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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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75 忘れていた記憶②

シーラは約一年に渡り、ロイドのいる離宮へ通い続けた。

最初は警戒していた彼だったが、時間が経つにつれて彼女に気を許したのか、その頃には既に友人のような関係になっていた。



その日、シーラはいつものようにロイドと横並びで庭に座っていた。

彼女が植えたガーベラの種がいつの間にか芽吹き、綺麗な花を咲かせていた。ロイドは花に興味などなかったが、シーラが植えたものであれば別だった。



――あの花を見れば、彼女がいないときでも元気をもらえるから。



美しく咲いたガーベラの花に手を触れたシーラが、横にいたロイドに尋ねた。



「殿下、殿下は……大きくなったら何になりたいとかあるんですか?」

「……特にないな。そもそも大人になるまで生きていられるかすらわからない」

「ど、どうしてそんなことを言うんですか!」



ロイドはどこか諦めたような瞳で、ボソッと呟いた。



「知ってるだろう?王妃が俺を目の敵にしているのは。あり得ないことだが、俺が王位を継ぐことを危険視しているんだと」

「そんな……」



ロイドの右腕には、痛々しく包帯が巻かれている。つい最近、王妃が彼を本格的に排除しようとしているのだという話は聞いたことがあった。

きっとそのときに、負ってしまった怪我だろう。



シーラも少し前に義母セレナから受けた鞭打ちの痕跡が、太ももに刻まれていた。



しかし、彼女は生きることを諦めたわけではなかった。今は辛くて苦しくてどうしようもないかもしれないが、きっといつかは幸せになれる日が来る。

だから、ロイドにも生きることを諦めないでほしかったのだ。



「殿下……殿下は、将来立派な王弟殿下になるでしょう」

「……何を言っているんだ?」



国王陛下にはなりたくなさそうだから、順当に行けば王弟かな。陛下には御子が二人しかいないし、彼が王弟になることはほとんど確定しているようなものだ。



「俺が権力者になると本気で思っているのか?」

「はい、殿下」



馬鹿げた妄想だ――と彼はシーラを嘲笑った。

しかし、彼女は冗談を言っているつもりなど毛頭なかった。



「私は信じています。殿下が王弟殿下として……必ず日の目を見る日が来るということを。そういう未来が見えるみたいです、私」

「……お前はそれを望んでいるのか?」



シーラはコクリと頷いた。

彼女はロイドの幸せを望んでいた。彼が幸せになる方法はわからないけれど、少なくとも王弟として権力を手に入れれば、きっと今よりももっと幸せになれるのではないか。



そう、信じて疑わなかった。



「……わかったよ、王弟になればいいんだな?」

「……約束ですよ!」



ロイドの瞳に、僅かながらに生への未練が宿ったのを彼女は見逃さなかった。



「お前は……将来は何になりたいんだ?俺に聞いてきたってことは、お前も何かあるんだろ?」

「私はね……お嫁さん」



その返事を聞いたロイドが、呆れたような目で彼女を見つめた。

シーラはそんなもの、気にもしない。



「貴族令嬢ならやっぱり、結婚するのが普通でしょう?政略結婚が多いのはわかってるけど……私は自分の大好きな人と結婚したいんです」

「そんな人、いるのか?」

「ううん、今はまだいないけどこれから見つけるの」



返ってきた言葉に、彼が安心したように息を吐いた。



「お嫁さんになりたいんだったら……俺の嫁になればいい」

「え、本当!?お嫁さんにしてくれるんですか?」



ロイドは照れたように頬を染めながら、小さく頷いた。

やったぁと年相応に喜ぶシーラから、彼は顔を背けた。



「そうだな、そのためには……たしかに、王弟になる必要があるな。半端者ではとても、高位貴族の令嬢となんて結婚できないから……」

「何言ってるんです?」

「いや、何でもない」



彼が既に彼女と結婚する未来を思い描いていることを、このときのシーラは当然知る由もなかった。

今はまだ子供だけれど、大きくなったらきっと、とっても綺麗になるだろうな。ロイドは彼女が成長した後が楽しみだった。



昔、子供向けの本か何かで読んだように、彼はシーラの手を取った。

彼は貴族令嬢の落とし方なんて知らない。見よう見まねだけれど、彼女は感動したように頬を染めた。



「いつか俺が、お前をあの家から救い出してみせるから。待っていてくれ」

「わぁ、とっても素敵。王子様みたいね」



その言葉に、シーラは嬉しそうにはにかんだ。

彼はこのとき、彼女をあの家から救い出すことを心に決めた。いつになるかはわからない。でも必ずやり遂げる。彼がアンダーソン家を上回るほどの権力を手に入れた頃、必ずロイドはシーラを迎えに行く。



――たとえ、彼女がどんなところにいようとも。



「迎えに来てくれるの?約束よ?」

「あぁ、もちろんだ」



二人は指切りをし、約束を交わした。

永遠に色褪せることのない、大切な約束を――



全てを思い出したシーラの両目から、とめどなく涙が溢れ出た。



「…………殿下」

「やっと、思い出してくれたんだな」



ロイドはシーラの涙を手で拭い取り、彼女を再び抱きしめた。

彼女もまた、彼を拒否することなく、背中に腕を回して抱きしめ返した。



――『カード“忘れられていた記憶”を手に入れました』




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