86 母親の謎
ドキドキハラハラの文化祭が終わり、シーラは家に帰ってくつろいでいた。
「何だか、とっても疲れたわ……」
楽しかったのはもちろんだが、いつもより疲労が溜まっていた。
あの後、シーラはロイドと共にお化け屋敷へと入った。残り時間僅かとなっていたこともあり、シーラたちはほとんど並ぶことなく入場することができた。
真っ暗闇の世界に、ロイドと二人きり。
ロマンチックなラブハプニングを想像してしまうところだが、あいにくそんなものは存在しなかった。
『ギャー!!!』
『シーラ、走ると危ないぞ……!』
次々と襲い掛かる仕掛けに、シーラはビビり散らし逃げまくり。
ロイドはそんな彼女の世話に追われ、楽しむ時間もほとんどなかった。
その結果、お姫様抱っこで入り、お姫様抱っこで出てくるという前代未聞の展開となった。
「私、すごいやらかしちゃったなぁ……」
今になって気付いても、もう遅い。
数日後の学内新聞には、シーラとロイドのお姫様抱っこ騒動が掲載されているだろう。
ロイドのことは好きではあるが、恋愛感情であるか聞かれればまだわからない。
(アルヴィンのこともあるし……決めるのはまだ先でいいかしら)
シーラはそう結論付け、一度ロイドのことを頭からかき消した。
代わりに浮かんだのは、昼間のトラップに嵌まったときのことだった。
「お母様……」
罠に嵌められた彼女を、母イザベラが救い出した。
亡くなった母親の登場に、シーラは未だ理解が追い付いていなかった。
なぜ、亡くなったはずの母があそこにいたのか。
なぜ、シーラを助けることができたのか。
わからないことが多すぎて、彼女の頭の中はグチャグチャになった。
***
翌日、ちょうどアカデミーが休みだったこともあり、シーラは久しぶりに祖父ローガンへ会いに辺境の町へ行っていた。
「イザベラのことが聞きたい……?」
「はい、お祖父様」
シーラは会って早々、母イザベラについて尋ねた。
祖父ローガンは彼女の産みの親ではないものの、義理の親子としてかなり親しくしていたと聞く。
幼い頃の記憶がほとんどないシーラよりかは、ずっと母のことを知っているだろう。
そのような期待を抱き、シーラは遠路はるばるローガンに会いにやって来た。
「……急にどうしたんだ?もしかして、母親の夢でも見たのか?」
「……お祖父様」
何かを確信しているかのような祖父に、シーラは全てを打ち明けた。
昨日、罠に嵌まったこと、突如現れたイザベラが助けてくれたことまで全て。
ローガンは特に驚く様子も見せず、ただじっと彼女の話を聞いていた。
「そうか……そんなことがあったんだな……」
「はい、お母様が私を助けてくださったんです。信じられない話だとは思いますが……」
「いや、信じるよ。大切な孫娘の言葉を信じないわけがない」
ローガンはゆっくりと首に横に振ると、母イザベラについて語り始めた。
「……イザベラは、そうだな。穏やかで優しいが、少し不思議な子だった」
「不思議……と言いますと?」
「あの子は、まるで自分の死期を悟っているかのように日々を過ごしていた」
イザベラが亡くなったのは、転落による不慮の事故だった。
しかし、事故が起きる前から彼女は『長くは生きられない』と常に口にしていたという。
「未来予知の力でもあるのかと……彼女がまだ生きていたとき、本人に尋ねたことがある」
ローガンの問いに、イザベラは笑いながら答えた。
『お義父様ったら。人間にそんな力があるわけないではありませんか。もし、あれば……シーラを残酷な運命から救ってあげることができたかもしれません』
ローガンは残酷な運命とはどういう意味かと疑問を抱いたが、深く追及するようなことはしなかった。
「シーラという名前は……イザベラが決めた。迷う素振りもなく、他に候補すらなかった。それに……彼女はお前が生まれる前から性別が女であることをなぜか知っていた」
「……」
ローガンはそんな義理の娘に違和感を抱いたが、余計な詮索をするものではないと考えた。
初めて知る母の一面に、シーラは驚きながらもじっと耳を傾けた。
(……それだとまるで――このゲームの内容を最初から全て知っているみたいだわ)
あり得ない――とは思うものの、可能性を否定することはできなかった。
母イザベラは一体何者なのか。話を聞けば聞くほど、謎は深まるばかりだった。
――『キーワード“深まる謎”を手に入れました』
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