79 文化祭
月日は流れ、文化祭の日がやって来た。
王立アカデミーで年に一度開かれる文化祭は、後期最大の一大行事である。
(文化祭に参加するのも今年で最後かぁ……何だか不思議な気分ね……)
参加するのは生徒たちだけでなく、近隣住民や生徒の保護者まで幅広い人間が祭へとやって来る。
そのため、毎年文化祭の日になるとアカデミー内は人で溢れかえる。
アリーナでは劇が行われ、敷地内に出店が立ち並ぶ。
午前と午後の二部制に分けられており、どちらかで店番をするのが絶対だ。
(前世では一緒に回る人がいなくて、一人ぼっち教室で過ごしていたわね……)
シーラの学園生活の中で最も苦い思い出の一つだった。
去年も一昨年も、全く同じ状況だった。ヘンドリックは毎年男友達かデイジーを連れて行ってしまったし。
結果、彼女はまったく楽しくない一日を過ごす羽目となった。
「今年はそうはならないように願うわ……」
シーラはカバンを持ち、家を出た。
イベントとかゲームとかそんなの知らない。今日だけは楽しく過ごしてやるんだから。
***
登校すると、いつもと違う王立アカデミーが視界に入った。
正門には『文化祭』という大看板が飾られており、王立学園ということもあってオルティネス王国の国旗が掲げられている。
青い空に、いつもより華やかな王立アカデミー。
年に一度の大イベントのせいか、生徒たちはいつもより浮かれていた。
(晴れたみたいでよかった。せっかくの文化祭が雨だなんて最悪だものね)
とはいえ、シーラは前世では一緒に回る人がいなくて当日に大雨が降る呪いをかけていた。
楽しみにしている人が大半だというのに、今思えば何と醜かったのだろう。
もちろん、今世ではそんなことしていない。
シーラもまた、王立アカデミーに通う生徒の一人として、心から楽しむために学園へやって来た。
「シーラ、おはよう!」
「クレア!」
朝一番、彼女に声をかけてきたのはちょっと前に恋愛相談をしたクレアだった。
いつもと違って長い髪を後ろで一つにまとめているクレアは、軽い足取りでアカデミーへ入って行った。
「クレア、何だかいつもより機嫌が良さそうね。どうかしたの?」
「当然でしょう?今日は年に一度の文化祭の日だもの!第一王子殿下もお忍びで訪れるのよ。楽しみだわ」
「まぁ、第一王子殿下が……」
婚約者が来るから、そんなにも嬉しそうだったのか。
ガーマン公爵令嬢クレアと第一王子殿下は政略結婚ではあるものの、仲が良いことで有名だ。
もちろん相思相愛ではあるが、殿下のほうがクレアを溺愛しているのだという。
(クレアは美人で優しくて頭も良いから、当然よね……)
愛する人に溺愛されるだなんて、何だか羨ましい。
シーラは婚約者のヘンドリックに愛されたことなんて一度もないから。
「……やっぱり、愛するよりも愛されたいわよね」
「そうよ、シーラ!それが一番大事よ!」
小声で何気なく呟かれた一言に、クレアが反応した。
「言ったでしょう?誰を選んでもきっと大丈夫って。私は地位や見た目なんてそんなの見てないわ。あの三人なら誰を選ぼうと、シーラを心から愛してくれるって。そう思ったから言ったのよ」
「クレア……」
クレアはシーラの肩にポンと手を置いた。
「さぁ、もうすぐ文化祭が始まるわ。行きましょう、午前は店番をしないとでしょう?」
「ええ、そうね」
シーラとクレアは別のクラスではあるものの、午前の部は二人とも店番をすることとなっている。
ちなみにアルヴィンやサイラス、ダミアンたちも午前の店番だ。
(偶然か、それとも合わせたのか……)
何だか強制力的なものを感じるが、気にしないことにした。
今日くらいはゲームのことなんて忘れて楽しむと決めたのだ。
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