53 テスト範囲発表
波乱万丈なダンスパーティーが終わり、前学期定期テストの時期となった。
その日、シーラは祖父ローガンから届いた手紙を読んでいた。
手紙には、シーラの身を案じる言葉とヘンドリックとの婚約破棄の進捗状況を尋ねる文が書かれていた。
祖父はなかなか会いには来れないものの、いつもシーラのことを思っているのだ。
「そうだわ、ヘンドリックに婚約破棄のことをきちんと言わないと」
パーティーの準備に追われていて、すっかり忘れていた。
そしてダンスパーティーが終わったすぐ後には、前期のテスト期間に入る。
「時間って、思ったより無いのね……」
生徒会メンバーにもなったことで、前世よりも彼女が自由に使える時間は限られていた。
(いつまでも同じことで悩んでるのは時間がもったいないわ、一つずつしっかりと解決していかないと)
そう思ったシーラは、今日ヘンドリックに婚約破棄の件を伝えることを決めた。
彼は自分に婚約破棄を告げられたことでプライドを傷付けられるかもしれないが、お互いに好きでもない相手と結婚するよりかはマシだろう。
オルティネス王国では、未成年者の婚約解消には親族の同意が必要となる。
父オリバーなら絶対に認めなかっただろうが、今世では祖父ローガンという心強い味方を得ることができた。同意は何も、父親でなくともいいのだ。
祖父には事前に連絡を入れているし、婚約解消はスムーズに行われるだろう。
シーラは学校へ行く準備を終えると、カバンを持って外へ出た。
「行ってくるわ」
「お嬢様、いってらっしゃいませ」
使用人たちに挨拶を済ませ、馬車に乗り込んだ。
今日はちょうど、定期テストの範囲が発表される日だった。そのせいか、学園にいる生徒たちの表情が暗くなっている。
楽しい楽しいダンスパーティーの後に来る定期テストほど、憂鬱なものはないのである。
「おはようございます」
「ア、アンダーソン令嬢……おはようございます……」
生徒会のメンバーになったからか、シーラを無視する生徒はほとんどいなくなった。
それでも好かれているというわけではないが、挨拶すら返されなかった前と比べればかなりマシになった。
あのダンスパーティーでは生徒会メンバーに加えてヘンドリックとも踊ったせいか、シーラは今アカデミーで話題になっていた。
そんな彼女が登校すれば、注目を集めるのは至極当然なことだった。
教室がある棟の中へ入ると、廊下の中央に大きな貼り紙が貼られ、人だかりができていた。
どうやら定期テストの範囲が発表されたようだった。
(……内容は知っているから、いちいち見るまでもないわ)
シーラにとっては二度目なので、特に気にもならない。
彼女は前世で、少しでもヘンドリックに自分を見てもらいたくて何よりも勉学に力を入れていた。学校へ行く時間以外のほとんどを勉強に当て、期間中は部屋からも出なかった。
それでも第一位のヘンドリックと、二位のダミアンを超えることはできなかったが。
(前世では、第三学年の前学期のテストは史上最悪の黒歴史になったわね……)
思い出すことすら憚られるほどの苦い記憶が、そこにはあった。
シーラは大体のテストでヘンドリックとダミアンの次の順位を維持していた。もちろん下がってしまうときもあったが、それでも常に上位をキープしていた。
勉強はシーラにとって、唯一の誇れるところだった。
いくら性格が悪いだの婚約者から愛されないだの言われようと、そのことだけは誰かに何か言われる筋合いは無かった。
しかし、三年の前期の定期テスト、彼女は最大の屈辱を受けることとなる。
――何と、ヘンドリックの浮気相手のデイジーよりも順位が下だったのだ。
それに加えて八位という今まで一番低い順位を記録してしまい、彼女は結果発表の紙を前に羞恥で体を震わせていた。
一位にはいつものようにヘンドリックの名があり、その下にダミアンを始めとした生徒会メンバーが続き、何と七位にデイジーの名が記載されていたのだ。
見間違いだと思い、何度も確認した。
いつもトップ十にすら入っていない彼女が、何故突然そこまで順位が上がったのか。
『まぁ、何てこと……』
『いつもあんなに偉そうにしていたくせに……良い気味だな』
周囲はシーラを嘲笑し、ヘンドリックまでもそれに乗った。
『デイジー、よくやったな』
『えへへ、ヘンドリック様が勉強を教えてくれたおかげですよ』
『それでも、七位というのはすごい――どこぞの口先だけで大した実力も無い高位貴族の女より上だしな』
彼からチラリと向けられた視線に、シーラは耐えられなかった。
彼女は怒り任せに、デイジーを公衆の面前で罵倒した。
『――アンタ、不正したんでしょ!!!』
『ど、どうしてそんなことを言うんですか!?』
彼女はもう何度目かもわからない醜態を人前で晒し、あの一件でシーラは学園内でさらに立場を失くすこととなった。
ヘンドリックは証拠も無くデイジーを貶める発言をしたシーラに厳罰を求めたが、結局身分が高すぎるゆえか、学園長は彼女に何の処罰も下さなかった。
(……今思えば、くだらないことでみっともない姿を見せていたのね)
今世では、絶対にそのような真似をするつもりはない。
何より、今はテストで八位を取ろうがキツく叱ってくる人はいないのだ。
別に何位でもいいではないか、努力したのなら。結果よりも過程が大切である。
シーラは範囲発表の紙の前を通り過ぎ、そのまま教室へ向かおうとした。
そのとき、廊下に明るい声が響いた。
「――あ!やっと見つけた!」
「………?」
明らかに自分に向けて放たれたその声に振り返ると、そこにいたのは―――
「……………アメリア?」
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