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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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56 勉強会

前世、シーラはアカデミーを卒業してからすぐにヘンドリックと結婚し、レイヴィス公爵夫人となった。

そのため、アンダーソン家の人たちのことはあまりよく知らない。



シーラがレイヴィス家に嫁いだのだから、きっとアメリアの方はアンダーソン家を継いでいたはずだ。

彼女はシーラに比べれば血筋は劣っているが、アンダーソン侯爵家の血を受け継いでいることに違いはない。それに、義母セレナの性格を考えれば何が何でもアメリアに家を継がせようとしているだろう。



そのような結末をわかりきっていたからか、シーラは結婚後出来るだけアンダーソン家のことは耳に入れないようにしていた。

自分を長年虐げていたあの三人が、幸せになっているのだと知るのは心苦しかったから。



(前世のことが気になるわ……私が亡くなったあと、ヘンドリックやデイジー、アメリアたち家族は一体どのような生活を送っていたのかしら……)



考えたところで答えは出てこないし、どうしようもないことだとはわかっている。しかし、シーラはどうしても深く考え込んでしまっていた。



その日の放課後、シーラはアメリアとの約束の場所であるアカデミー内の図書室を訪れていた。



(ダミアン様が言っていた護衛って……)



彼女はすぐ隣に立つ長身の男子生徒を見上げた。



「いらっしゃいお姉様……って、どうしてアルヴィン殿下までいるんですか?」

「アメリア嬢、初めまして。いや、初めましてではないかな」



シーラをアメリアから守る護衛――第二王子アルヴィンはニッコリと人当たりの良い笑みを浮かべて挨拶をした。

いや、一国の王子を護衛扱いするって失礼すぎない?シーラは心の中でダミアンにツッコんだが、当の本人アルヴィンはそのことを全く気にしていないようだった。



まぁ、本人が不快に思っていないのならいいか。シーラはそう結論を出して気に留めないことにした。

アメリアは彼らの思惑になどまるで気付かず、突然の王子の登場に目をキラキラさせた。



「まぁ……アルヴィン殿下が私のために来てくださるだなんて、とっても嬉しいですわ」

「そうだな、俺も君に会えて嬉しいよ」



本当はアメリアのためではないのだが、彼女は元々自分に都合の良いように物事を捉える人間だ。アルヴィンが自分のために来てくれたのだと信じて疑っていない。



(羨ましいわ、私もそういう思考だったらもっと幸せになれたのかしら)



アルヴィンはアメリアを颯爽とエスコートし、図書室内の椅子に座らせた。

ちょうど生徒たちは誰もおらず、室内にいたのはシーラたち三人だけだった。ダミアンがそうなるように仕向けたのだろうか、それともただの偶然か。



「さぁ、シーラ嬢も早く座って。勉強会を始めよう」

「……!そうですね」



立ち尽くしていたシーラに、アルヴィンが声をかけた。

我に返った彼女は慌てて彼の隣の席に腰を下ろした。シーラがアルヴィンの隣を陣取ったのが気に入らなかったのか、アメリアは一瞬だけぶすっとした。



彼女はカバンの中から教材を取り出すと、机に広げた。



「あのアルヴィン殿下に勉強を教えてもらえるだなんて私はとっても幸せです!」

「そうか、そんな風に思ってもらえて嬉しいな」



表では笑っているものの、彼を長く見てきたシーラには、その笑みが本心ではないことがすぐわかった。

シーラはそんな彼の横顔をじっと見つめていた。



「どうかしたか?シーラ嬢」

「あ、いえ……何でもありません」



目を逸らして狼狽えていると、アルヴィンが君らしくないなと笑った。

その笑顔は、ついさっきまでアメリアに向けていた偽りの笑みではないように思えた。



シーラが思っていた以上に、幼馴染の絆というのは強いらしい。

彼は他人に簡単に心を許すような人ではないが、幼少期から時間を共にしたシーラは特別なのだろうか。



それからすぐに、シーラたち三人による勉強会は始まった。

主にアメリアの勉強をアルヴィンとシーラが見る……という形ではあったものの、もはや彼女はシーラになど関心がない。

ここぞとばかりに王子であるアルヴィンにすり寄ろうと、体が完全に彼の方を向いていた。



「殿下ぁ、ここがわからなくて……」

「あぁ、これはだな……」



ほぼ全ての問題をわからないと丸投げするアメリアに、アルヴィンは丁寧にわかりやすく解説をしていた。彼に夢中になっているアメリアをよそに、シーラは完全に空気となっていた。



(まぁ、普段王子と関われる機会なんてないから仕方ないのかしらね……)



王子という存在は、この国にいる女の子ならば誰もが憧れるものである。アメリアの気持ちが理解できないわけでもない。

大人しくしてくれるのなら、アルヴィンに媚びを売っていたところでかまわない。



――だが、アメリアは彼相手に一線を越えた質問をしてしまうのだった。



「ところで……アルヴィン殿下は、彼女さんとかいらっしゃいますか?」

「…………彼女?」



ペンを握っていたアルヴィンの手が、ピタリと止まった。

アメリア、もしかしてあの噂を知らないのか。シーラがマズいと思ったときには、全てが遅かった。



「……恋仲と呼べる令嬢のことか?特にはいないな」

「えぇ、アルヴィン殿下ったら。誰か気になるお相手でもいるんですか?」



アルヴィンの黒い瞳が、悲しそうに伏せられた。長い睫毛が目にかかっているせいか、いつもよりも瞳が暗く淀んでいるように見える。



「気になる相手……か」



アルヴィンの愛する女性は今も昔もただ一人だった。

彼はヘンドリックの元婚約者のことを未だに忘れられず、婚約者すらいない。

そんな彼に、心の傷を抉り出すようなことを聞くとは。



「いらっしゃらないんですか!?なら、今度私とどこか遊びにでも行きましょうよ!私と遊ぶと楽しいですよ!」

「……」



楽しそうなアメリアとは対照的に、アルヴィンの顔は終始引きつっていた。



シーラは妹を諫めることもできず、ただただアルヴィンに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



読んでくださってありがとうございます!


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