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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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77 元に戻すために アメリア視点

その頃、アンダーソン侯爵家の本邸では。



ちょうどアメリアとセレナがいつもの晩餐室で夕食を摂っているところだった。

しかし、室内には彼女たち二人しかおらず、最も位の高い者が座る上座は空いていた。



彼女が退学処分になってからというもの、侯爵邸はどんよりとした重い空気が流れている。



「お母様、お父様はどちらへいらっしゃるの?」

「……旦那様は部屋にいるわ」

「そう……」



母親の返答に、アメリアはショックを隠しきれなかった。

父オリバーが家族全員での夕食に出席しなくなってから、もうかなりの日が経っていた。



あの日、オリバーは突然別邸にいる姉の元へ向かうと言って家を出て行った。

それからしばらくして、雨に濡れて帰ってきた彼は、部屋にこもったまま丸一日出てこなかった。



どうしたのかと尋ねても何も答えない。

あんなにも余裕のなさそうな父を見るのは、アメリアは初めてだった。



(お姉様もどこかへ行っちゃったし……何だか一気につまらなくなったわね)



静寂に包まれた部屋の中で、二人の使うナイフとフォークの音だけが響いた。

オリバーとシーラがいないせいか、どちらも一言も発さない。



変わってしまったオリバーの態度に、セレナは夜も眠れなくなってしまったようだ。

平民上がりである彼女は、侯爵夫人としての仕事をしていない。教養のないセレナに貴族の仕事なんてできるわけがないし、オリバーも愛する彼女に無理にやらせようとはしなかったからだ。



しかし、最近になってなぜかオリバーに仕事をしていないことを口うるさく言われるのだという。

お前は何をしているんだだの、いつも家にいるだけで腹が立つだの。ついこないだアメリアも見たが、散々な言われ様だった。



父があそこまで母にキツく当たっているところを、アメリアは初めて見た。



(もちろん、私だってお父様のことが心配ではあるけれど……)



アメリアはオリバーのために、セレナにある提案をした。



「お母様、お父様の元へ一緒に行かない?」

「……そんなことをしても、追い返されるだけだわ」



セレナはアメリアの提案を受け入れることなく、食事を終えるとすぐに部屋から出て行った。

オリバーから詰られているせいか、彼女はかなり疲弊しているようだった。



「お父様もお母様も……喧嘩しているみたいね」



彼女はセレナと違って、事態を軽く捉えていた。そうなるのも仕方がないのかもしれない、アメリアは昔から仲の良い両親の姿しか見てこなかったから。



――しかし、完璧だと思っていた両親の間には彼女の知らない秘密がいくつも隠されていた。



(お父様もお母様も素直じゃないんだから。私が代わりに言ってあげないと)



冷戦状態の両親を見かねて、アメリアは一人で父に会いに行くことを決めた。



「ここね」



オリバーはいつもの書斎ではなく、その横にいる自室にこもっていた。いつもなら母セレナも自由に出入りできる場所だが、今は違う。



誰も入れるなと――他でもないオリバー自身が命じているようだった。

アメリアは扉の前に立つ騎士に声をかけた。



「ごきげんよう」

「ア、アメリアお嬢様!?」

「お父様に会いに来たんだけど、中に入れてくれないかしら?」



普段ならすんなりと入れるところだが、騎士はなぜか彼女の要求を渋った。



「そ、それは……」

「何を悩んでいるの?私はお父様の娘なのよ?」



自身の持つ権力をかざしても、騎士はなかなかそこからどかなかった。

アメリアはしびれを切らし、強引に部屋の扉を開けた。



「ああ、もういいわ!お父様の部下であるあなたに、私の行動を阻む資格なんてないわよね!」

「お、お嬢様――!」



騎士はアメリアを制止しようとするが、一歩遅かった。

彼女はすでに扉に手をかけ、長く閉ざされた部屋の中に入ってしまっていた。



――その瞬間、強烈な酒の匂いが彼女の鼻をついた。



「く、クサい……!何よ、この匂い……!」

「……誰だ?」



明かりのついていない真っ暗な部屋の中央で、謎の黒い影が蠢いていた。

最初は何かわからなかったが、よく見てみてようやくその姿が掴めた。



「お父様……?」



それは紛れもなく彼女の父、オリバーだった。

しかし、焦点の合っていない虚ろな目は力なくアメリアを捉え、髪の毛はボサボサで無精髭を生やしていた。

たった数日姿を見ていないだけで、ここまでになるのか。



テーブルの上には空いた酒瓶が何本も転がっており、どうやらついさっきまで飲酒をしていたようだった。

オリバーはアメリアをしばらくじっと見つめると、冷たく告げた。



「出て行け」

「お父様……」



何とか父に縋りつこうとするが、彼は彼女を一度も見ることなく、再び飲酒を始めた。今は何を言ったところで、無意味だった。

アメリアには出て行く以外の選択肢がなく、そのまま扉から外へ出た。



***



部屋へ戻った彼女は、大好きな父の髪色にそっくりな夜空を見上げて呟いた。



「……どうして?どうしてなのよ」



アメリアはついさっきの父親の冷たい姿を思い浮かべた。

シーラにはともかく、彼女を前にあんなにも冷酷なオリバーは珍しかった。最近は義母セレナにもキツく当たっているみたいだし。



一体何が、オリバーをあそこまで変えてしまったのだろうか。

アメリアは考えられる原因を探った。



そして、彼女は一つの結論に辿り着いた。



「そうよ……シーラお姉様がどこかへ行ってしまったからだわ……」



オリバーが変わってしまった少し前から、シーラは家からいなくなった。

使用人たちによるとしばらくは別邸で住むことになったそうだが、理由はわからない。



オリバーと喧嘩でもしたのだろうか、だから彼はあそこまで荒れているんだ。



「原因がわかったんなら、早速行動に移さないとね」



――きっとお姉様さえ帰ってくれば、全てが元通りになるはずよ。




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