ………」

苦しそうに呟く円は、辛そうだった。


「円のおかげで助かったよ。ありがとな」

俺の声は震えていたけど、強く、円に伝えたかった。


「無理しなくていい。ゆっくりでいいから……」

集の言葉も優しく、円を落ち着かせるようだった。


三人で身体を支え合いながら、俺達はゆっくり祠堂を後にした。

重たい足取りだけど、円の痛みを感じ取りながら、俺は心の中で誓った。

どんな時でも、絶対守る。

誰が一人欠けても、俺たちも終わりだ。

支えられながらも、円の瞳には微かな決意が宿っていた。

その覚悟に触れて、俺も負けられないと思った。




祠堂を出て、ゆっくり帰る俺たち。

円はまだ少し辛そうで、俺と集が支えながら歩いてた。


アパートのすぐ近くまで来た時、ふと、何かの念を感じた俺。

後ろを見ると、小さな魂が必死に走って追いかけてきてた。


「……あれ?誰かついてきてる?」


「お、魂のストーカーか?」


俺たちは不謹慎ながらも笑いながら魂を待った。

息を切らせた中年の男の魂が猛ダッシュで追いかけてきてるからだ。

 

「お、おい!ちょっと待ってくれ!お願いだッ、待ってくれぇぇ!!頼みがあるんだぁー!!!」


俺は思わず吹き出しそうになる。

「どんな頼みだよ、それ」

 

集が呆れた顔をしていた。

「そんなに慌てなくてもいいよ。話してみて?」

 

シャツの袖をまくって汗を拭いながら

俺たちに必死に話す魂。

「叶えてほしいことがあるんです!それが終わればすぐ成仏しますから!」


俺たちは軽く頷いた。

「じゃあ、聞こうか」


円も優しく微笑んで魂に寄り添う。

「アパートすぐ側だし寄ってく?」


魂の必死さだけが浮いてて、俺たちは普通に冷静に受け止めてる。

そんな帰り道だった。




「お茶、入れたよ」

俺が急いでテーブルにカップを置くと、魂は頭を下げて軽く首を振った。


「お茶は結構です。飲めないので」

その律儀さに、俺たちは思わず笑った。


円は壁にもたれかかり、息を吐く。 

「……ふぅ、やっと少し落ち着けた気がする」


「まぁ、そうだよね……」

集は座布団に腰を下ろし、肩をすくめて笑った。


窓から差し込む午後の光が、埃混じりの空気を淡く照らし

部屋の中にただ静かな時間が流れる。

魂の必死さと俺たちの普段通りの様子が不思議な温度差を生んでいた。


「で、その頼みってなに?」

俺は軽く肩を揺すりながら、魂に問いかけた。


「俺たちに何を頼みたいわけ?」

集も同じく、興味深そうに声を重ねる。


「じ、実は生前、刑事時代にとある少年を探していたんだ」

魂は息を整えながら話し始めた。


「少年?」

円が首をかしげて訊ねる。

 

「10年前に行方不明になった男の子で名前は高階凌雅たかしなりょうが君。京都のちょっとした名家の子でね、一家惨殺事件があって……でも、そこの一人息子の彼だけが見つからなかったんだ」


俺は思わず、声を詰まらせる。


「それって………」

10年前、一家惨殺。

名家で子供が1人だけ見つからない――

円も集も、同じ思いが頭をよぎっているのがわかった。


「……花と同じじゃん」

俺たちは無言で顔を見合わせた。


「で、その凌雅って子の手掛かりって、何かあるのか?」

俺は魂にゆっくり問いかけた。


魂は少し考えるように目を細めてから、力なく答えた。

「確かな場所がある。ここから遠くないところに、あの子が最後にいたと思われる研究施設があってね。俺もそこを調べていた」


円が小声で言った。

「研究施設……?」


「どこら辺かわかる?」

集はスマホを取り出し、地図をスクロールしながら魂と場所を確認する。


「ここだよ、ここ!!」

そう言って指す半透明の指。

俺たちは視線を合わせ、固い決意を共有した。


「よし、行こう」

魂はかすかに頷いて、背中を押すように言った。


「もしかしたら花の事も分かるかもしれない」

その集の言葉は俺の胸に小さな灯火をともした。

どんな困難が待ち受けていようとも、俺たちは諦めない。




  

