60 義母セレナの秘密
シーラはあまりのショックに、瞬きすることも忘れて侍女たちを見ていた。
アメリアが父の子ではない。彼女と長い間を共にしてきたシーラにとってそれは、到底すぐに受け入れられるものではなかった。
「……アメリアが、お父様の子供ではないですって?」
「……はい、お嬢様」
使用人たちはシーラに配慮しながらも、首を縦に振った。
シーラにとって、アメリアは決して仲の良い妹とは言えなかった。
しかし、幼い頃はまだ姉妹としてそれなりに良い関係を築いていたし、たった一人の血の繋がった妹だからと多少の我儘は我慢してきた。
「……そのような噂が立ったということは、何かそう思わせるような……根拠があるのよね?」
火のない所に煙は立たない。
アンダーソン家の使用人たちは、何の証拠もなく噂をするほど愚かではない。つまり、その裏には何らかの疑わしき事実があるということだ。
「アメリアお嬢様ではなく……母君であるセレナ奥様に関することです」
「セレナ……?」
現アンダーソン侯爵夫人――セレナ。
彼女は元々市井で暮らしていた平民だったが、アンダーソン侯爵オリバーと出会い、寵愛を得て愛人となった。
当時オリバーには妻がいたものの、大半の時間をセレナのいる別邸で過ごしていたと聞く。
シーラはまだ生まれていなかったが、母イザベラの日記を読んでそのことを知った。
「セレナ奥様には、旦那様と出会う前にお付き合いしていた方がいらっしゃったんです。それも旦那様と同じ、黒い髪のお方だったとか」
「黒い髪……」
黒髪はオルティネス王国では一般的なもので、特別珍しい色ではない。
紫色の瞳はアンダーソン家の者特有の色だが、黒い髪は違う。
「それと……旦那様がセレナ奥様と出会ったのは、イザベラ奥様のご懐妊が判明する一ヵ月前のことなんです」
「それって……」
わざわざ説明されずとも、シーラには彼女たちの言いたいことがわかった。
シーラとアメリアは学年こそ違うものの、時期で言えば五ヵ月ほどしか変わらない姉妹だった。
オリバーにとって第一子のシーラは二月に生まれ、二子のアメリアが生まれたのは七月だった。
(ということは……セレナはお父様と出会ってすぐに子供ができたってことになるわね……)
出会って半年で妊娠するだなんて、あまりにも出来すぎているのではないか。
使用人たちはそういった理由から、セレナを疑っているようだった。
「セレナ奥様は愛人だった頃から、旦那様の本妻の座を欲しがっていました。邸を訪れてイザベラ奥様に直接物申すことも多々あったくらいなので……」
「まぁ、あの人ならやっていても変ではないわね」
セレナはオリバーを愛しているというよりかは、平民から高位貴族のご夫人になりたかっただけだろう。
今でこそ侯爵夫人として高貴ぶっているものの、元々は夜の仕事で生計を立てていたようだし。
思い悩むシーラに、執事が罪悪感に満ちた顔で声をかけた。
「お嬢様……やはりこのような話は聞きたくなかったですよね?申し訳ありません……私がうっかり口を滑らせたばかりに」
「……言えと言ったのは私なんだから、気にしないでちょうだい」
知ったところで後悔するかもしれないと、心のどこかでわかりきっていた。
それでも何も知らないのは嫌だからと、知ることを選んだのはシーラのほうだった。
「……私はもう、あの人たちと必要以上に関わるつもりはないの。私の家族は亡くなったイザベラお母様と、ローガンお祖父様だけだから」
「お嬢様……」
アメリアを始めとした家族たちのことなど、シーラは気にしていなかった。
たしかに幼い頃は彼らに愛されたいと願っていた時期もあったけれど、前世の残酷な仕打ちを経験した後ではそのような希望は消えてなくなった。
「話してくれてありがとう。食べ終えたからそろそろ部屋に戻るわね」
「はい、お嬢様」
食事を終えたシーラは椅子から立ち上がり、晩餐室を出て行った。
衝撃的な内容ではあったものの、知ったことを後悔はしていない。この先あの人たちにどんなことがあろうと、シーラの気にすることではなかったからだ。
「疲れたし、ちょっとお風呂に入ろうかな……」
明日は、ヘンドリックに婚約の解消を伝えに行かないといけないし……。
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