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いざ! 神聖国へ

前話より少しだけ時を遡ります。

「ねえ施設長、ここからどうやって神聖国へ行くんですか? そもそも神聖国ってどこにあるんですか?」


 私が今いる場所は、ターミナルの中にある建物の一室だ。その部屋の中に門のようなものが一つだけポツンと立っている。


 その門のようなものを例えて言うなら、前世の記憶の中にある空港のセキュリティーゲートのようなもの。


「ありゃ、もしかしてリリーちゃんは神聖国がどこにあるのかも知らないのかい? 上だよ、上」


 施設長は笑いながら上を指差す。


「えっ、待って。上って二階のこと!?」


 まさか、そんなことがあり得るのか!?


 今になって「二階が神聖国だよ」と暴露されてしまったら、私とエレン王子の感動的な別れが恥ずかしすぎるではないか。あの涙を返してくれ。


「リリーちゃんは冗談がうまいねぇ。確かに二階ならいつでもお菓子を用意してあげられるんだけど、残念ながらもっと上、空の上なんだよ」

「ですよね〜、……って、神聖国って、空の上にあるんですか!?」

「ああ、神聖国は竜の力で空に浮かんでいるんだよ。そしてこのゲートからしか行き来できないようになっているのさ」


 神聖国の秘密に驚いた。空に浮かぶ竜が守護する国。ファンタジーの世界だ。そりゃ探しても見つからないわけだ。


「でもこのゲート、何の反応もしないじゃないですか? 壊れてるんですか?」


 施設長と話をしている間も、私は何度もゲートを潜って行ったり来たりを繰り返していた。


 ピーピーと警報音でも鳴るかな、と思いきや全く反応がない。光ったりもしない。


「おや? おかしいな? 自動設定にしとるんだけど?」

「自動設定?」

「このゲートは通る人の魔力に反応して、自動で神聖国に転移できるようになっているんだよ。神聖国は魔法が使える人ならウェルカムな国だから、わしがいなくても行ける様にね」


 どうやらこのゲートにはハイテク機能が備わっているらしい。


 この前の地下通路の時にも思ったけれど、意外とガルシア国の技術は発展しているらしい。……正確にはターミナルは神聖国かな?


 それなら神聖国はガルシア国以上に発展している国かもしれない。何て言ったって魔法の国なのだから!


 そこでふと疑問が生まれた。


「自動設定でウエルカムなら、どうして神聖国に行ったら二度と戻れないって言われてるんですか? 行ったり来たりし放題じゃないですか?」

「残念! 神聖国にあるゲートは設定がこちらとは逆なんだよ」

「逆?」

「神聖国側にあるゲートは、魔力がある人が通ると何の反応もしない。魔力がない人だけが転移できるようになっているんだよ。悲しいことに、神聖国では魔力のない人はいないも同然の扱いを受けるから、その人たちに対するせめてもの逃げ道なのかもしれないね。まあ、お偉いさん方にもあまり知られてはいないし、ゲート自体がどこにでもあるわけじゃないけどね」

「だから神聖国は魔法第一主義って言われてるんですね。……ん? ってことは、私は戻って来放題ってことですか!」

「ん? ああ! そういえばそうなるかも」


 ははは、と笑って告げられたまさかの事実に驚愕する。本当に簡単に戻って来られるなんて。


「けれど、結局はこのターミナルの敷地内までで、ターミナルの外には出られないよ。ターミナルの外に出るにはさらに許可が必要だから」


 許可、と聞いて何だかとても面倒な気がした。不思議と他の方法を探したくなる。


「許可か、それならいっそのこと屋根の上から飛び降りれば、いや、無理、死ぬな」


 命の方が大切だと、すぐに断念した。


 屋根の上はやっぱり高かった。あの時は根性でセレスティア様について行ったけれど、できればもう行きたくない。


 エレン王子が迎えにきてくれて、飛翔の魔法で……そんなことも考えてみたけれど、新しい道を歩み始めたエレン王子に逃亡の片棒を担がせるわけにはいかない。


「身分確認と魔力がないって分かればすぐに許可が出せるよ。一応わしもお役所勤めの身だからホイホイ許可を出したりできないんだよ」

「……身分確認か、私じゃ許可はでなさそうですね」

「残念ながら、聖女様を神聖国が手放すことはないだろうね。聖女様は特別だから」

「いいんです! 神聖国でトップを目指しますから!!」

「トップとは大きく出たねえ。神聖国の国王陛下も時々ターミナルに来るんだけれど、今回はリリーちゃんが来るのを首を長くして待ってると言って、こちらに来るのを我慢してるみたいだよ」

「国王陛下が!? 私ってどれだけVIP待遇なんですか!! ……ちなみに国王陛下はおいくつで? 独身ですか?」


 あわよくば玉の輿。ちなみに私の守備範囲は、上は10歳、下は5歳まで離れていてもオッケーだ。


「確か、40歳半ばくらいだったような」

「残念! 圏外です」


 イケオジだったらワンチャンあるかもしれないから、少しだけ期待をしておこう。


「じゃあ、わしも圏外か……」


 シュンと落ち込む施設長。むしろワンチャンあると思っていた方が不思議だ。


 確かに施設長はイケオジイかもしれけれど、ちょっと、いや、かなりお年を召されている。


「ちなみに施設長は結婚されてないんですか?」

「よくぞ聞いてくれた。ヤングでビューティフルなワイフがいるぞ」


 籍は入れてないんだけどな、と小さく呟いていたけれど、さすがに「どうして?」とは聞き辛い。


「イケメンの息子もいるぞ。どうだい?」


 どうだい? と私に勧められても施設長はもうおじいちゃん世代。私からしたらイケメンの息子も圏外だろう。だから丁重にお断りした。


「神聖国で気を付けることってありますか? セレスティア様は、いきなり魔法をかけてくる人がいるって言っていたけれど、私、無力化の魔法石みたいな自衛手段を持ってないんですよ?」