「ここか……」

俺は建物を見上げた。

古びたコンクリートの壁に、錆びた鉄製の扉。

無数の監視カメラが不気味にこちらを睨んでいる。

周囲は草が生い茂り、廃墟と化した施設だった。


「思ってたよりでかいな」

集が冷静に言う。


遠くで時折、機械の唸りが響くような気がして

それが妙に神経を逆撫でする。


円は深呼吸し、静かに言った。

「……行こっか」


俺たちは息を合わせ、扉に手をかけた。

俺たちは錆びついた扉を開け、薄暗い建物の中に踏み込んだ。

空気はひんやりと冷たく、埃と金属の匂いが鼻をつく。


「ここ、廃墟ってわけじゃないな……」

集がつぶやく。


足元には埃が溜まってはいるものの

よく見られる廃墟とは違って整えられてもいる。

誰かが定期的に管理してるという様な感じだ。

どこかで機械が微かに唸る音が聞こえる気がするが、どこからかはわからない。


「電気は通ってるのかな?」

円が不安げに壁のスイッチを探すが、反応はなかった。

それでも、薄暗い奥から淡い光が漏れている。


「……なんか、誰かがいるような気配がする」

俺も背筋に冷たいものが走った。

その時、誰かの気配に振り返ったが、誰もいなかった。

けれど、その気配は確かに残っていたと思う。


俺たちは慎重に建物の奥へ進んだ。

広くて天井の高い部屋がいくつも連なり、まるで病院の様な作り。

壁も床も天井も真っ白で、まるで冷たい無機質な世界に迷い込んだみたいだった。


ピカピカに磨かれているわけじゃない。

むしろ年季を感じさせる薄汚れが所々にあるのに、それでもどこか不自然なまでに清潔感が保たれている。

照明は消えているはずなのに、白い壁が微かに淡く光を反射していて、暗闇というよりはぼんやりとした明るさに包まれていた。


歩く音がコツコツと響き、俺の呼吸音も妙に大きく感じられた。

だが、何も手掛かりは無かった。

ただ、俺たちを見張っているような冷たい視線だけが、背中を刺す。

何かが、この場所に隠されている気配はする。

でも、まだ何も掴めていない。

俺は不安を胸に、さらに奥へ進んだ。 


その時、ふと魂のおっさんが壁にかかった錆びたプレートに目を留めた。

そこには、薄れてはいるが、確かにあの太陽のシンボルが刻まれていた。

おっさんの顔が急にこわばり、慌てて振り返る。


「……霊対庁関係だっ!マズイ、すぐに出るぞ!」


おっさんは焦りながら、俺たちに背を向けて走り出した。

俺たちも慌てて後を追う。

薄暗い廃墟の中に、太陽のロゴがぼんやりと妖しく光った気がした。

 

 

「なんだよおっさん!!急に走んなよ!」

走り出したおっさんを追いかけた俺たちは、研究所を飛び出して帰る道を走っていた。

しばらく走っておっさんが止まり、俺たちが追いつくと、おっさんは申し訳無さそうに口を開いた。

 

「あそこは霊対庁の持ち物だ。すまない」

そうやって俺たちに謝るおっさん。


「なんで、謝るんだ?」

 

「俺が生きてた時、当時の警察での絶対的なルールがあった。それは霊対庁には絶対に手を出すな。例え凶悪な犯罪者で証拠が上がってて、本人が自主したとしても、霊対庁の人間なら無罪放免にしろってな」

 

「は?」

俺は思わず声を上げた。


「霊対庁って、そんなに……?」

おっさんは苦笑いを浮かべながら続ける。

 

「そうだ。警察内部でも忌避されてた。霊災の管轄でありながら、表向きは秘密裏に動いてる。まるで法律の外にいるような存在だよ」

 

「つまり、霊対庁の力を逆らうのは命取りってことか……」

集がぽつりと言った。


「俺が見てきた事件でも、霊対庁に絡むと急に状況が変わることが何度もあったよ」

円も不安げに口を開く。


「そのルール、なぜそんなに厳しいの?」

おっさんは少し黙り込んでから、重い口調で答えた。


「彼らの力は、通常の人間の理解を超えている。恐ろしく合理的で、制御不能。だからこそ、警察も手を出せず、ただ見守るしかなかった」


「それで、俺たちの探してる男の子もその霊対庁に関わってる可能性があるってことか?」


「その可能性は大いにある。……だから、ここから先は……もう手を引くしかない」

おっさんが肩を落とし、申し訳なさそうに俺たちを見た。


「巻き込んでしまってすまない。霊対庁の絡みってのは、今の警察でも太刀打ちできねぇんだ」

 

「お前らが本気で花って子を取り戻そうとしてるのは、今日見ててわかった。だけど、霊対庁に立ち向かうのは、命を捨てるのと同じだ。」

 

俺は目を逸らさず言い返した。 

「諦めろってことか?」


おっさんは首を振り、優しい声で続けた。

「諦めろ。これは大人としての意見だ。けど、男としていうなら、後悔するなら突っ走れ。命の保証は出来ねぇけどな」


「覚悟はできてる。」

俺は拳を握りしめ、決意を込めて言った。

円も集も頷いてる。


「必ず、俺たちは花も男の子も見つけ出すよ」

おっさんはそんな俺たちの背中を見て、ふっと微笑んだ。

 

「お前達は強い。負けんじゃねぇぞ。ただ……」


「ただ?」

おっさんは振り返り低く言った。


「俺の刑事としての勘だけどさ、お前たちのアパート……盗聴器かなにか、仕掛けられてる。玄関の通気口と窓の隙間が怪しい、気をつけろよ」

その言葉を残し、おっさんは静かに消えていった。


俺たちは重い空気の中、しばらく黙り込んだ。

だが、その言葉が胸の奥で重く響いた。


盗聴器………

もしそれが本当なら、

今、俺たちは、誰かに見られている………?

 

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