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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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59 アメリアの秘密

アルヴィンとアメリアとの勉強会を終えたシーラは、馬車でアンダーソン家の別邸に帰っていた。



「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ええ、ただいま」



軽く挨拶を済ませたシーラは、そのまま勉強のために自室に入った。

三年目で着慣れた制服を脱ぎ、着替える。机の上に置いたカバンの中から勉強用具と教材を取り出した。



部屋の中にいた彼女の専属侍女が、にこやかに笑いながら声をかけた。



「お嬢様、テスト範囲が発表されたようですね」



シーラは毎回、テスト期間になると気合いを入れていた。

侍女を始めとした使用人たちの入室を許さず、食事も部屋に持ってこさせて十分以内に済ませるという徹底ぶり。



(あの頃は、勉強しかやることなかったからね……)



いくら周囲に認められたいからとはいえ、少々やりすぎだったと自分でも思う。結果的に良い順位を残せてはいたものの、父親やヘンドリックから褒められたことは一度もなかった。



今思えば、無駄な時間だった。

机に向かったシーラは、緊張感をほぐすように侍女に笑いかけた。



「そうね、でも全然話しかけてくれていいわよ?今回はそんなに本気で臨むつもりはないし」

「え、ほ、本当ですか……?」



すぐにでも部屋を出て行こうとした侍女は、驚いて足を止めた。振り向いた彼女の目は、大きく見開かれている。さっきの発言がよほど衝撃的だったようだ。

彼女は今までのシーラのテスト期間の過ごし方を知っていたのだから、驚くのも当然かもしれない。



「ええ……どれだけ頑張ろうと、手に入らないものってあるわよね……」

「お嬢様……?」



侍女は不思議そうに首をかしげたが、シーラは困惑させたくなくて説明はしなかった。

彼女は信頼に値する人だけれど、流石に拷問されて死んだことがあるなんて言われても信じられないだろう。



「ということで、二時間くらい復習したら晩餐室でご飯を食べようと思っているの。準備するよう、シェフに伝えておいてくれる?」

「承知致しました、お嬢様」



侍女は返事をしてお辞儀をすると、部屋を出て行った。

シーラは机の上でテキストを開き、ペンを手に取った。



「今世での勉強は一日数時間にしましょう。どうせ結婚したところで数学なんて役に立たないんだから」



それにシーラは元々頭が良いほうだ。

数時間も復習すれば、そこそこに良い順位を取れるだろう。



***



一通りの復習を終えたシーラは、夕食の席へと向かった。

広い晩餐室を一人で使うのは何だか勿体ないような気もするが、住んでいるのがシーラだけなため仕方がない。



(こんなにも夕食が美味しく感じるのは、久しぶりね……)



父や義母、アメリアがいたときと比べたらだいぶ気が楽だった。

アカデミーに通うために一人暮らしをしている貴族令息令嬢たちは何人かいるが、一人がこんなにも楽だとは知らなかった。



シーラは食事をしながら、今日あったことを侍女や執事たちに話していた。



「アメリアお嬢様は相変わらずのようですね。昔からあの方は少々、男性に対する距離感が異常でしたが」

「そうねぇ、アカデミーでもいつも何人かの男子生徒を引き連れて歩いているわ」



アンダーソン家の使用人たちは、アメリアやシーラが生まれる前から仕えている者が大半である。

そのため、彼らはシーラ以上にアメリアのことを知っていた。



(アメリアがあの一件を仕組んだ黒幕かもしれないってのは驚いたけど……)



正直、アメリアならやっていてもおかしくはないと思ってしまう自分がいる。

血の繋がった妹を犯人だと疑うだなんて最低な行為ではあるけれど、考えれば考えるほど彼女なら……という結論に繋がってしまう。



アメリアの話題になり、執事がそういえばと口を開いた。



「アメリアお嬢様と言えば……あの噂は本当なのでしょうか」

「……噂?」



シーラは彼を見上げた。アメリアに関する噂だなんて、彼女は初めて聞いた。

傍で聞いていた侍女の一人が、新人執事の失言を咎めた。



「ちょっと、シーラお嬢様の前で何を言っているのよ!」

「も、申し訳ありません……」



執事はビクリと肩を上げ、すぐに謝罪した。

しかし、シーラはその話を聞き逃さなかった。



「ねぇ、その噂って何のこと?」

「お、お嬢様……」



シーラの視線に、使用人たちは狼狽えた。

彼女は失言をしてしまった執事たちを安心させるように、柔らかい声で言葉を継いだ。



「大丈夫よ、誰かに話したりしないから……むしろ隠されていたほうが、余計に傷付くわ」



晩餐室にいた三人の使用人たちは、お互いの意を探るように目を合わせた。

三人の意見が合致すると、最も歴の長いベテラン侍女が観念したように口を開いた。



「アンダーソン家に仕える使用人たちの間で、昔から囁かれている噂があるんです……」



なぜか、この場にいる全員が居心地の悪そうな顔をしている。よほど、話すのがはばかられる噂なのだろうか。彼女には想像もつかなかった。



張り詰めたような空気を破るように、侍女は続けて言葉を発した。



「―――アメリアお嬢様が、旦那様の子供ではないのだと」

「……………何ですって?」



それは、アメリアを妹だと信じてきたシーラにとっては衝撃的な話だった――




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