「ああ、多分あのことだろう。でもリリーちゃんは大丈夫だよ」

「あのこと? どうして私は平気なんですか?」

「だって、魅……おっと、口が滑った。口止めされているんだった」

「み? み、って何ですか? 気になるじゃないですか!!」

「気にしない、気にしない。その代わり魔力増幅薬を一本あげるから。昔は良く手に入ったんだけれど、今ではなかなか手に入らないプレミアものだよ」

「えっ、いいんですか!?」


 うまく誤魔化された気もするけれど、魔力増幅薬はきっと役に立つはずだ。


 それにしても、プレミア物をポンと差し出せる施設長って、実はとってもすごい人なのかもしれない。


「よし、じゃあ、行ってきます!」

「ああ、気を付けて行ってくるんだよ。いつでもここに遊びにおいでね」

「はい! 今度は美味しいケーキを用意しておいて下さいね! 行ってきます!!」


 私は元気よく挨拶をしてゲートを潜った。


「……」


 何の反応もない。えっ、どうして?


「施設長……」

「おお、そうだった。リリーちゃんは普段は魔力がないんだったな」


 ははは、と笑う施設長。大丈夫かこのおじいちゃん。とうとうボケたか?


「さすがにせっかくいただいた魔力増幅薬をこんなところで使いたくないんですけど……」

「ああ、それは奥の手に取っておきなさい。えっと、ゲートの自動設定を解除して、わしの空間魔法で……」

「えっ、ちょっと待って!?」

「はて? どうしたんだい?」


 私はここ最近で一番驚いた。前世の記憶を思い出した時と同じくらい。嘘、さすがにそれほどではないけれど。


「施設長の魔法って、空間魔法なの!?」


 凄すぎる。今、私の手に魔法石がないのが悔しいくらい。さすが神聖国へと続く唯一のゲートの門番なだけある。本当にすごい人だった。


「ああ、空間魔法と言っても、わしの力はご先祖様に比べてだいぶ衰えたからのう。そんなに自慢できる物ではないんだけどな。ちなみにわしの息子も空間魔法が使えるぞ?」


 どうだい? と再び勧められた。正直言って、ちょっと迷った。同時に、施設長がヤングでビューティフルなワイフと籍を入れない理由が分かった気がした。


「親って、子供のことを考えてくれているんですね」


 ふと漏れた言葉に、施設長は大きく頷く。


「子供は世界一可愛いもんさ。出来ることならこの仕事を放棄してずっと一緒にいたいと何度も思ったさ。けれど万が一のことを考えると、わしはこの仕事を辞めるわけにはいかないからな」

「ガルシア国と神聖国とを繋ぐ唯一のゲートですもんね」


 可愛い我が子にまで、生涯このターミナルに常駐しなければならないという生活を強いることは嫌だったのだろう。


 空間魔法使いが側にいないとこのゲートを維持することは難しいみたいで、もしもこの先施設長がいなくなってしまったら、神聖国は孤立してしまう可能性も拭えないのだという。


 今の私が神聖国の未来についてここで憂いても何の解決にはならない。難しいことは国の中枢の方たちに任せるとして、私は目の前のことに想いを馳せる。


「空間魔法か。とっても貴重な魔法ですよね。四次元ポケ……鞄も作れるじゃないですか!!」


 前世の記憶の中にある何でも入るあのポケ……鞄。空間魔法が使えるのなら亜空間を作り出すことも可能かもしれない。


 そこまでできなかったとしても、どこかの倉庫と繋げても良いと思う。


「四次元……何だいそれは?」

「えっ、まさか作ってないの!? いわゆるアイテム袋!! 作れば金儲けできますよ!! ここはひとつ共同制作を!!」


 思わぬところで前世の知識チートができることになりそうだ。やばい、玉の輿に乗らなくても大金持ちになれそうな予感がしてきた。その話はまた追々するとして。


「じゃ、気を取り直して行ってきます!」

「ああ、いつでもターミナルに遊びにおいで」

「はい! 美味しいお菓子をお願いしますね!!」


 そうしてようやくゲートを通過した私が降り立ったその先は、見知らぬ一室で。


「ここはどこ?」


 ギラギラと輝く金ピカの内装が目に痛い。


「うっ、眩しっ! 趣味悪すぎるし!!」


 すると、すぐにドアが開いた。ヤバい! 今の悪口を聞かれたかも。第一印象が大切なのに!!


「お待ちしておりました、リリー様。どうぞこちらへ。謁見の間にて国王陛下が今か今かとお待ちしております」

「は? 国王陛下? まさかここって?」

「神聖国の王城でございます。リリー様は特別に謁見の間において入国の手続きを行います」


 神聖国に降り立って早々国王陛下と謁見だなんて、どれだけ私が来ることを心待ちにしてくれていたのだろうか。


 でも、無理。


 国王陛下と謁見だなんて、はっきり言って一庶民にはハードルが高すぎる。


 ちなみに悪趣味なこの部屋は、国王陛下の趣味らしい。絶対にワンチャンはないだろうと察した。






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