ざまぁのされ方にも程がある
「えっ、私が、姫?」
姫ということは、この神聖国でやんごとなき身分の者だということだ。つまり、これ以上成り上がる必要はない。
「よし! 早く地上に戻ろう!!」
こうしてはいられない。さっさと地上に戻ってエレン王子に求婚しなくては。
いや、待てよ。神聖国が地上に戻ったら、手っ取り早い友好の手段として、エレン王子から求婚されるという奇跡もあり得る?
「リリーちゃん……」
求婚すべきか待つべきか頭を悩ませていると、不安そうなネリネ様の声が聞こえてきた。
そうだ。ネリネ様が私のお母様と言うことも判明したんだった。
生き別れの母子だと判明した感動の場面。こうしてはいられないと私は役作りに入る。
ざまぁされるヒドイン役からお姫様役に華麗なるジョブチェンジ。
「ネリネ様が、本当に私のお母様なんですか?」
「えぇ、そうよ。今まで黙っていてごめんなさい」
「ううん。本当に嬉しいです。お母様!!」
ネリネ様に駆け寄ってぎゅっと抱きつくと、ネリネ様が私を優しく抱きしめてくれた。
そして、私の後頚部辺りを優しく触れる。
「もう無力化をする必要はないわね」
「えっ?」
「実はパパに頼んでリリーちゃんの魔力を無力化してもらっているのよ。リリーちゃんもいつでも魔法が使える方がいいでしょ?」
「はい。できることならその方が嬉しいです」
「パパ、リリーちゃんの無力化を解除してくれるかしら?」
「承知しました」
パパは私の後頚部に触れる。あの時と同じ。エレン王子を助けた時もパパは私の後頚部に触れていた。
「解除しました。慣れれば姫一人でも無力化の魔法を自由にお使いいただけるはずです」
「本当! めちゃくちゃ便利!!」
これでゲートを行き来し放題だ。つまり、施設長の予定を気にせず、毎日おやつタイムが確保できるってこと。
あれ? そういえば施設長がいない。さすがにサボりすぎはいけないと、ターミナルに戻ったのかな。
きょろきょろと辺りを見回した私は、残念なことにオークと目があってしまった。
先ほどパパにコテンパンにやられたはずなのに復活が早すぎる。せっかくの母子感動の対面をオークが邪魔をする。
「似ているとは思ってはいたが、まさかリリーがアイツの娘だなんて。ずっと俺様を騙していたんだな」
「騙してないし!!」
魅了の魔法が使えることのついては聞かれなかっただけだし、家族のことは今知ったのだから。
そう言えば、オークがざまぁされるのはそろそろのはずだ。
元ヒドインの勘というべきか、ざまぁまでのカウントダウンが始まっている気がする。
「くそっ、俺様の思い通りにならないのなら、このまま全て滅んでしまえばいい」
そう叫び、オークはバルコニーに隠されていた小瓶を取り出し、民衆の前に立った。
「まさか!?」
ネリネ様の顔が一気に青ざめる。
「どうせこの国が滅ぶのなら広場に集まった者たちで殺し合いでもして、俺様を楽しませてもらおうか」
オークが小瓶ーー魔力増幅薬を飲もうとしたその時、民衆がドッと響めいた。瞬間、オークの前に現れたのは……
竜だった。
灼熱のブレス攻撃をオークに向かって浴びせた。直撃だ。
「……ざまぁされた?」
オークがざまぁされた。それにしてもざまぁの方法が雑すぎる。それなのに酷い。良かった、私は国外追放ですんで。
あっという間もなくこんがりと焼かれたオークは、パパによって私たちの目の届かないところへと連れてかれた。
癒しの魔法が使えるネリネ様がついて行ったから、きっと命だけは助かるよね? 反省もしていないのに死んで終わりなんて許さないから!!
