82 恐怖のお化け屋敷
シーラはもはや一人ということも気にせず、近くにあるお化け屋敷へ入って行った。
「お一人ですか?」
「あ、はい!一人です!」
一人で来店する客は珍しいせいか、店番の生徒は驚いたように目を見張った。
そのような反応になってしまうのも仕方がないだろう。シーラ・アンダーソンはアカデミー内で誰もが知る有名人なのだから。
「どうぞ、お入りください」
「わぁ、ありがとうございます!」
入口の扉が開くと、中から真っ暗な道が姿を現わした。
あまりにも暗すぎて、先が見えない。夜出歩くことなどほとんどないシーラは、足がすくんでしまった。
(ワクワクする……!お化け屋敷なんて初めてだわ……!)
何事においても初めては緊張するものだ。
彼女は深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせると、そっと中に足を踏み入れた。
「よし、行くわよ!」
「いってらっしゃいませ――道に迷わないように、くれぐれもご注意ください」
気合いを入れ、前へ進んだそのとき、入口の扉が閉まった。
ここからは一人で、ということだろう。心細いことに変わりはないが、前へ進むしかない。
お化け屋敷の中で、シーラは一歩一歩ゆっくりと歩みを進めた。
「……どっちへ行けばいいのかしら」
シーラは警戒するように周囲を見回しながら、壁に設置されたランプを辿って行った。
こっちの道で合っているのかはわからない。しかし、動かない限り外へ出ることはできないだろう。
「誰かいないのかしら?不気味なくらいシンとしているわ……」
お化け屋敷は人気だから他に人がいてもおかしくはないのに、なぜこんなにも静かなのだろうか。
シーラは入ってからそのことに気が付いた。
もし、入る前に気が付けていたら、このような事態にはならなかったかもしれない。
しばらく歩き続けたシーラは、ようやく異変を感じ取った。
「……一体どこまで道が続いているの?」
もうとっくに外に出ていてもおかしくないというのに、いつまでも出口は見当たらない。
そもそも限られた敷地内で一つの出し物がこれほど広い場所を確保することなどできるはずがない。その点を考えれば、明らかに変だった。
戻ろうか悩み始めていたシーラに、別の異変が起きた。
――突然、耳をつんざくような大きな音が鳴り響いた。
「キャアッ!」
驚いたシーラは、叫び声を上げながらも音のしたほうを振り返った。
一体何が起きているのか、すぐには理解できなかった。
立て続けに鳴り響く轟音に、シーラは頭を伏せてしゃがみ込んだ。
しばらくして音が鳴り止むと、彼女の前に黒い影が現れた。
まるで魔物のような形をした、真っ黒な生き物。正体はわからないが、自分を助けに来たというわけではないようだ。
「な、何よ……一体何が起きているのよ……!」
魔物は咆哮を上げると、シーラに向かって突進した。
彼女は素早く立ち上がり、魔物から逃げるために駆け出した。
そのあとを、魔物は追いかける。
ただ、お化け屋敷に入っただけなのに――
生きるか死ぬかの追いかけっこが、たった今幕を開けた。
***
一方その頃、婚約者の第一王子とアカデミーを歩いていたクレアは姿の見えないシーラを疑問に思っていた。
「ねぇ、シーラ見てない?」
「見てませんが……」
他の生徒たちに聞いても、ただ首をかしげるだけ。
誰もシーラの居場所を知らないどころが、目撃すらしていなかった。
「変ねぇ……前に会ったときから一時間以上経過しているわ。どこかのブースに行っていてもおかしくはないでしょうに」
心配になったクレアは、横にいた第一王子に尋ねた。
彼もまた、シーラを心配しているようだった。
「……危ない目に遭っていなければいいが」
「そうね、シーラは敵が多いから」
生徒会に入ってから虐めはほとんど無くなったものの、まだ彼女を毛嫌いする生徒は多々いる。
やはり、彼女を一人にさせておくのが間違いだったのだろうか。
「そうだ、念のため……アイツにも連絡しておこう」
「そうね、彼ならきっとシーラを探してくれるはずよ」
シーラが大変な思いをしていることに、気付いている者は誰もいなかった――
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