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二度とあなたの妻にはならない  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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9 アルヴィン第二王子

―――アルヴィン・オルティネス第二王子。

シーラやヘンドリックたちが暮らすオルティネス王国の第二王子だ。

国王夫妻から生まれた第三子であり、二つ上の兄と四つ上の姉がいる。年齢はシーラと同い年で、偶然かクラスも同じだ。



黒い髪に黒い瞳を持った彼は、百八十センチを超える長身である。スタイルも良く、顔立ちも整っているため貴族令嬢たちからは絶大な人気を誇っている。



そして、何を隠そうアルヴィンはシーラと幼馴染でもある。

幼い頃、父について王宮へ行った際にたまたま彼と出会ったのだ。そのため、シーラとアルヴィンの付き合いはかなり長く、何と今年で十二年にもなる。シーラにとってアルヴィンは、ヘンドリックと出会う前からの知り合いなのだ。



しかし、だからといって気を遣うことなく話せるほどの仲ではない。



「お久しぶりでございます、アルヴィン殿下」



シーラはスカートの裾を両手で持ち上げ、彼に向かってカーテシーをした。貴族令嬢の一人として、王族に礼儀を尽くす。



(殿下と会うのなんて、何年ぶりかしら……)



少なくともヘンドリックと結婚している間は一度も会っていなかったから、三年ぶりくらいか。

最後に彼を見たのはアカデミーの卒業パーティーのときだった。



アルヴィンは学園を卒業後、オルティネス王国から派遣される使節の一人として隣国へ旅立つこととなる。

シーラは最後、彼の見送りには行かなかった。



――行くことで、ヘンドリックから嫌われてしまうことを何よりも恐れたからだ。



「婚約者との仲は上手くいっているか?」

「……そう見えるのであれば、いいのですけれど」



彼の問いに、シーラは貼り付けたような笑みを浮かべた。

彼が何故、シーラにヘンドリックのことを聞いたのか。ただの世間話ではない、それにはきちんとした意味が込められている。



――アルヴィン第二王子とヘンドリックは犬猿の仲だった。



きっかけは十年以上前、とある一人の少女を巡って二人の間で戦いが起きたのだ。



今では話題にすら上がらないようなことだが、実はヘンドリックにはシーラとの縁談がまとまる前に別の婚約者がいた。

そこそこに名のある伯爵家のご令嬢で、花のような可憐さと美しさを持ち合わせた世紀の美少女だったという。

当時、多くの貴族の令息が彼女に惚れ込み、すぐに伯爵家に婚約を申し込んだ。



――そして、その中にはまだ幼いアルヴィンとヘンドリックもいたのである。



彼ら二人は同じ少女に想いを寄せ、何とか振り向かせようと猛アプローチを続けた。

だが、結局少女が選んだのはヘンドリックだった。アルヴィンは失恋し、彼女とヘンドリックは婚約を結ぶこととなった。



――しかし、誰からも愛された少女は十二歳にして悲運の死を遂げてしまった。

レイヴィス公爵邸から伯爵邸へ帰る途中で馬車の事故に遭い、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。



彼女の死にヘンドリックは嘆き悲しみ、食べ物も喉を通らなくなるほどに憔悴していたという。



(彼女が死ななければ、私は婚約者にならなかったでしょうね……)



そんな中で選ばれた次の婚約者が、まさにシーラだったのだ。

今思えば、ヘンドリックがシーラを愛せなかったのも仕方が無いことだったのかもしれない。

愛する女性を失って悲しみに暮れる中、初対面の女がその代わりとしてやって来たのだから。



そして、デイジーはかつてヘンドリックが熱烈に愛した少女に少しだけ似ていた。

彼が最初にデイジーに興味を抱いたのは、きっとそのような理由からだろう。



「君も大変だな……ヘンドリックの噂は俺も聞いてるよ」

「やっぱり……知っていらしたのですね」



アルヴィンはシーラが置かれた状況を全て知っていた。わかってて彼とのことを聞いたなんて、意地悪な人だ。

彼女はチラリと、アルヴィンの横顔を見上げた。



(そういえば……第二王子殿下は未だに婚約者がいないわね……)



女性から人気があり、引く手あまたなはずのアルヴィンは十七歳の今でもなお婚約者がいない。

そのことに対して、人々はヘンドリックの元婚約者のことが忘れられないからだろうと噂した。



(一人の人間をそこまで愛するだなんて……何だか私みたいね……)



その少女が亡くなったとき、アルヴィンもまたショックで何日も部屋にこもっていたと聞く。

愛する女性の幸せを願って身を引き、同じ空の下で暮らせればいいと思える人間がこの世にどのくらい存在しているだろうか。



少なくとも、前世のシーラにはそんなことできなかった。



「殿下、元気出してください!きっといつか、素敵な人に巡り会えますよ!」

「……」



シーラはポケットから取り出したあるものを、アルヴィンの手に握らせた。

それは、彼女が内緒で侯爵邸の厨房から持ち出したチョコレートとキャンディーの包みだった。



彼は呆然としたまま、手元のお菓子を眺めていた。

そういえば子供の頃、よく彼女からお菓子を貰っていたな。そのような幼少期の出来事が、彼の頭に浮かび上がった。



「……そうだな。ありがとう、シーラ嬢。君のおかげで何だか元気が出たよ」



アルヴィンは僅かに口元に笑みを浮かべ、シーラを見下ろした。




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