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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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71 王女の輿入れ

祖父ローガンの住む邸宅から帰ったシーラには、とある行事が待ち受けていた。



「――スカーレット第一王女殿下にご挨拶申し上げます」

「久しぶりね、シーラ嬢!」



この日、シーラはスカーレットの住む第一王女宮を訪れていた。

彼女の他に、アルヴィンや第一王子たち王族、そして生徒会の面々もいた。



「シーラ嬢に会うなんて何年ぶりかしら……とっても嬉しいわ。綺麗になったのね、あのときはまだ子供だったのに……」

「ありがとうございます。ですが、スカーレット王女殿下の美しさには到底叶いません」



今日はちょうど、第一王女スカーレットの輿入れの日だった。

彼女は今日を以てオルティネス王国第一王女ではなく、隣国の王太子妃となるのだ。



「お義姉様、向こうに行ってもお元気で」

「ええ、クレアちゃん。あなたもね」



涙を流すクレアを、スカーレットが抱きしめた。

そしてその後には、アルヴィンとクレアの婚約者である第一王子殿下が続いた。



「……姉上、元気でな」

「アルヴィン、あなたもね。いい加減早く相手を見つけなさい」

「……余計なお世話だよ」



品行方正なアルヴィン殿下は反抗期のせいか、姉のスカーレットには冷たいようだ。

そしてその後にダミアンが王女に挨拶をし、最後はサイラスとなった。



「……スカーレット」



彼はスカーレットの前に立つと、複雑な目で彼女を見つめた。



「……どうか、幸せになってくれよな」

「ええ、もちろんよ。彼の傍じゃないと絶対に幸せになれないわ」

「……」



彼は一瞬だけ悲しそうな顔をしたものの、すぐに表情を戻した。

最後にサイラスとの別れの挨拶を終えると、スカーレットは荷物をまとめて馬車に乗り込んだ。



「お父様、お母様。そんなに泣かないで」

「スカーレット……」



大切な娘の輿入れに耐えきれずに泣く国王夫妻を、スカーレットは慰めた。

次に会えるのは、きっと数ヵ月後に行われる結婚式のときだろう。

しかし、結婚式とはいっても出席するのは王族だけで、シーラやサイラスたちは行くことができない。



(スカーレット王女のウエディングドレス姿は、きっととっても素敵でしょうね)



美しく、優しい王女殿下のことだ。きっと夫にも国民にも愛される王妃となるだろう。

彼女を乗せた馬車が走り去った後、シーラは横にいたサイラスに尋ねた。



「手、振らなくてよかったんですか?」

「ああ……全部終わらせるつもりだったからな」



サイラスは王女の乗った馬車が去って行った方向を、遠い目で眺めていた。



「最後にありがとうって、言いました?」

「……あぁ、言ったよ」

「よくできました、大公子様!」



軽く両手を叩いて褒め称えたシーラに、彼は子供じゃないんだからと照れたように顔を背けた。

そしてこの日、シーラはサイラスから名前呼びの許可を頂いたのだった。



――『攻略対象③の好感度が10upしました!』



***



夏休みが着々と終わりに近づいている最中、レイヴィス公爵邸で眠っていたヘンドリックは謎の悪夢に悩まされていた。



『……や、やめろ。やめてくれ……!』

『やめろだと?彼女の受けた苦痛はこんなものではなかった』



うずくまるヘンドリックに、硬い鞭が絶え間なく振り下ろされる。

それは皮膚を貫通し、奥にある骨にまで響いた。あまりの痛みに、彼は動くことができなかった。

どこかの地下牢の中に閉じ込められていて、辺り一面が血に染まっていた。



ふと自分の手を見ると、爪が全て剥がされていた。

それは少し前に、自分が()()にやった仕打ちと同じだった。



(……彼女って一体誰のことだ?)



ヘンドリックはわけもわからないまま、ただ拷問を受け続ける悪夢を見続けていた。

目が覚めるのはいつも、彼が拷問によって命を落としたときだった。



「……」



気分が悪くて、彼は朝の四時には起きてしまっていた。



「……お坊ちゃま!どうかなさったのですか!?」

「……悪い夢を見たんだ」



顔色の悪いヘンドリックに、執事が心配そうに声をかけた。

執事は夏休みに入ってからあまり眠れていないヘンドリックを元気付けるため、あることを伝えた。



「お坊ちゃま……デイジー嬢との婚約に関してですが、手筈が整いました」



シーラとの婚約を解消した彼は、すぐにデイジーと婚約し直すために奔走していた。

最初は平民との婚約を渋っていた父だったが、溺愛する母親が彼を説得し、何とかこぎつけることができた。



愛する女性と結婚できるのだから、てっきり喜ぶかと思ったが、彼は顔色を変えなかった。



「そうか……デイジーとの婚約は……」



淀んだ瞳が、執事を正面から捉えた。



「――もう少し、先延ばしにしよう……」

「お、お坊ちゃま……?」



あれだけ彼女のことを愛していたのに、どうして……?

執事はわけもわからないまま、虚ろな目でベッドに座るヘンドリックを見つめていた。

ヘンドリックはそんな執事の気持ちを気にも留めず、たださっきの夢のことを考えていた。



「……この気持ちは何だ?」



――何故か、とても大切なものを失ってしまったような気が……。




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