6 腹違いの妹
アメリア・アンダーソンはアンダーソン侯爵家の次女であり、シーラの腹違いの妹である。
シーラと同じ、父親譲りの黒い髪と母親から受け継いだ美しい赤色の瞳を持つ明るい美少女である。
年齢はシーラの一つ下で、彼女と同じ王立アカデミーの第二学年だ。
アメリアはその純真無垢な性格と人当たりの良さで、周囲からはかなり好かれていた。
「お姉様」
華奢で可愛らしい少女が、扉から顔を覗かせた。
シーラと違って愛想が良く、父もアメリアのそういうところを好いているのだろう。
姉妹ながらにあまり似ているところが無く、正反対だとシーラはずっと思っていた。
「お姉様、今日は体調が悪いって聞いたから……心配で来たの」
「……そう、もう平気だからあまり心配しないで」
そんな風に心配しているのは、きっとあの中でアメリアだけだろう。
父と義母は何とも思っていないに違いない。彼女のそのような気持ちは、シーラにとってはむしろ迷惑だった。
アメリアは仲の良い両親から生まれ、たくさんの愛情を受けて育った。
そんな彼女に、シーラの気持ちを理解することは絶対にできない。そんなこと、最初からわかりきっていた。
――私たちは立場上、絶対に相容れないのだ。
「お姉様、明日の晩餐会には出席できるわよね?」
「………さぁ、どうかしら」
「そ、そんなこと言わないでお姉様!お姉様も私たち家族の一員なんだから!」
家族の一員という言葉を聞いたシーラは、おかしくて笑いそうになってしまった。
家族として扱ったことなんて一回も無かったくせに?
「……お姉様がお母様や私を受け入れれば、家族みんな幸せでいられるのよ」
「……」
義母やアメリアを受け入れるだなんて選択肢は、シーラには無かった。
(私にあんな仕打ちをしておいて、よくもそんなことが言えるわね?)
シーラとアメリアも、昔からギスギスしていたわけではない。
幼い頃は彼女も、アメリアを受け入れようとしていた時期があった。
実の母親が亡くなり、その一年後には父が新しい母親と腹違いの妹を連れて侯爵邸へやって来た。
シーラは困惑したが、彼女の意思など関係なく彼らはアンダーソン侯爵家の一員となった。
義母は彼女を視界に入れることを嫌い、日中は部屋から出てこないようにと命じた。
彼女が住んでいた豪華な部屋はアメリアのものとなり、シーラは隅にある使用人の部屋へと追いやられた。
それだけでは足りず、明らかに少ない量の食事を出されたり、真冬の凍えるような夜の日に締め出されたりもした。
虐待とも呼べるその行為は、いつも決まって父親がいないときに行われた。
シーラは身も心も限界だったが、そんなときにいつも優しくしてくれたのが異母妹のアメリアだった。
『シーラお姉様!』
『アメリア……?』
腕に大きなアザを作ったシーラを見たアメリアは、悲しそうに目を伏せた。
『お母様ったら……またお姉様にキツく当たったのね』
義母は娘のアメリアがいる横で平然とシーラを虐待しており、彼女もその場面を今まで何度も目撃していた。
アメリアは義母のように、シーラを毛嫌いしたりしなかった。むしろいつも気にかけ、姉として慕っていた。
そんな彼女のことをシーラも好いており、義母の目の無いところで勉強を教えたりもしていた。このときはまだ姉妹仲はそれほど悪くはなく、むしろ仲が良かったと言えた。
そんなシーラとアメリアの関係は、ある日を境に一変することとなった。
『――お父様、私お義母様に虐待されているんです』
義母による虐待で限界を迎えたシーラは、その事実を父親に打ち明けた。
彼女がここへ来たときからずっと、父のいないところで義理の母親に虐げられていたということ。彼女が初めて、父を頼った瞬間だった。
父は信じられないというような顔をしながらも、念のため義母を問い詰めた。
『……それは本当か、セレナ』
『旦那様、私は神に誓ってそんなことしておりません!』
当然、義母は虐待を否定した。そりゃあはいやりました、なんて簡単に認めるはずがない。
問題はそのあとだった。
シーラと義母セレナ、どちらが本当のことを言っているか父にはわからなかった。そのため、彼は判断に迷ってしまったのだ。第三者の証言があれば真偽がわかるだろうに――
そんな彼の心情を、アメリアも察したのだろう。
彼女は父親の前に出ると、口を開いた。
『お父様――お姉様は嘘をついています』
『……アメ……リア……?』
アメリアは父親の正面で、続けて証言をした。
『お母様はシーラお姉様を虐待したことなんてありません』
『……』
――どうして?
シーラは呆然と、姉は嘘つきだと言い放ったアメリアを見つめていた。嘘をついているのはシーラではなく、アメリアの方だった。
アメリアは母親によるシーラへの虐待を、その目でしっかりと見ているはずだった。
それなのに、何故そんな嘘をつけるのだろうか。
『ほら旦那様!アメリアもそう言っているではありませんか!やっぱりこの子が嘘をついているんですよ!私のことが気に入らないからって!』
『………そのようだな』
父親はギロリ、と蔑むような目をシーラに向けた。
『いくら新しい母親が好きではないからといって、そんな嘘をつくとはな』
『お父様……私は……』
この一件を機に、二人の姉妹仲は崩壊し尽くした。
元々無関心だった父親から呆れられるようになったのもまた、この日からだった。
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