80 カフェの開店
その後、王立アカデミー文化祭午前の部が幕を開けた。
開幕と同時に、一般客たちが正門からなだれ込んでくる。
王立アカデミーはオルティネス王国で最も由緒正しい名門校だ。
そんなアカデミーで行われる一大イベントがこの文化祭である。一年で最も人が集まるのは当然のことだった。
二階の教室から外を眺めたシーラは、その人の多さに呆気に取られていた。
前世ではあまり気にしなかったことだが、あんなにも大勢の人が来ると何だか緊張してしまう。
そんな彼女に、午前の部の店番を担当するクラスメイトが声をかけた。
「アンダーソン令嬢、頑張りましょうね!」
「え、ええ……そうですわね……」
意気揚々と言ったのは、回帰してから何度か話したことのあるミリア伯爵令嬢だった。
そのすぐ近くには、仲良しのリーリア嬢とヘラ嬢もいる。最初こそシーラを警戒していた三人だったが、今ではすっかり壁は取り除かれている。
時々ではあるが、昼食を一緒に摂ったこともあるほどの仲だった。
午前の部ではミリアとシーラは接客担当、リーリアとヘラはキッチンで調理担当となる。
「ところで、料理は順調ですか?」
「あ、それがですね……」
シーラのいるD組の出し物は、カフェである。
サンドイッチなどの軽食と、パフェやケーキを始めとしたスイーツを、飾り付けしたオシャレな教室内で楽しむことができるというコンセプトのお店だ。
教室内は王都にある有名カフェのように、華やかに飾り付けがされている。若い女の子が好みそうな、良いデザインだとシーラも思う。
しかし、どうやらキッチン内で問題が発生したようである。
リーリアに誘われて裏にある厨房へ赴くと、謎の物体がシーラを待ち受けていた。
二つのパンに挟まれているよくわからない何か。色々な食材が混ざりすぎて、何が入っているのかわからない。
とりあえず今あるやつ適当に詰め込んだ感満載である。
「こ、これは一体何ですか……?」
「サンドイッチのつもりだったんですけど……よかったら一つ食べてみます?」
リーリアに言われ、シーラはサンドイッチを一つ口に運んだ。
「……」
何とも言えない、微妙な味である。
美味しくはないけどオエッてなるほどのマズさでもない。パンに挟まれている食材たちが喧嘩していて、それぞれの食材の良さを完全に打ち消してしまっている状態だ。
一口食べたシーラは、思ったことを素直に伝えた。
「……これをお客さんに出すのはやめたほうがいいのでは?」
「やっぱり、そうですよね」
誰が作ったのかは聞かないでおこう。プライドを傷付けてしまいそうだし。
「――アンダーソン令嬢!お客様がいらっしゃいましたよ!」
「あ、はい!すぐに行きます!」
どうやら、記念すべき初めての来店者のようだ。
シーラはすぐに服を整えて、お客様の元へと向かった。
最初のお客さんは二人組の若い女性だった。
年齢はシーラたちよりも少し上くらい、おそらく平民だろう。
二人を席に通すと、シーラは丁寧に接客を始めた。
(平民相手に敬語を使うだなんて、何だか不思議な気分……)
前世でも文化祭で店番をやってはいたものの、そのときは基本的に裏方を担当していた。
普段から愛想が悪かったせいか、表に出すわけにはいかないとクラスメイトたちに判断されたようだった。そんなシーラが今回表立って接客をしているのは、きっと生徒会に入ったおかげで信頼を得られたからだろう。
シーラは女性客にメニューを手渡した。
「へぇ、色んな料理があるんですね」
「ええ、一番のおススメはパフェとなっています」
シーラはメニューに一番大きく載っているパフェを手で指した。
「でも気分的にサンドイッチとか……」
「オススメはパフェとなっています」
「な、ならパフェにしようかな……」
サンドイッチを選ばせたら店の評判はダダ下がりだ。
そのため、シーラは何としてでも女性客たちに他のメニューを選ばせなければならなかった。
シーラの圧に負けたのか、彼女たちはパフェを二人で一つ注文した。
キッチンで作られた大きめのパフェをトレーに乗せ、女性客の元まで運ぶ。
「――フルーツパフェになります」
「わぁ、とっても美味しそう!」
数種類のフルーツが盛り付けられた鮮やかなパフェに、女性客たちは目を輝かせた。
スプーンでパフェを一口食べた彼女たちは、顔を綻ばせた。
「とっても美味しいです!」
「パフェを頼んで正解でした!」
喜ぶ二人に、シーラは満面の笑みで返事をした。
「ありがとうございます、お客様!」
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