64 キーワード
次の日、アカデミーへ行く準備をしていたシーラの前に、いつものあの画面が現れた。
――『あと一つで、キーワードが三つ集まります。三つ目のキーワードを手に入れることで謎が解けます』
回帰してから何かと彼女の手助けをしてくれているこの画面。
それはシーラにのみ見えるもので、彼女に助言を与えてくれている。
(キーワード……)
それと同時に、画面の既に手に入れた二つのキーワードが表示された。
『――一つ目“記憶にない彼”
――二つ目“懐かしい香り”』
表示された二つのキーワードをボーッと見つめていると、何かを思い出せそうな気がしてならない。
だけど、結局は何一つ浮かばない。あの日から、永遠にその繰り返しだった。
(三つ目のキーワードを手に入れることができれば……何かが変わるかしら……)
そう簡単にはいかないのだろうが、謎が解けることでこの胸のモヤモヤも消えてなくなるだろう。
そのことを考えると、俄然やる気が出てきた。
ヘンドリックとの婚約もなくなったことだし、おかげで余計に動きやすくなった。
今日は婚約解消してから一日目のアカデミーだ。
いつものように馬車に乗って学園へ登校すると、担任の女教師がシーラを呼び止めた。
「アンダーソンさん」
「せ、先生……」
突然引き留められ、シーラはビクリと肩を上げた。
前世から教師に叱られた経験はあまりないが、彼女は担任教師に良い思い出がない。
『何か、その子たちに嫌われるようなことをしちゃったんでしょう?心当たりがあるんじゃない?』
かつて、ハッキリとそう言われた記憶が彼女には残っていたからだ。
言葉は刃物というが、まさにその通りだった。信頼していた教師に疑われ、シーラがどれだけ辛い思いをしたか。当然、自分の身が一番大切な教師たちはそんなこと気にもしていないだろうが。
何を言われるのか――恐怖から俯いてしまったシーラに、教師は頭を下げた。
突然の行動に、彼女は呆気に取られた。
「アンダーソンさん……今まで、なかなか気にかけてあげられなくてごめんなさいね」
「…………先生?」
シーラは慌てて教師に顔を上げさせた。
幸い周囲に生徒たちはいなかったものの、いつどこに人の目があるかわからない。誤解を招くような行動はできるだけ避けるべきだろう。
頭を上げた彼女の瞳は、シーラに対する罪の意識でいっぱいになっていた。
「あなたが傷付いていることを知っていながら……私は何もしてこなかったわ。本当にごめんなさい、私は教師失格ね」
「……」
彼女のその言葉で、シーラは今までの地獄のような学園生活を思い浮かべた。
生徒会に入ってからはだいぶマシになったけれど、シーラは二年間もの間、罵声と孤独の中で過ごしていた。
教師たちが加害者を叱り、手を差し伸べていたとしたら、きっとあそこまでにはならなかったかもしれない。しかし、彼らは面倒事になるのを恐れて避けてきた。
今回の彼女の謝罪は、それら一連の件に対してだろう。
「すぐには信用できないかもしれないけど……これからは困ったことがあったら何でも言ってちょうだいね」
「あ、はい……ありがとうございます、先生……」
シーラが頷くと、女教師は感激したように彼女の手を握った。
目には薄っすらと涙が浮かんでいる。どうやら後悔しているというその気持ちは、嘘ではないようだ。
彼女を完全に信じるかは別として、今は一応信用してもいいのかもしれない。
――『新カード:“教師の責務”を手に入れました』
久しぶりに見た、三枚目のカード。
そこには王立アカデミーの証であるマントを羽織った人物たちが描かれている。
三枚目のカードを使うことで、きっと何かが動き出す。
証拠なんて何一つないけれど、シーラはそのことを確信していた。
***
――その日のお昼。
シーラはいつも通り、クレアたち生徒会メンバーと昼食を摂っていた。
「ロイド殿下が、教師たちを教育し直したですって……?」
「ええ、第一王子殿下から聞いたのよ。つい昨日、学園長様が教師たちを集めて会議を開いたらしいの」
昨日といえば、シーラがロイドに抱きしめられた日である。
今でもハッキリと記憶に残る彼の温もりを思い出し、彼女は顔を真っ赤に染めた。
「シーラ?どうかした?」
「い、いいえ!何でもないわ!」
教師と生徒が密室で不適切なことをしているとバレるわけにはいかない。
シーラは何とか誤魔化した。
そのとき意外そうに口を開いたのは、正面で食事をしていたアルヴィンだ。
「あの叔父上がそんなことをするだなんて驚きだな……そこまで育成に熱心な人ではなかったと記憶しているが……」
「そうね、最近になって教師の腐敗も目立ってきているようだし……この機会に一掃するつもりなんじゃないかしら?」
――腐敗した教師たちの一掃。
またしても、前世では起こらなかったことだ。
(何だか最近、前世と違うことが起きすぎていて困惑するわ……)
弁当を食べ終えたクレアは、焦ったような表情でドンッと机に手を置いた。
「それより!もうすぐ定期テストがあるでしょう!?私、今回は本気でダメかもしれないわ」
「クレア、そんなこと言っておいていつも良い点数取ってるだろう?」
「毎回二位をキープしてるアンタに言われても嬉しくないわよ」
シーラは恨めしそうにダミアンを横目で睨んだ。
二人が言い争いをするのは、特別珍しいことではなかった。
「私も、今回は絶対にいつも通りの順位取れない気がするわ……」
「シーラったら!あなたもいつも三位じゃない!」
クレアは拗ねたように頬を膨らませる。
そんな彼女にシーラは、今回は本当にダメそうと苦笑いした。信じていないクレアを励ますように、シーラは彼女の背中を撫でた。
「まぁまぁ、みんな……精一杯力を出し切れたらいいね……」
前世ほどの順位は取れないだろうけど、全力でやりきることが大切だ。
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!




