84 四枚目のカード
果てしない闇に包まれたシーラは、目が覚めると光の中にいた。
「……ここはどこ?」
さっきまで、たしかに闇の中に閉じ込められていたはず。
しかし、今は光の中にいる。闇から光へ来ることになるとは、想像もしていなかった。
(……もしかしたら、私を憐れに思った神が天国へ連れて来てくれたのかしら?)
理由はわからないが、きっと私はまた死んでしまったのだろう。
そのことを悟った彼女の脳裏に、ロイドやローガン、クレアたち生徒会メンバーが浮かび上がった。
いつ死んでもかまわないと思っていた彼女だが、生に対する未練が残っていたようだ。
二度と彼らに会えないという事実に、シーラの胸が締め付けられた。
そのとき、突然どこかから声が聞こえた。
「――シーラ」
「……誰ですか?」
いきなり話しかけられたシーラは、驚いて周囲を見渡した。
誰もいなかったはずの空間に、いつの間にか人が立っていた。
(……誰かしら?どこかで見たことがあるような……)
眩い光に包まれているせいで、上手く目が開けられない。
シーラは瞬きを繰り返し、目をこすりながらもしっかりとその姿を目に焼き付けた。
しばらくすると、光の中にいる人物をハッキリと見ることができた。
シーラによく似た銀色の髪に、青い瞳。いつの日か、肖像画で見たことのある姿だった。
彼女はその人物の正体を、一瞬で理解した。
「お、お母様……?」
「シーラ、久しぶりね」
突如、目の前に現れた人物。
――それは、かなり昔に亡くなってしまった母イザベラだった。
イザベラはシーラが幼い頃に、彼女を置いて亡くなってしまった。
当時のことはあまりよく覚えていないものの、母親の姿をその目で見たシーラは我慢できなくなって涙を流してしまった。
「お、お母様……どうしてここに……!」
「シーラ、泣かないで。せっかくこうして会えたんだから、笑っていてほしいの」
「お母様……」
子供のように泣き喚くシーラを、イザベラはその胸に抱きしめた。
母親の温もりを直接身体に感じたのは、久しぶりだった。
「シーラ、会えて嬉しいわ」
「お母様、私もです」
お母様がいるということは、やはり私は死んでしまったのだろう。
母親の胸の中で、シーラは自身の死を悟った。
そんな娘の心の内に気付いたのだろう、イザベラが口を開いた。
「――あなたはまだ死んでいないわ」
「…………え?」
その言葉に、シーラは拍子抜けした。
理解が追い付かないシーラに、イザベラは説明を加えた。
「――シーラ、あなたは四枚目のカードを使ったのよ。寝る直前、無意識にね」
「四枚目の……カード……」
彼女が手に入れた四枚目のカード――母親の温もり。
一体どんな効力があるのだろうと不思議に思っていたが、母に会えるものだったとは。
シーラは冷静に、眠りにつく前のことを思い出した。
「私は……罠に嵌められてしまいました」
「ええ、そうね。あなたは選択を間違えて悪意ある者の罠に嵌まったわ」
どうやら母も、シーラがここに来るまでの経緯を知っているようだった。
だとしたら、彼女が自分を助けてくれたのだろうか。
「選択を……ということは、やっぱりお化け屋敷へ行ってはいけなかったんですね」
「ええ……そうね。本当ならばあそこであなたはゲームオーバーになるはずだった。だけど、四枚目のカードを使用したことによって運よくこの世界へ来ることができたのよ」
会えてとっても嬉しいわ――とイザベラは再度微笑んだ。
かと思いきや、すぐに真剣な表情になった。まるで警告でもするかのような口調で、彼女に告げた。
「――シーラ、あなたはまだこっちへ来てはいけないわ」
「お母様……?」
シーラはわけもわからないまま、きょとんと母を見つめていた。
母イザベラは、何も言わないままシーラから背を向けた。
「じゃあね、私の愛する娘――全てが終わったら、また会いましょう」
「お、お母様……!」
再び眩い光に包まれ、イザベラの姿が消えていく。
シーラは行かないでほしいと手を伸ばしたが、届く前に彼女の姿は跡形もなく消えてしまう。
「ま、待って……お母様……!」
もう少しだけ、私と一緒に――
そう思ったところで、彼女自身もまた、光に包まれた。
「……?」
次に目を覚ましたとき、シーラは選択を間違えたあの場所にいた。
呆然としている彼女の頭上に、いつものスクリーンが現れた。
――『四枚目のカードを使用しました。キーワード“母親の正体”を手に入れました』
カードを失うと同時に、シーラは新たなキーワードを手に入れた。
キーワードを全て集めればロイドのときのように謎が解けると言うが、一体何を……。
考え込んでいたそのとき、声と同時に足音が耳に入った。
「――シーラ!」
「……王弟殿下?」
血相を変えてこちらへと走ってきたのは、ロイドだった――
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