そして私は目の前の大きな竜に問いかける。竜神様ではない。何となくこのコに見覚えがあった。
「リリちゃん、だよね?」
明らかにあの時とは大きさが違った。大きなトカゲちゃんではなくて、その姿は完全に竜だったけれど、不思議とリリちゃんだと思ったのだ。
『リリーニ会イタイッテウルサイカラ来タノヨ』
「私に会いたかったの! 嬉しいな〜……って、“うるさいから”ってことは、私に会いたかったのはリリちゃんではなくて?」
リリちゃん以外というと、それは一人しかいない。自意識過剰、かつ、私の希望的観測かもしれないけれど、その人以外思いつかなかった。
慌てて身だしなみを整える。
神聖国にお洋服を持ってきていないかったから、別れた時と同じ服装ーーもちろんシアハウスに備え付けの清浄の魔法石で綺麗にはしてあるーーだけれど、髪型はめちゃくちゃ可愛くアレンジしていて良かったと心底思った。
あの日の私よりも今の私の方が可愛い。そう自分に暗示をかけながら、リリちゃんの背中に乗っている人に目を向ける。
案の定、私の視界に入った人はずっと会いたかったあの人で。
「リリ、余計なことを言うんじゃない」
「エレン王子……」
リリちゃんの背中にはエレン王子が乗っていた。
少しだけバツが悪そうに、けれどその顔つきは男らしくなっていて。ヤバい、惚れてしまいそう。もう手遅れか。
最後に会ったのは約1ヶ月前だけれど、そう考えるとつい最近だけれど、エレン王子なのにエレン王子ではない気がして、私はなんて声をかけたらいいか分からなくなっていた。
でも確認したい。エレン王子の口から聞きたい!
「リリちゃんが言っていたことって、本当ですか?」
「参ったな。もっと格好良く登場する予定だったのに」
十分格好良いです!! 顔はもちろんだけれど、国民同士の殺し合いという最悪な事態を未然に阻止したんだから!!
そしてリリちゃんからバルコニーに降り立ったエレン王子は私に手を差し伸べる。
「リリー、迎えにきたよ。僕と一緒に帰ろう」
「はい、と言いたいのが本音ですが、今から神聖国を……」
「もちろん神聖国も、だよ」
エレン王子は一本の小瓶ーー魔力増幅薬を私に差し出して笑った。
「リリーが僕以外の人に魅了の魔法を使うことは許せない気持ちもあるけれど、神聖国民の安全のためにはリリーの力が必要なんだ。できる?」
「はい! もちろんです!!」
きっとエレン王子もあの計画を知っているのだろう。
魔力増幅薬を誰が用意してくれるのかな? と思っていたけれど、エレン王子から手渡されるなんて、なんて嬉しいサプライズなのだろうか。
「すでにセレスティア嬢がイアン兄様と一緒に、リリーの合図で魔法石を使うように呼びかけているから、そこまで膨大な魔力は必要ないと思うけれど」
私の身体に負担をかけないか気を遣ってくれている。けれど、もしも魔力切れを起こしたとしても施設長曰く、眠ってしまうだけだ。無問題。
「……パパに無力化を解除してもらったので、きっといつもよりもたくさんの人を魅了できると思います!! この魔力を使い切るだけでみんなの命が助かるなら本望ですよ!」
まだ魔力増幅薬を飲んでいないというのに、私の身体の中を沢山の魔力が漲っているのを感じる。これが本来の私の魔力なのだろう。
かなり魔力量は多い方だと思われる。さすがはヒドインだ。
けれど、今までの私の経験上、さすがにこの一瓶の魔力増幅薬では国民全員に魅了の魔法をかけることは難しいだろう。でも弱音は吐けない。吐きたくない。
『エレン、リリー、竜神様モ準備ガ出来タッテ。結界ヲ解除スルヨ』
リリちゃんの言葉に私は一気に魔力増幅薬を飲み干した。
「それじゃあ、いきますよ!」
竜神様が結界を解いたのと同時に魅了の魔法を使った。後悔のないように、持てる魔力を全て出し切るほど。
「皆さーん! 魔法石に魔力を込めてください!」
私が聞いていた計画ーーお守りの中に入っている魔法石に魔力を込めると「神聖国を浮かせてゆっくりと地上に降りていく」と予め設定された飛翔の魔法が発動する。
竜神様の最後の力と神聖国民たちの魔力で起動した飛翔の魔法石の力で、神聖国がふわりふわりとゆっくり降下する。
……はずだったのに。
「えっ!?」
驚きのあまり何が起きたのか理解ができなかった。何度目を擦って見ても見間違えではなくて。
そもそも見間違える以前の問題だ。
だって、目の前にいた国民全員が、私の目の前、神聖国から一瞬にして消えてしまったのだから。




