68 三枚目のカード
倉庫の扉が開き、外から姿を現したのはシーラのクラスの担任教師だった。
「アンダーソンさん!大丈夫!?」
「せ、先生……?」
彼女は倉庫内にいるシーラを見つけると、駆け寄った。
そして、ギュッと胸の中に抱きしめた。フローラル系の香水の香りが、鼻をくすぐった。
「安心して、もう大丈夫よ。あの子たちはここへは来ないわ」
「ど、どうして……」
すぐ隣にいたアルヴィンも状況を把握できていないようで、呆然と女教師を見つめている。
シーラは彼女に誘導され、アルヴィンと共に倉庫から出た。
「先生、何が起きているんですか?」
「今回の件を仕組んだ生徒たちは全員捕らえてあるわ。かなり暴れたみたいね」
ふと後ろに目を向けると、シーラを追いかけていた生徒たちが全員捕縛されていた。
暴れる彼らを、教師やアカデミーの警備員たちが押さえ込んでいる。
「大人しくしなさい!」
「は、離せ!あの女はテストで不正をしたんだ!俺たちが制裁するんだ!」
身体を押さえ付けられながらも、彼らはみっともなく暴れている。
そしてその瞳には、変わらずシーラへの憎悪が宿っている。その瞳に、彼女は見覚えがあった。
(……どうして?どうしてあなたたちは私をそこまで憎むの?)
私が一体、何をしたというのか。
その執念や労力を勉強に使い、シーラよりも良い順位を取ればよかったものを。
「……先生、私はテストで不正なんてしていません」
「ええ、わかっているわ。アンダーソンさんはそんなことをするような人じゃないでしょう?」
疑ったことなんて一度もないわ――と女教師はニコリと微笑んだ。
前世では誰からも信用してもらえていなかった彼女だが、今世は違う。
「シーラ嬢が不正だなんて……ありえない」
「アルヴィン殿下も……ありがとうございます」
信じてくれる人がいるということは、こんなにも嬉しいことなのか。
シーラは何だか涙が出そうになってしまった。
「今回の一件は学園長様に報告し、判断を委ねるつもりよ。きっと全員の退学処分は免れないでしょうけど……」
「まぁ、今回ばかりは仕方がないですね」
二度目ともなれば、シーラも彼らを庇うつもりはない。
今もあんなに無様な姿を晒しているような人たちだ。この先の教育次第で変わるとは、到底思えなかった。
教師たちは捕まえた生徒たちを、学園長室まで連れて行った。
彼らの姿をアカデミーで見ることは二度とないだろう。
それと同時に、シーラの前にあの画面が現れた。
――『三枚目のカードを使用したことにより、攻略対象①の強制力が解除されました。好感度アップアイテム“誘惑の香水”を手に入れました』
気が付いたときには、彼女の手にハートの形をした香水の瓶が握られていた。
「あら、アンダーソンさん。ずいぶん可愛らしい香水を持っているのね」
「あ、ありがとうございます……」
「だけど、アカデミーには不要なものを持ってきてはダメよ。今回だけは特別に見逃してあげるわ」
シーラは蓋を開け、香水の匂いを嗅いだ。
ふわっと広がったのは、シトラス系の爽やかな香りだった。
(とっても良い匂い……)
嗅いだだけで、なぜかとても晴れやかな気持ちになる。
明日から早速使ってみよう。
***
その後、シーラは家に帰り、怪我の治療を受けていた。
大した重傷ではなかったものの、擦りむいたところから少量の血が出ていた。
「でもこのくらいでよかったわ……」
「アイツら、お嬢様に何てことをなさるんですか……!」
「まぁまぁ、どのみち退学になるんだから怒りを鎮めてちょうだい」
一体誰が不正だなんて言い出したのかはわからないが、迷惑な話だ。
シーラはただ真面目に勉強し、テストを受け、高順位を取っただけである。悔しければ相手を貶めるのではなく、自分が努力すればいいだけの話だ。
膝に絆創膏を貼って治療を終えたシーラが立ち上がると、慌てた様子の侍女が部屋に入ってきた。
「シーラお嬢様!大変です!」
「……どうかしたの?」
肩で息をしながら、侍女は衝撃的な一言を放った。
「――アメリアお嬢様が今回の一件の首謀者として、捕らえられたそうです!」
「……何ですって?」
部屋中に激震が走った。
(……つまり、アメリアが今回の件を仕組んだということ?)
何でも侍女の話によると、彼らにシーラの不正を明らかにするよう唆したのがアメリアらしい。彼らが提示していた証拠の数々も、アメリアが用意したものであるという。
つまり、彼らはシーラの罪をでっちあげたのではなく、本気で彼女が不正をしたと思っていたということだ。
「どうしてアメリアはそんなことを……」
「それは私にもわかりません……」
そのとき、部屋の外からけたたましい足音と怒声が聞こえてきた。
「だ、旦那様!落ち着いてください!」
「うるさい黙れ!道を開けろ!」
どうやら、招かれざる客が訪れたようだった。
次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開けられた。
「シーラ!!!」
「………お父様?」
扉のすぐ傍で、真っ赤な顔でシーラを睨みつけていたのは、久しぶりに見る父オリバーだった。
「――お前、よくもアメリアを嵌めたな!」
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